アメリカ「アメリカはTPPに入らない。中国がTPPに入る」/日本外交の強かさ | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

アメリカ通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が朝日新聞の単独会見に応じ、「アメリカはTPPに入らない。いずれ中国がTPPに入る」との認識を示したようです。

記事によると、アメリカにとってはTPPのような多国間協定よりも、二国間協定の方が「より有益」であり、日米間でも「将来のどこかの時点で(『第1段階』よりも)包括的な協定を結ぶのが我々の目標だ」と述べ、「日米がより緊密な経済的結びつきを持つことは、明らかに両国の利益になる」と指摘。また、日本が米国の復帰を期待するTPPについては「TPPにはいずれ中国が入り、ルールを守るかに関わらず恩恵だけは受ける」との見方を示した上で、「日本などと個別分野で連携する方がいい」と述べたとのことです。
アメリカが易々とTPPに復帰するとは思っていませんが、私の知る限りアメリカの政府関係者が中国のTPP参加に触れたのは初めてのことです。
WTOが中国の影響で機能不全に陥り、トランプ政権が機能不全に拍車をかけているのは周知の事実であり、TPPもいずれWTOと同じ帰結となるとの認識を示したものと言えます。確かに将来的なことは分かりませんが、オバマ米前大統領がTPP署名時に「中国のような国に国際経済のルールを書かせてはならない」と名指しで中国への警戒を示したように、TPPは対中包囲網の意味合いを強く持つ協定ですので、ライトハイザー代表の発言は本当に中国がTPPへ加入すると思っているのではなく「アメリカはTPPへ加入しない」という姿勢を補足する意図があるものと思われます。
しかし他ならぬアメリカが中国のTPP加入論を言い出すと、イギリスを初めとする新たにTPP加盟を検討している国に影響が及ぶことは避けられないでしょう。

なお日米FTAについては日本車の輸出に数量規制を設けないと明言するなど、会見では日本への配慮を見せたとのことですが、ここに日本外交の強かさを感じます。
昨日の記事で日本がアメリカからのトウモロコシ250万tの追加輸入の要請に反して前年比▲350万tも輸入を減らしたことを紹介しましたが、実は日本のトウモロコシ輸入総量は変わっていません。アメリカからの輸入を減らした分、ブラジルからの輸入を80万t→468万tに急増させているのです。これは過去記事[南米4カ国(メルコスール)とのEPAを政府が検討]に書いたように、南米南部共同市場(メルコスール)とのEPAをにらんだ動きではないかと思われます。
アメリカから『トウモロコシが売れなくて困っている』と頼まれたら「日本ではトウモロコシに害虫被害が出てるから、民間の輸入業者が輸入しやすい仕組みを作るよ!」と回答しながら、
「やっぱりメルコスールとの協定も検討してるからブラジルから輸入するね」
「通商協定の交渉で無茶を言うようなら牛肉も同じことになるかもね」
とアメリカの要求を逆手に取り、脅しをかけているわけです。
日米TAG(日米通商協定第一段階)でのアメリカの最大成果は牛肉ですが、日本は防疫の観点からブラジルの牛肉輸入を規制しているものの、ブラジルはアメリカと並ぶ世界最大の牛肉輸出国ですので、日本がブラジルからの牛肉輸入を開始したらアメリカ牛肉の輸入が激減するのは目に見えています。

中々ヤクザな交渉ですが、アメリカを激怒させるギリギリのラインを見極めて交渉を進めているのでしょう。日米の2国間協定を進める場合でも日本外交に期待します。

<2020年11月9日>
USMCAの内容からアメリカのTPP復帰は対中包囲網の強化に繋がらない可能性が高いため、結論からアメリカのTPP復帰を望む表現を削除しました。