⑪ 『 多角形 』
○ 「 三角形はどのような形 」 と聞くと。
私の母と同じように、
人差指を使い「 ひとふでがき 」で 角(かど) が 3つ ある概形 (およそのかたち) を
空中に描く生徒が結構います。
「三角形」 をどのように理解しているのでしょうか ?
「 四角形はどのような形 」 と聞くと。
人差指を使い「 ひとふでがき 」で 角(かど) が 4つ ある概形 (およそのかたち) を
空中に描く生徒も結構います。
どうして、このようにしか答えられないのでしょうか ?
そして、このような生徒たちは、
「五角形をかいてみて」 と言うと、かけないか。「六角形」を「 ひとふでがき 」でかきます。
なぜ「五角形」をかけないのでしょうか ?
【 貧弱なイメージ ( 細部がなく豊かでない ) 】
子供の言語使用は、音声言語からはじまります。
子供は、周囲の人びとから 『 まる 』 『 さんかく 』 『 しかく 』 という形を表す言葉 (音声) の使用を学びます。
周囲の人は、まるいもの に対して、『 まる 』 と発言するでしょう。
すると、やがて まるいもの を指さし、『 まる 』 と発言するようになるでしょう。
さんかくのもの や しかくいもの を指さして、『 これは ?』 と周囲の人に問うかもしれません。
まるい積み木、さんかくの積み木、しかくい積み木で遊んだりもするでしょう。
幼児のためのテレビ番組で、
歌のおねえさんが 踊りながら 歌っている 『 まる さんかく しかっくー ♪♪ 』 を聞いて、
真似をして 歌い 身体で 『 まる さんかく しかっくー 』 を表現したりもするでしょう。
クレヨンで 『 まる 』 『 さんかく 』 『 しかく 』 をかくでしょう。
聞いて、見て、発声して、触って、歌って、踊って、かいて
幼児期、『 まる 』 『 さんかく 』 『 しかく 』 を 認識 することができるようになります。
「三角」 を国語辞典で調べると、「 かどが三つある形。そういう形であること。」
「四角」 を国語辞典で調べると、「 四すみに角 (かど) がある形。」
「五角」 を国語辞典で調べると、この国語辞典には載っていない。
小学校入学後、文字言語を習い、
『 まる 』 『 さんかく 』 『 しかく 』 の音声が
「 まる 」 「さんかく」 「しかく」 「三角」 「四角」 の文字で表現できる ・ することを学びます。
そして、小学校卒業までに「 まる 」 「 さんかく 」 「 しかく 」 「三角」 「四角」という形から
「 円 」 「 三角形 」 「 四角形 」 という図形へと より細部のある豊かなもの を学びます。
中学数学でも当然、「 円 」 「 三角形 」 「 四角形 」 について学びます。さらにより細部のある豊かなもの を。
にもかかわらず、私の母と同じように、「 三角形 」 「 四角形 」 に対して
「三角」 「四角」 「 さんかく 」 「 しかく 」 『 さんかく 』 『 しかく 』 という言葉を使う生徒がいます。
「 三角形 」 を国語辞典で調べると、「 三つの直線で囲まれた (平面) 図形。」
「 四角形 」 を国語辞典で調べると、この国語辞典には載っていない。
人差指で 空中に 概形 (およそのかたち) を描く人は、
「三角」 が 3つの角 (かど) のある形 であることを、
「四角」 が 4つの角 (かど) のある形 であることを 理解して描いているのでしょうか。
もし、理解しているなら、
「五角」 も 5つの角 (かど) のある形 として 描けるでしょうし、
描けないにしても、「 角 (かど) が 5つある形 は かきにくい。」 と発言してもよさそうなものです。
結局 「三角」 「四角」 を理解していない。
それは、幼児期に 身につけた音声による言葉 『 さんかく 』 『 しかく 』 が、
文字による言葉 「三角」 「四角」 と結びついていないからです。
文字 「三角」 は、3つの角 (かど) がある形のイメージ を与えうるが、
音声 『 さんかく 』 は、イメージを与えても
3つの角 (かど) がある形という (細部のある豊かな) イメージを必ずしも与えてくれない。
人差指で 描かれた概形 (およそのかたち) は、3つの角 (かど) がある形というイメージを描いたものでなく、
幼児期の身体行動にもとづく貧弱なイメージなのです。
もし、幼児期 『 みっつのかどがあるさんかく 』 という音声による言葉が与えられていたら、
3つの角 (かど) がある形というイメージをもてたかもしれません。
イメージを豊かにし、それに細部を与えるのは、言葉です。
言葉で表現せず、人差指で 概形 (およそのかたち) を描く人は、
『 さんかく 』 『 しかく 』 の貧弱なイメージをもっていても、「三角」 「四角」 という言葉のもつ概念を理解していない。
「三角」や「四角」という言葉の理解が不十分なため、「五角」という言葉も理解できない ・ していないのです。
概念 : 同類のものに対していだく意味内容
幼児期を引きずって、中2生になると
「三角形」 の意味を 『 さんかく 』 のイメージ であると捉えて、そのイメージ を人差指で空中に描く。
「四角形」 の意味を 『 しかく 』 のイメージ であると捉えて、そのイメージ を人差指で空中に描く。
「五角形」 の意味は、ない。
『 ごかく 』 など聞きもせず、見もせず、発声もせず、かきもしないため 認識できずイメージを描けないから。
中には、小学校での経験を通して、
「六角形」 の意味は、コンパスで円をかき そのままのコンパスで円周を6等分し、
