"彼女"との日々 -4ページ目

指輪

その後も幾度か逢瀬を重ね、秋も終わりに近づいた。




ぴーちは仕事を始めた為、頻繁には会えなくなっていた。




距離もあったので、月に一回程度。




時間も二時間程度が限界となり、お互いに寂しさを感じていた。




我慢が多いからか、会えば彼女は泣き出してしまう日すらあった。




仕事と家事に忙殺される彼女からの返信は、次第に減っていった。




それでも こちらの事だけでも知らせようと、私からの日々の出来事や「お疲れさま」のメールは欠かさなかった。




季節は冬に入ろうとし、ぴーちの誕生日が近付いてきた。




何かしらプレゼントしたいと思うものの、お互い既婚者。




下手に形に残る物は避けたい…が、目に見えるものが欲しかった。




自分自身が、目に見えないものを信じきれないからだろう。




彼女を自分に縛り付ける、「何か」が欲しかったのだ。




それでも立場があり 悩んだあげく、思い付いたもの…




やはり「指輪」だった。




しかし、彼女は どう思うのだろう?




普通に考えれば、困るのはわかってる。




しかしどのみち、買うとなったらサイズを聞かなければならない。




意を決して聞いてみると…




「ホントに!?




うれしいけど…いいの?」




「いいよ。




時間の都合も大変なのに、会ってくれるんだし…




オレがあげたいんだから、受け取ってくれたら嬉しいかな(笑)」




存外 あっさりと受け入れられ、指のサイズも聞いた。




薬指。




翌日にはTIFFANYに足を運び、小さなダイヤの入ったハートか、YGのトリニティハート。




選びきれず、聞いてみるとダイヤを選んだ。




すぐにショップに連絡し、確保してもらう。




ぴーちの誕生日は、目前にきていた…

ちゃんと好きだよ。

そこからは加速度的だった。




当日のことはお互い日記に書き、二度目に会う約束も取り付けた。




会える日まで毎日メールをやりとりし、時間が合えば電話を繰り返していた。




前の"彼女"と別れてから二ヶ月。




自分でも 現金なものだな…と感じていたが




「忘れる為には新しい恋が一番なんだ」と、言い聞かせた部分もあった。




誰かに寄りかかりたかったから。




ぴーちを支える事が、自分自身を支える事にも繋がっていたから。



そうして、再度 彼女の住む町へ。




こちらの車に乗り換え、少し 辺りを流す。




前回と違ったのは、会ってからずっと 手を繋いでいたことか。




適当なところで車を停め、他愛のない会話をする。




会話の合間に訪れる沈黙は、唇を重ねる事で埋めた。




そんな時間は早く過ぎてしまうもので、彼女は帰らなければならなくなった。




別れ際、ぴーちは困った顔で




「あぁ~もう…




もっと割り切るつもりだったのに…




離れんの、ヤだよ…」




「仕方ないって、お互い家庭あるんだから…




また、すぐ会えるから…ね?」




そうしてまた、唇を重ねる。




「お互いの立場が立場だし、こんな事 言うのもおかしいのかも知れないけど




オレ、ぴーちの事 ちゃんと好きだから。」




「うん…




あたしも…」




お互いの気持ちを口に出してしまった事で、何かのタガが外れる音がした。




あの日の二人は、もう 遠い…

彼女のもとへ

ここから便宜上、私を【マリオ】、彼女を【ぴーち】とさせて頂きます。











会うこととなった当日。




ちょっと出掛けると言って家を出ると、ぴーちのもとへ向かう。




片道で二時間ちょっとかかる道のりを走り、待ち合わせの場所へ。




迷いながらも到着すると、待ち合わせた時間より三十分ほど越えていた。




既に待っていたぴーちを見つけ、改めて挨拶。




人目につきやすい場所だった為に移動し、車の中で二人になり…




そうなってしまうと、意外と何を話そうかと 無言になってしまうもので




お互いが顔を見合わせ、ぴーちは何度も照れくさそうにはにかむ。




話したいことなど、いくらでもあった筈なのに…と考える中、一つの約束を思い出した。




会ったらギューってしてくれる?との彼女の問いかけに、私で良ければ と答えていたのだ。




「えっと、約束もしてたし…おいで?」




と、私は腕を広げる。




ぴーちも思いだしたのだろう。




「うん…」




と、身体を私に預ける。




暫くそのまま抱き合い、ぽつりぽつりと会話を重ねる。




身体を重ね合わせたことで、ぴーちも私も 少し気分が盛り上がる。




「…どうしよっか。」




「うん…」




私はそこで止まっていた。




そのまま関係を進めてしまおうかという思いは、間違いなくあった。




文字の世界を抜け出て、現実として"彼女"は私の腕の中にいたのだから。




それでも、私は葛藤していた。




「…ヤりたくないったら、それは嘘んなる。




…けど、キチンと気持ちを入れられる相手とじゃなきゃ、そういう事したくないんだ。




それに、まだ ぴーちの事は何も知らない…




少しずつ、時間かけてさ。

納得いったら、エッチしようよ。」




「うん…そうだね。




意外とマジメなんだね(笑)」




「見た目も中身も、マジメな筈なんだけど(笑)




ちょっと体勢 変えよ?




カッコつけといて、このままだと我慢できる自信もないし(笑)」




「笑」




一旦 身体を離し、手は繋いだままで会話を続ける。




メールでのやりとりの中、「会えばハッキリするよ」と、聞かずにいた事を訪ねてみた。




「最近ね…、いつもマリオのこと考えるの。




これって恋でしょーか?」




…と、聞かれていたからだ。




「ねぇ、そんな事を聞いてきてたじゃない?




どうだった?(笑)」




「…恋でした(照)」




この日から、彼女は私の心の中に住み着いた。




少しでも、彼女が私にとっての「特別」になりかけた一日だった。