すぐに鮮やかな緋色のドレスで豊満なボディをまとった彼女を見つけた。
ゴールドのアイマスクタイプの仮面には、片側にまばゆいばかりの黄金の薔薇の花があしらわれ、ワンショルダーで露わになったなだらかな白い肩の上で、際立つように輝いている。
彼女もママもエロチシズムを意識させるダンスコスチュームに仮面をつけると、思っていた以上に美しくも妖艶な魔女に化身している。

土曜日の午後の昼下がり、ホテルの一室に参加メンバーの男女20人が揃ったところで、秘密の仮面舞踏会が主催者のママの簡単な挨拶の後に始まった。

ワルツの曲が流れて、僕は、すぐにでも彼女に近寄りたいところだ。
そこは我慢をして壁際に立っていたら、ママが来て、「駄目じゃないの、もっと女性に声かけて誘ってあげないと。」と言うので、
「まだ、ワルツは覚えたてでうまく踊れないので・・。」と応えると、
「今日はダンスパーティというより、紳士淑女の触れ合いを楽しむのがメインなので、決してダンスの上手な方達ばかりが来ているとは限らないの。だからそんなことは気にしないのよ。いいわ、私がお相手してあげるわ。」と僕の手を取る。

ママの背中に手を回してワルツのセットポジションをとると、滑らかな素肌に直に触れて、思わず色気を感じてしまう。
ママにリードされるように踊ると、場慣れしたのか、途中からダンス教師の彼女のレッスンの勘を取り戻し、自分のペースで踊れるようになった。
踊り終えると、「全然、大丈夫じゃない、積極的に女性のお相手をしてね。」と言って、ママは近くにいた女性に声を掛けて、僕を引き合わせる。


ダンスドレスの露出も少なく、仮面もシンプルなアイマスクで、あきらかに初心者っぽい女性だ。
ダンス教師の彼女やママほど艶やかさはないが、容姿はスレンダーでモデル並みの体形だ。
「僕は初参加で、ダンスはまだうまくないけどいいかな?」と尋ねると、
「ええ、私も初参加なの、ダンスもママにレッスンを受けていてまだまだこれからなのよ。なんで私がママに呼ばれたのか分からないわ。」と話すので、
「今回のパーティーは、ダンスの上手さは二の次で、貴方みたいな美女を参加させているみたいだよ。」と応えたら、
「まあ、美女なんて、貴方もお口が上手ね、だって仮面着けているから、顔は分からないでしょう。」と微笑む。
ルンバの曲がかかり、その彼女ともすんなりと踊れたが、同じ女性と踊り続けることはできない。

ジルバの曲になると、僕の得意のジャンルだから、自信を持って色っぽさが目立つ女性を誘って踊る。
ママにも負けないぐらいの露出度の高い、芸能人のような派手系の女性で、ダンスには習熟してそうだ。
テンポの速い曲だが、僕のダンステクニックにも十分に合わせてついてくる。

踊った後にその女性が、「貴方のジルバは激しいのね、ちょっと社交ダンスのジルバとは違うみたい。」と言った。

マン・ツー・マンのレッスンなので、ダンス教師の彼女と何度も演舞を繰り返して、ワルツの最終レッスンを終える。
「何とかマスターできたようだわ。あとは自信をもって女性と踊ることね。これ貴方が着けるマスクよ。」と彼女はにこやかに話しながら、仮面舞踏会用のマスクを渡してくれる。

アイマスクというより、片側に銀色の鷹の羽が伸びている黒いハーフマスクで、装着してみると鼻から上が覆われる。
「このマスクは背の高い人でないと似合わないのよ、貴方にはピッタリだわ。」と彼女が選んだだけに満足気だ。
「君はどんなのを着けるの?」
「ふふっ、それは会場でのお楽しみね。」と思わせぶりに応える。

