(前回からのつづき)
ここがちょっとしたピークらしく、この先は下ることになる。
ずっと登りだと思っていただけにこれは予想外。
しかも途中で雪が崩れて地面が露出しているところもある。
下ったあとは登り返し。
登り返しのところは完全に雪がなくなっていた。
本来の登山道らしく、木段が剥きだしになっている。
アイゼンをつけたまま木段を登る。
足を引っかけて転んだらシャレにならない。
過去に何度か経験があるので慎重になる。
一歩一歩足をあげて登る。
「もしここが雪に埋もれたままだったら登れたか?」
そう思うほど急な斜面。
木段のありがたみを感じる。
キツイけど確実に標高を上げることができるからだ。
「やっぱり雪がない季節に来た方が良かったか?」
一瞬、頭によぎる。
けど、ここを過ぎれば山頂はそう遠くはないと思い進む。
そして尾根に出た。
「難所を越えたか?」
地図を見ると実際、山頂まで遠くない。
安堵したのもつかのま、突如目のまえに再び急斜面が現れた。
今度は木段などない。
完全な雪の急斜面だ。
「これは…」
「ピッケルは持ってきていない…」
山頂までは100mほど。
「ここで撤退するか?」
しばらく考える。
「とりあえず登ってみよう」
今まで以上に時間をかけて一歩一歩ステップを切る。
雨で水分を含んだせいか、体重をかける前にズルッとしてしまうことも。
なかなか足場が作れない。
むしろ思いっきり雪深い方が良かったのではないか?
そう思いつつ、気づけば無心になって登っている。
途中にある枝を掴んだりする。
ひと呼吸して再びステップを切る。
どのくらい時間がかかったろうか?
この10数m進むのに30分はかかったと思う。
実際はもっとかかったかもしれない。
とりあえず登りきった。
「もうここまで来れば山頂はすぐだ」
その言葉通りに山頂はすぐだった。
「やった、登頂だ!」
その言葉とは裏腹に山頂はあまりにも素っ気なかった。
登った喜びもない。
空はどんよりとした雲に覆われている。
眺望もなく雪の中に1本の標柱が立っているだけの景色。
「あれ?他の登山者は?」
ここまで来るのに他の登山者には会っていない。
だけど少なくとも2組は来ているはず。
追い越したとは思えない。いや、絶対にない。
考えられるのは違うルートを辿っているということ。
「途中までは同じトレースを辿っていたのに」
山頂には間違いなく新しい足跡が残っている。
どこでどうなったのか?
写真を撮って少し休憩。
3つ目のミニクリームパンを食べた。
雨は降っていないものの風が出てきた。
「長いは無用、下山しよう」
登ってきた道を戻る。
帰りは一度、通ってきたところなので迷う心配はない。
その分、気が楽だ。
そして山頂ちかくの急斜面まで戻ってきた。
「えっ?」
「ここを登ってきたのか?」
その光景に驚いた。
分かってはいたけど同じ斜面でも見上げるのと見下ろすのでは全然違う。
身長の分だけ目線が高いからだ。
「いや、無理だろここを下りるのは・・・」
それはもう、ひと目見ただけで分かるほど。
「少しでも緩やかな尾根に進もう」
そう思い、斜面を真横に横切るように足を出した。
真横にステップを切るのは登り以上に難しい。
シャリシャリの雪とまではいかないが、水分を多く含んでいる。
全然締まらない。
「あっ!」
一瞬だった。
ホント、一瞬だ。
気づいたときには身体が斜面に打ちつけられて滑っていた。
止めるなんて絶対に無理。
どんどんそのスピードが加速していく。
意識はハッキリしていた。
自分が斜面を滑っていくのが分かる。
もうコントロールは効かない。
ただただ、木や岩に激突しないのを祈るだけだった。
どこまで落ちるのか?
・・・。
・・・。
最後は転げて止まった。
数秒だったかもしれないし、数10秒だったかもしれない。
恐怖の分だけ長く感じた。
「とりあえず止まった・・・」
そして今自分は生きている。
(つづく)
動画「三上山 ~近江富士に登る~」公開
YouTubeチャンネル:としの山行記









