潮風の吹く早朝、烈馬はいつものように屋台の準備をしていた。
鍋を火にかけ、木箱から野菜を取り出す。手際よく布巾を絞って台を拭いていると、ふと背後から名を呼ばれる声がした。
「……烈馬!」
不意に耳に届いたその呼び声に、彼の手が止まった。
振り返ると、遠くから走ってくる男の姿があった。くせのある髪、浅黒い肌、そしてどこか懐かしげな眼差し――ルイスだった。
「お前が屋台を始めたって聞いてな……驚いたよ」
烈馬は眉をひそめる。「お前、どこに行っていた」
「各地を転々とな。……実は、お前の力が借りたくて戻ってきたんだ」
そのときだった。
「……ミゲル。ミゲルなのね!」
屋台の脇道から戻ってきたマリアが、買い物袋を片手に立ち尽くしていた。
彼女の目が大きく見開かれる。目の前にいるのは、ずっと探し続けた弟、その人だった。
「ねっ、姉さん……なんでここに……」
ルイス――いや、ミゲルは動きを止め、息を呑む。
マリアは荷物を地面に落とし、ゆっくりと彼に歩み寄る。
「ずっと……あなたを探してたのよ」
烈馬は静かに屋台の火を弱め、ふたりの再会を見守った。
ミゲルの口元が揺れる。「父が……亡くなったと聞いて、帰るべきか迷っていた。でも……一年だけ猶予がほしい」
マリアは戸惑いながらも頷いた。「その理由を、聞かせて」
ミゲルは頷き、視線を烈馬に向けた。「わかった!烈馬も一緒に聞いてくれ。」
烈馬は静かに頷き、屋台の椅子をひとつ差し出した。
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🔍考察:再会の光と、それぞれの覚悟
本章「再会の光」は、探し続けていた者との再会、そしてその瞬間に芽生える新たな葛藤と希望を描いた重要な転機です。
烈馬、マリア、ミゲル――三人の感情が交錯するこのシーンでは、「過去」「現在」「未来」が一つの屋台の前に集約されます。
ミゲルの登場は、これまでの“探索の旅”に一区切りをつけると同時に、新たな対立と選択の始まりを告げるものであり、彼が烈馬の力を必要としていることから、彼自身もまた“信じるもののために戦う者”であることが暗示されます。
一方、マリアにとってはこの再会が“探す者”から“理解する者”へと移る瞬間であり、彼女の決意にもまた変化が芽生え始めていることが窺えます。
烈馬は静かにそれを受け止め、支える存在として屋台という「場」を守り続ける。三人がようやく交差したこの一幕は、今後の思想、信仰、使命をめぐる大きな選択への布石でもあります。
次章では、ミゲルの語る「一年の猶予」が何を意味するのか、そして烈馬たちはどのようにそれに向き合っていくのかが描かれていきます。
