スーパーマン(2025)
※ネタバレなし
【弱さから親しみへ】

心理学的には、相手に「自分の弱み」を見せることが打ち解けるための手っ取り早い方法と言われます。
「自己開示」と呼ばれる方法論です。
だから映画でも、主人公の「弱み」をどのように演出し、観客に親しみを抱いてもらうかが重要なポイントとなります。
さて本作、いかにして主人公「スーパーマン」の弱みを演出するのでしょうか。
・・・弱み、あります?
なにしろスーパーマンです。ジェット機より早く飛び、銃弾さえ弾く「鋼鉄の男」。
主人公とするに、余りにも難しい題材。
強すぎるヒーローに、感情移入させることは難しい。
直前の「マン・オブ・スティール」(2013)においては、そんな無敵のスーパーマンの設定を守りつつ、ピンチを演出するため「異星の要素」を大量投入しました。
スーパーマンが苦手とする異星の鉱物「クリプトナイト」、同郷という背景からスーパーマンと拮抗する能力を持つ「ゾッド将軍」。
そのようにして構築された「マン・オブ・スティール」はスーパーマン=カル・エル個人のドラマとして誠実な作品であり設定面でのつじつまもしっかり合ってはいたものの、地球由来の要素が蚊帳の外に置かれてしまい、どこか「人間目線」が離れてしまったような印象を受けました。
【ネット世論と現代性】

翻って本作、スーパーマンの無敵の身体能力という設定を守りつつ、彼の精神面にフォーカスすることで「弱さ」を掘り下げ、人間目線の「親しみ」を抱かされることに成功しています。
本作の悪役、レックス・ルーサーはネット世論を先導し、スーパーマンの悪評をばらまくことでスーパーマンの「メンタル」を追い詰めます。
そもそも、スーパーマンは異なる星からの来訪者。地球においては孤独の存在であるわけですから「世間の評判」に敏感になるのも無理からぬ話。説得力ある展開です。
スーパーマンの無敵の身体能力という設定を守りつつ、「精神的側面」からピンチを演出することで彼を「人間的」な存在として描きつつ、「現代性」まで描き切る本作のシナリオは実にスマートです。
【シンプルな戦闘をどう盛り上げる?】

さて、スーパーマンという題材にはもう一つ弱点があります。
空を飛ぶ、超怪力・・・
余りに王道でシンプルすぎる戦闘スタイルのせいで、バトルの演出が難しいという点。
しかし、その点も工夫でしっかりカバーされます。
グリーンランタン、ホークガール、ミスター・テリフィック。スーパーマンの仲間として登場する「ジャスティス・ギャング」の面々の個性的な戦闘スタイルが投入されることにより、逆説的にスーパーマンのシンプルな戦闘スタイルが際立つ。
現代性を有する革新的な作劇、親しみを与える演出、華やかな戦闘。
DC新シリーズ開幕にふさわしい痛快な傑作の登場です。


