『裏天正記』マカオ編 第12話「偽りの名、消えぬ面影」 | ゆうがのブログ

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世の中辛いよね。なんで辛いのかその理由がわかれは少しは、楽になるかも。そんなブログです。
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港風に香辛料の香りが交じる頃、屋台には今日も“ミゲル”を知るという者たちがやって来た。

「昨夜、北の埠頭でそんな名の男を見たよ」 「いや、教会の南門に似た男がいた」

だが、顔、背格好、声――どれも確かではない。

マリアは料理をかき混ぜる手を止め、深いため息をついた。

夜。屋台の片付けが終わり、人通りが途絶えた港道をふたりで歩く。

「また……違ったわ」

「焦るな。名が同じでも、あの男のように歩く者はおらぬ」

烈馬の声は低く、静かだった。

マリアはその言葉に目を伏せ、かすかに笑った。

「あなたと出会っていなければ、私はきっとこの国の空気さえも憎んでいたと思う」

「……」

「でも今は……この風の中にも、弟の痕跡を感じられるようになった」

マリアの横顔に、烈馬は何も言わず視線を向けた。

異国の夜、その灯に照らされた影がふたつ、静かに寄り添う。


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🔍考察:偽名の下に眠る本当の想い

この章では、“ミゲル”という名にまつわる多くの噂がもたらされる中で、烈馬とマリアが“名前”ではなく“本質”を見るようになる過程が描かれます。

烈馬の「名が同じでも、あの男のように歩く者はおらぬ」という台詞は、彼自身が人を見極める際に“情報”だけでなく“眼”と“感覚”を使っていることを示しています。忍びとしての技術だけでなく、彼の人間性がこの一言に表れているのです。

また、マリアの「あなたと出会っていなければ……」という告白は、彼女の中で烈馬が単なる協力者ではなく、“心を預けられる存在”へと変わり始めたことを暗示しています。

“偽名”は情報を曇らせるが、人の“在り方”は隠せない。 この章は、そんな静かな真実を伝えるとともに、ふたりの距離が確実に縮まっていることを象徴する回となっています。

港を歩くという動きのない場面にこそ、最も大きな心の移動がある――そう感じさせる一章です。