『裏天正記』第2章 第6話:神の教えと静かな侵略  | ゆうがのブログ

ゆうがのブログ

世の中辛いよね。なんで辛いのかその理由がわかれは少しは、楽になるかも。そんなブログです。
信じるか信じないかは、あなた次第です!

教会――それは異国にあって、唯一静寂をもって人心を縛る建物だった。

草の一行は、夜陰に紛れ、マニラ旧市街の教会跡地に潜入していた。
宣教師たちが「学び舎」と呼ぶその場所は、子どもたちが集められ、言葉と歌と祈りを“教え込まれる”空間だった。

白壁の回廊には、淡く香のする蝋燭が灯されている。
部屋の奥では十数人の子どもたちが、ロウソクの火に照らされながら小声で復唱していた。

「サン・ペドロに祈りましょう……サンタ・マリア……」
「主に従いなさい。主に従えば、楽園が訪れます」

言葉の意味をわかっている者はいない。
だが、唱えることが“褒められること”だと、彼らは知っている。

草の一人・霞が息を呑んだ。
その中にいた、一人の少年に目を留めたのだ。

「……あれは、三河の侍の子だ」
「たしか、天正遣欧少年使節とともに一時期姿を消した、と……」

葛城が筆を走らせる。少年の髪型、肌の色、衣の裾の癖――
そのすべてが“倭”を物語っていた。だが、彼は祈っていた。異国の神に、従順に。

烈馬はその姿を見つめながら、ひとことだけ呟いた。

「……これは、斬れぬ」

葛城が応じる。「いや……だからこそ怖い」

言葉を奪われ、祈りを強いられ、
異国の名を与えられ、“倭”であることを忘れていく――。

それは、鉄砲も火薬も使わずに行われる“征服”だった。

「……心を染められた者を、我らは斬れぬ」
「だが、その教えを振るう者は、斬らねばならぬ」

烈馬が手の内に小さく折った紙を見つめる。
そこには、こう記されていた。

「影は、語らず。だが、忘れぬ。
 心を染める者があらば、必ず影がそれを断つ」

灯が揺れる。誰かの声が、遠くで祈りを繰り返していた。
草たちは静かにその場を去った――声を発せず、気配を残さず。

▶ 裏天正記 第2章 第6話:神の教えと静かな侵略 をカクヨムで読む


📝考察:「征服」は火ではなく、言葉と祈りで行われる


この章で草たちが見たのは、「兵力ではなく信仰によって支配される倭の子供たち」の姿です。


■ なぜ“祈り”が脅威なのか?

子どもは、意味のない言葉でも繰り返せば覚える。
やがて、“意味がない”という疑問すら抱かず、“自分の言葉”としてそれを使いはじめる。

その瞬間、人は“支配される側”から“支配の一部”になってしまうのです。


■ かつての侍の子が「異国の神」を祈るということ

烈馬たちが出会った少年は、“名”を失い、“心”を染められた存在でした。
彼を斬ることはできない。だが、その心を染めた存在――
つまり、「教えをもって民族を征服する者」こそ、草が立ち向かうべき敵なのです。


■ 次回予告:訃報と覚悟の再燃(D-3話)

その頃、日本では徳川家康が床に伏し、静かに命を終えようとしていた。
長く続いた影の指揮官の退場は、草たちにとってひとつの転機となる。

次回、半蔵は密かに“第二の計”を動かし始める――。