水道みやぎ方式が「メタウォーター(国内企業)」グループに決定 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
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一年以上前に過去記事[宮城県が水道事業にコンセッション方式を導入] で宮城県が水道事業にコンセッション方式を導入した経緯や狙いを書きましたが、ようやく事業者が決まったようです。

 

 

 

 
宮城県が上下水道と工業用水の運営権を民間に売却する「みやぎ型管理運営方式」で、県民間資金等活用事業検討委員会は12日、水処理大手メタウォーター(東京)を代表企業とする事業グループを優先交渉権者に選び、村井嘉浩知事に答申した。県が契約期間20年間で197億円以上を要求したコスト削減額は287億円を見込む。
 グループは水処理大手ヴェオリア・ジェネッツやオリックス、東急建設、橋本店など10社で構成。
 
 
『水道法改正⇒水道民営化⇒外資への売却』という超単純な三段論法がTwitterでも溢れていますが、水道法改正は単純な水道民営化とは異なります。
水道法について解説したのはもう1年以上前になりますので、改めて水道法改正について説明します。
 

【改正の主旨】

水道事業の広域化と効率化を図るものです。後述しますが民営化云々は目的ではなく手段の一つとして選択することが可能になったというだけのことです。

 

【背景】

①事業者の多さ

公営の水道事業者は全国に約2000存在し、そのうちの4割弱が給水人口5000人以下の簡易水道・飲料水供給設備事業者です。消防署の数が全国で約1700ですから、水道事業者はそれより多いわけですね。

 

②人口減少と世帯数の増加

すでに日本は人口減少を始めていますが逆に世帯数は増加傾向にあり、人口がピークだった2008年と比べて人口が170万人(約1.3%)減少した一方、世帯数は約2000世帯(約4%)増加しています。人口が減少しても世帯数は必ずしも減少しません。世帯数が減少しなければ必要な水道設備と必要な職員は減りませんが、人口が減少すれば水の需要と実際に水道関連の仕事に就く職員数も減ります。

 

③更新工事の遅れ

水道管の更新工事は低下の傾向であり、2010年以降は0.8%をしたまわっています。このペースの更新が続くと全ての水道管の更新が終わるのは120年以上かかってしまいます。

 

これらの要因から小規模事業者という非効率的な組織体制を維持していくのではなく、広域化と効率化を図るのは急務と言えます。

 

【過去の法改正】

これまで上記の状況について全く手付かずだったわけではなく、下記のとおり対応策が図られています。

①2002年の水道法改正(第三者委託)

この法改正により、浄水場施設の運転管理や水質管理などの水道施設の管理に関する技術上の事務を民間企業を含む第三者に委託することが可能になりました。

 

②2011年のPFI法改正

この法改正により、地方公共団体が水道事業を廃止するのであれば民間事業者が水道事業を実施することができるようになりました。

なお、この時点ではいわゆる「上下分離方式」=上(運営・維持管理)の経営と下(施設整備)の経営の分離を水道法は認めておらず、同一地区には一つの事業者しか認可できないため、民間事業者が水道事業を実施するには既存の事業者=地方公共団体は水道事業を廃止する必要がありました。

 

【2018年の法改正】

①義務

今回の法改正は広域化を一番に挙げており、その監督責任を都道府県に負わせています。2022年度末までに各都道府県は水道広域化のプランを策定・公表し、その後毎年プランの進捗状況とプランに改訂があった場合はその内容を公表しなければなりません。

 

②制度

水道事業について、施設の所有権を地方公共団体が所有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定することが可能になりました。過去の法改正②で説明しました『上下分離方式』です。

 

③狙い

広域化を図るとは事実上事業者の統合を進めるということですが、特に対象になる小さな町村にシステム等の統合ノウハウなどあるわけがありません。そのため民間事業者に水道設備を貸し出し、経営を任せようということです。

人口1万人程度の町でも10集まれば10万人になりますので、設備やシステムを共有することによるトータルのリソースの節約が期待されています。

 

例えるならば、水道事業は「マンション・アパート経営」です。

元々はマンション・アパートは大家(市区町村)がすべて管理しなければならなかったのが、2002年の法改正によって家賃の徴収や日常管理について専門業者に委託することができるようになりました。

2011年には不動産運営業者に大家(市区町村)がマンション・アパートごと売り渡すことができるようになりました。この時点では売り渡したマンション・アパートについて元の大家(市区町村)には何の権利も残りません。

そして2018年の法改正では所有権を元の大家(市区町村)が持ちながら、マンション・アパート経営を不動産運営業者に委託することができるようになったということです当然運営を「委託」するだけですので、運営内容に瑕疵があれば契約解除も可能ですし、業者は大家や住民の了承を取らずに勝手に物件を切り売りすることもできません。しかも家賃(水道料金)は住民の投票に基づき大家が決めた範囲(条例)でしか変動させられません。

このマンション・アパートは大小様々で、大型マンションのような物件もあれば10戸しかないアパートもあるわけです。
10戸しかないアパートは例えば修繕工事も当然小規模になりますので、どうしても割高になります。しかし不動産運営会社が100件の物件についてまとめて工事を発注すれば費用を抑えることができますし、実際に全国に物件を所有している不動産デベロッパーはこうした手法を使って工事等の費用を抑えています。(某社では集中購買と呼んでいます)
こうした大規模化・広域化を進める義務を都道府県に課したのが法改正の趣旨です。もちろん市区町村同士で連携してまとめて実施できればそれが最も効率的なのでしょうが、小規模事業者である町村に統合ノウハウなどあるわけがないので、そうしたケースであれば民間の水道事業者に運営を任せても構わないということです。今回宮城県が導入した「水道みやぎ方式」の前段階である「県が上水道では県内の市町村に水道用水を卸売りし、下水道では市町村から流れてきた下水を県が処理する」という方式を取り入れる都道府県が現れるかもしれません。
 
なお今回宮城県が導入した「水道みやぎ方式」では水道料金も水質管理の業務も現行のスキームと大きく変わることはありません。

○水道料金の決定スキーム

市町村との調整→県議会にて条例改正→水道料金改定

この流れに変更は全くありません。市町村との調整前に民間事業者との協議が入りますが、料金改定の根拠要素としては契約水量や物価の変動等に限定されています。



○水質維持

県が運営する浄水場や処理場の運転管理は,既に30年近くほぼ同じ民間事業者に委託しており,現在もこれらの民間事業者が安心・安全な水を安定的に供給し,又は汚水を処理しています。



水質管理においては事実上30年近く前に民間委託を行っており、現行からの悪化要因はありません。さらにはコンセッション方式の導入に従い、下記の方策を打ち出しています。


①運営権者に対し、現行の県の基準と同等以上の水道水質(要求水準)を求め、さらにより厳しい管理目標値を自ら定めてもらう。


②県で水道法に基づく水質検査をこれまでどおり実施し,運営権者が県の基準及び管理目標を遵守し,適正な体制で運転していることを監視するとともに,抜き打ちでも検査を行う。


③専門家による(仮称)経営審査委員会が,県と運営権者の双方が役割を適正に果たしていることを監視し,良好な水質が保たれているかを第三者の観点で確認する。


④性能発注への移行により,要求水準未達時のペナルティーを設定する。



これだけ厳しい条件でよく事業者が見つかったものだと思いますが、メタウォーターを中心とした10社の連携で事業を行うことになったようです。ちなみにメタウォーターの株主構成は下記のとおりで、どう見ても外資企業ではありません。社長も日本人です。


この運営委託により宮城県は20年間で287億円のコスト削減を見込んでいます。同じ動きが他の都道府県にも波及することを期待しています。