仮面舞踏会の当日になり、ダンス教師の彼女と開催場所のホテルで待ち合わせる。
マスクに合わせるようにブラックスーツを装って来たが、彼女は、「私の見立て通りね、格好いいわよ。」と笑顔を見せる。
彼女は、これからパーティードレスに着替えて、仮面を着けるので、
「君が、どんな美魔女に変身するのか期待しているよ。」と言うと、
「私だとすぐに分かるかしらね、女性陣は皆、美魔女だから。」と楽しそうだ。

ロビーで彼女から離れ際に、
「これからは別々の行動になるわよ、私ともお互いに見ず知らずの他人ということで振舞ってね。
貴方は大丈夫だけどカップルで参加すると、なかには自分の女性パートナーが他の男性と接しているとイライラする人もいるから。パーティールームに入る前に必ずマスクを着けてね。」とルールを再度、告げられる。

僕はロビーのソファーに座り、彼女の着替えの頃合いをみて、
少し時間をおいてから会場に向かった。
男女別の着替え用控室も用意されているが、僕は平服のスーツ姿だから、マスクを着けるだけで入室する。

入り口横で来訪者の受付をしている女性がいる。
ラメが煌びやかな白地のベアトップドレスを身にまとい、シルバーに部分的に薄いピンクをカラーリングした蝶々のデザインのベネチアンマスクを着けている。
バストラインから肩にかけてむき出しになった素肌が艶めかしいが、何か神々しい上品な色気を感じさせる。
僕を見て、すぐに分かったのか、口元に笑みを浮かべて参加者リストにチェックを入れる。
仮面は着けているものの、僕も彼女があのソシアルダンスサロンのママだと分かる。

場内は、やや薄暗く、メンバーは全員が仮面で素顔が分からないが、確かにママが人選しただけあって、そのシルエットは、人並み以上の容姿だ。
室内を見渡し、ダンス教師の彼女を捜す。

社交ダンスは、ルンバやワルツが主流で、ジルバはどちらかと言えば遊びのジャンルだ。

僕は若い頃はディスコでロックンロールやツイストで踊っていたから、アップテンポの曲のジルバが性に合っている。

だが、仮面舞踏会に参加するには、ルンバは何とかできるものの、ワルツは必須だからマスターしなければならない。

 

講習に行くと、僕の前の時間帯に上級コースのレッスンを終えた年配女性に、ダンス教師の彼女が頼んで残ってもらい、僕のレッスンに協力してくれるという。

 

ダンス教師の彼女は、「ワルツは三拍子のテンポで踊るのよ、ホールドは、男性は女性の肩甲骨に右手を当てて、しっかりと支えないといけないの。だからみぞおちに重心を置き、股関節を女性の股関節に合わせて、体重を足の先まで乗せるようにね。」とセットポジションの姿勢を最初に教えてくれる。

女性を振り回すようなジルバとは違い、男女が向き合ったまま、一体となって踊るワルツは男性のリードが悪いと女性が踊り辛くなる。

 

「三拍子のフットワークに慣れたら、右回りのナチュラルターン、足をそろえながらのクローズチェンジ、左回りのリバースターンがスムースにできるようになれば、とりあえず初歩の基本動作はOKね。

目標は、ランニングスピンターンからボディアクションで女性を美しく反らせるピクチャーポーズがとれるようになればいいわ。」

 

ダンス用語はよく分からないが、英語の意味からして大体の察しはつく。

彼女は年配女性を相手に模範演舞を行ってくれる。二人が一体となって流れるような華麗な動きに感心する。

 

「そんなに高度なダンスをたった6時間の講習でマスターできるのかなあ。」と心配そうに言うと、

「貴方は、もうルンバが踊れるから、社交ダンスの基本的な姿勢はできているので、あとはワルツ特有のテクニックを身につければいいのよ。

最初の2時間はとにかく、セットポジションからワルツのフットワークを習熟して、次の2時間はレッグアクション、ボディローテーションなど円滑な重心の移動を中心にレベルアップしたテクニックをマスターし、残りの2時間は私と踊りながら、細かなアドバイスをしていくわね。」と笑顔で応える。

 

その日のレッスンは、ダンス教師の彼女の指導を受けながら、年配女性と組んで基本ステップが円滑にできるまでの訓練を繰り返したのだ。