その等分点を結び かいた 「正六角形」 である と思い込むことができた生徒もいます。
こうして、
「五角形をかいてみて」 と言うと、かいて認識した「正六角形」を「 ひとふでがき 」でかく生徒が生まれます。
貧弱なイメージ からは、規則 ・ 規範 を把握しにくい。
そこで、言葉のもつ概念を使いましょう。
○ 次の [ ] に、適切な語句・式など を入れてください。
三角形をかいてみましょう。
まず、直線を1本ひきます。
次に、1本目と [ ] 直線をひくと、[ ] が1つできます。
さらに、1本目と2本目の両方と [ ] 直線をひくと、あと2つ [ ] ができます。
こうして、三つの直線で囲まれた (平面) 図形すなわち [ ] ができます。
3つの交点を三角形の [ ] といい、
3つの交点によりできる3つの線分を三角形の [ ] という。
1つの頂点の周りには、三角形の内角が1つ、[ ] が2つ、その内角の [ ] が1つできます。
以上より、三角形 (の特徴) は、頂点が 3つ、辺が 3つ である。
三角形の概念 から 言葉の連関により 三角形の特徴 を把握できる。
その特徴も概念となり、三角形の概念は豊かになります。( 言葉が豊かになる。)
直線 → 交点 → 頂点 → 線分 → 辺
直線 → 交点 → 内角・外角
四角形 は 四つの直線で囲まれた平面図形であるから、
実際に かいて 見ると 四角形は、頂点が [ ] つ、辺が [ ] つ である。
五角形 は [ ] つの直線で囲まれた平面図形であるから、
実際に かいて 見ると 五角形は、頂点が [ ] つ、辺が [ ] つ である。
六角形 は 六つの直線で囲まれた平面図形であるから、
実際に かいて 見ると 六角形は、頂点が [ ] つ、辺が [ ] つ である。
七角形 は 七つの直線で囲まれた平面図形であるから、
実際に かいて 見ると 七角形は、頂点が [ ] つ、辺が [ ] つ である。
以下、実際にかくことが だんだん困難になる。当然イメージもしにくい。
n 角形 は n 本の直線で囲まれた平面図形であるから、
実際、かくことはできない。イメージもまったくできない。ゆえにイメージしなくてよい。
しかし、n 角形は、頂点が [ ] 個、辺が [ ] 本 あることはわかる。これこそが概念の強み。
多角形の頂点・辺の数が増えればふえるほど、その多角形をイメージすることは困難になる。
そこで役に立つのが、言葉のもつ概念です。
n 角形は、イメージできなくても、その概念により理解できる。
貧弱なイメージから規則 ・ 規範 を把握することが難しいのに対して、
言葉のもつ概念からは規則 ・ 規範 を把握することができる。
図形を扱うことは、言語のもつものが イメージ だけでなくまた 概念 であることを 意識できるいい機会です。
○ M M S E の 設問 11 の 図形 の かき方 ( 必要なのは五角形の概念 )
まず、手本の2つの重なった五角形の5頂点を それぞれ小さな黒丸 で 強調する。
( 簡略すると )
手本を見ながら、点を5個とり結ぶと五角形でき、重なるように点を5個とり結ぶと手本と一致する。
( 詳細 にすると )
五角形が2つ重なっているので、
まず一方の五角形をかくため、
3点以上が同一直線上に存在しないように、
5つの点をとる。( 手本の1つのほぼ正五角形の5頂点の位置関係に注意しながら )
その5点を反時計回り(時計回りでもよい)5つの線分で結ぶと五角形が1つ出来上がる。
これと重なるようにもう一つの五角形をかけるように、
3点以上が同一直線上に存在しないように、
5つの点をとる。( 手本のもう1つのほぼ正五角形の5頂点の位置関係に注意しながら )
その5点を5つの線分で結ぶと五角形がもう1つでき、ほぼ手本の図形と一致する。
この図形は、「 ひとふでがき 」で かくことに適していない。
五角形の概念を使って、一つずつかくのがいいでしょう。
イメージしにくい ・できないことは、言葉のもつ概念を使って理解しましょう。
だって、普段 イメージも使うけど、概念も使っているのだから。( ほとんど無意識に日常会話で )
私が小学校高学年のとき、私の担任の先生は、「三角」 「四角」 でなく 「三角形」 「四角形」 を使うように、
生徒が 『さんかく』 『しかく』 と発声して答えると 『さんかくけい』 『しかくけい』 と訂正し、指導してくれました。
同学年の他のクラスの先生の中には、
「三角」 「四角」 『さんかく』 『しかく』 の使用を訂正せず、容認する先生もいました。
言葉の違い、それによる認識の仕方の違いを大切にしない先生。
このようにして、指導者により、教科において使用される言葉のもつ概念を獲得する機会を奪われる生徒がいます。
ひき算の能力も 図形を判断する能力も、一般的に家庭で身につけるものではありません。
子供がこれらの能力を身につけるかどうかは、本人 ・ 保護者の責任でもありますが、
指導者である学校の先生 ・ 塾講師の責任の方が相当重いはずです。
ひき算の能力も 図形を判断する能力も 仕事・生活には何の役にも立たないかもしれませんが、
将来、高齢者になったとき、それらの能力を身につけていないと、
認知症の疑いをかけられる可能性が高くなります。
認知能力の創造・維持・向上は、認知症の予防になるわけですから、
教科指導者は、
指導した子供 の 半世紀 ・ 数十年後の認知症の判定 に
影響をあたえるかもしれないことを意識して指導すべきです。
次回の ⑫ 『 多角形の内角の和 ・ 外角の和 』 に続きます。