1990年に公開された「ゴッドファーザー パート3」をリマスタリング&コッポラ本人が再編集したものを2020年に公開。パート3の公開時、私は大学生で映画館で見た記憶があるが、その時以来になる。ほんとに30年ぶりに見た。細かい内容はほとんど覚えていないが、ラストは憶えている。長さが何かと問題の「ゴッドファーザー」だが、パート1が2時間57分、パート2が3時間20分、パート3が2時間50分で、CODA(編集版)が2時間38分になる。
 舞台は1978年(法王パウロ6世の没年とヨハネ・パウロ1世の就任年)。パート2でマイケルのパートは1958年から始まるので、二十年後にあたる。マフィアという枠の中でイタリア系移民の家族を描いた物語の最終章。カトリック教会(バチカン)とオペラというイタリア人を象徴する二つの要素がこの最終章でフィーチャーされる。
 パート2に続いて話が分かりづらい。なんでこんなにわかりづらいのか。まず情報の並べ方が不親切だ。事前情報一切なしで(パート2までをしっかり見ているのはOK)でこのCODAを一回サラっと見ただけでストーリーがほぼ100%理解できる人ってどれくらいいるんだろうか。パート2に続いてまたしても「このシーンは何を意味しているシーンなのか」「こいつはいったい誰なのか」「誰が殺して誰が殺されたのか。どっちがマイケルの味方なのか敵なのか」とよくわからない感じで映画は進んでいく。特にこのパート3では「外国人区別つかず」の現象が。ルケージという男がかなりのキーマンなのだが、私は知らない俳優で、眼鏡を取ったりつけたりする。二周目でようやくルケージが誰だったかわかる始末。あたし頭悪いのかね。認知機能の低下? しかもウィキでいろいろチェックしながらの二周目を行きつ戻りつしてようやくルケージがどのシーンから出てきて他のどのシーンに出てくるかを理解した。要するに同一人物の判別がついていなかった。私も知っているような有名な俳優が演じていてくれたらもうちょっとどうにかなったのか? でもパート1についてはあれだけ登場人物がいるのに物語世界に容易に入り込めたし、「ジ・オファー」も知らない俳優ばかりが大勢出てくるが、話や登場人物の立場がわからなくなるということはなかった。
 で、感想なんだけど、こんな感じで面白いわけがない。パート3はバチカンとコルレオーネのかかわりを中心に据えて、観客が物語世界に入りやすいようにわかりやすい順番で情報を並べてほしかった。アンディ・ガルシアとソフィア・コッポラのいとこ同士の恋愛もさほど見応えなく。
 バチカンとのエピソードだけ解説してみる。
 

