『裏天正記』第2章 幕間:「密命会議 ~影の百年戦~」 | ゆうがのブログ

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冬の駿府城、南御殿の奥間。
重ねた障子の内、火鉢の赤が三人の顔を照らしていた。

井伊直孝、本多正純、服部半蔵。
表と裏をつかさどる、家康最奥の信任を得た者たち。

火鉢を囲み、半蔵が一枚の地図を広げた。
マニラ、マカオ、ゴア、バタヴィア――すべて赤く記されている。

「すでに、倭人が異国に売られています。
 女も子も、信仰と交易の名のもとに」

その言葉に、井伊が目を細めた。

「奴隷か」

「はい。現地に溶け、やがて“倭”でなくなる」

本多が火鉢の炭を見つめながら、低く言った。

「刀で斬られずとも、心を奪われて滅ぶのです。
 しかも、その手を引くのは我らの民自身――」

室内が凍りついたように静まる。

「まずはルソン。
 表は交易、裏では布教と隷属。
 奴らが植えているのは思想です」

半蔵が巻物を取り出す。

「草には、三つの任を課します。
 “民の行方を知れ”“敵の意志を探れ”“火種の所在を記せ”。
 必要あらば……火を断て」

沈黙が落ちた。

井伊が問う。「草は、ただの密偵ではないと?」

「違います。
 草とは、姿なき敵に対抗する、百年の矢です」

火鉢がぱちりと音を立てた。
その炎が、どこか遠い未来を照らしているように思えた。

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📝考察:「心を奪われて滅ぶ」という言葉の意味


この幕間では、家康の側近たちがついに草の“真の任務”を明かします。
その中で最も強く印象を残すのが、本多正純のこの言葉です。

「刀で斬られずとも、心を奪われて滅ぶのです。
 しかも、その手を引くのは我らの民自身――」


■ これは「静かな侵略」への警鐘

歴史の中で、国を滅ぼすのは常に軍事力とは限りません。
信仰、教育、言語、経済――こうした要素で、“気づかぬうちに自ら国を捨てる”ことがあります。

このセリフは、自国民による内なる崩壊という最も恐ろしいパターンを示唆しているのです。


■ 草の任務は「調査」ではなく「長期戦」

このシーンを境に、「草」という存在は単なる密偵ではなく、
“国家意志の延長線上にいる者”として描かれます。

敵の意志を探り、記録し、百年後の再来に備える。
必要とあらば、その“火種”を今のうちに絶つ。

この思考こそが、家康の“影の戦略”であり、草の真の存在理由なのです。


■ 次回予告:静かなる開戦の第一歩

この命を受けた草たちは、いよいよ異国・ルソンへ渡ります。
そこには刃も通じぬ“異なる戦場”が広がっている。

だが、彼らは名もなく、誰にも気づかれず、
静かに――“開戦”の第一歩を踏み出すのです。