 冒頭ニューヨークのギルディ大司教がマイケルに融資を依頼する。バチカンの金融担当である大司教は、横領による失敗でバチカンの口座に8億ドル近い穴をあけてしまった。マイケルはバチカンが25%を保有する世界的投資会社インモビリアーレの株をコルレオーネに譲ることと引き換えに6億ドルを申し出る。ニューヨークの株主総会ではコルレオーネのインモビリアーレ株譲渡買収は可決され、法王庁からも認可が下りる。
 最終手続きのためにバチカンへ向かうと、ルケージらヨーロッパの株主たちは買収に反対であると告げる。マイケルらは実質的な手続きは既に済んでおり、この場は単なる形式上のものと解釈していたが、ルケージらは「最終的には法王個人の裁可が必要」と主張。パウロ6世は死期に近い病床にあり、法王が亡くなればそもそもあった法王庁からの認可もなかったことになると言う。茫然とするマイケルらに、ギルディ大司教は自分はこの状況に無力であり、法王の回復を祈るばかりとしらばっくれる。
 マイケルが糖尿病の発作で倒れると、ギルディ大司教はマイケルが死ねば6億は丸儲けだとカインジックに話す。カインジックはバチカンのマネーロンダリングを担当している銀行の頭取だ(実在モデルあり。ウィキの「ロヴェルト・カルヴィ」参照)。
 回復したマイケルはシチリアでドン・トマシーノに会い、マフィア幹部の一斉銃撃とバチカンでの妨害を両方画策できる人物は誰かと問う。トマシーノは「それができるのはルケージだけ」と言う。
 マイケルはマフィア幹部一斉銃撃の指示役とみているドン・アルトベッロのところにヴィンセントを送り込む。ヴィンセントはそこでルケージを紹介され、一斉銃撃とインモビリアーレのバチカンでの妨害がこの二人の共謀であることを知る。
 マイケルはトマシーノの助言を得て、事態打開のためにランベルト枢機卿に会いに行く。枢機卿は大司教より格上で、法王は枢機卿の中から選ばれる。マイケルはギルディ大司教の横領を枢機卿にバラし、ランベルトは不正排除に前向きな姿勢を示す。
 パウロ6世が崩御するとランベルト枢機卿が新法王に選出され、ヨハネ・パウロ1世となる。金の流れを明らかにする意欲の強い新法王の就任に、銀行屋カインジックはインモビリアーレの金を持ち逃げして消息を断つ。突然の行方不明を発端にバチカンとインモビリアーレ間にある不正な金の動きがマスコミに書き立てられた上に、新法王は正式にコルレオーネにインモビリアーレの株を譲渡する裁可を下す。ルケージとギルディ大司教は窮地に立たされ、新法王暗殺を実行するが、三代目となったヴィンセントの指令によりカインジックともども暗殺される。

 三部作全部パーティーのシーンが冒頭にあって一斉粛清のシーンが終盤にある。このCODAでもパート1と同じく歌手のジョニー・フォンテーンが同じ俳優でパーティに出る。フランク・シナトラがモデルらしく、パート1の内幕を描いたドラマ「ジ・オファー」でも、シナトラは「パート1」さながら反社を頼りに執拗に映画製作を妨害してくる。制作サイドは「ジョニー・フォンテーンはシナトラでしょ?」と周囲から何度も問われ、主人公たちは「架空の人物」と言い張り続ける。シナトラ(ジョニー・フォンテーン)って「ゴッドファーザー」でも「ジ・オファー」でも「人気はあるが人間としては相当下衆のヤバい歌手」になっている。マイケルが糖尿病を患っているのも映画の要素だが、「ジ・オファー」によれば原作・脚本のマリオ・プーゾが糖尿病だったそうだ。
 パート3で面白いと思ったのは、妹のコニーがファミリーの仕事にえらく積極的になっていたことだ。パート1ではファミリーの末っ子で可愛い花嫁だったのが夫のDVにあい、やがて夫はファミリーを裏切って粛清され未亡人に。パート1では女はファミリーの仕事から距離を置く、というのが「常識」だったと思う。パート2ではファミリーに反抗し、子供も顧みず男遊びに明け暮れる荒れた生活を送るも、男とうまくいかずコルレオーネ家に戻ってくる。それがパート3になったらマイケルを支えるどころかファミリーの「仕事」に積極的に加担している。コニーの変化が時代の変化のある一面をわかりやすく象徴しているかもしれない。
 それにしてもタイトルにThe death of Michael Corleone"ってあるのに、死の瞬間はないのね。編集前のパート3のときは確かそこで終わっていたはずだけれど。コッポラの前説からしても「敢えて」なんだろうな。 
  最後にU-NEXTとAmazonPrimeVideoをこのCODAで比較してみる。あくまでうちで見た場合だ。10年物のテレビにFireTVを後付けしてみている。
①アマプラでは冒頭にコッポラの前説があるが、U-NEXTにはない。
②イタリア語の部分については本編ではついている英語字幕がU-NEXTにはついているが、アマプラでは外されている。
③U-NEXTは早送りや巻き戻しの時にコマ送りになるので、見たいシーンで止めやすい。

④U-NEXTは時として画質が安定しない。AmazonPrimeVideoにそういうブレはほぼない。

 


※この動画を見て「ジ・オファー」とCODAとソフィア・コッポラのキャスティングについて知りました。