妖しげな仮面舞踏会が終わる頃になると、何組かの親密になったカップルが見かけられる。
おそらく、ダンスというよりも男女のシークレットな出会いが目的のパーティーだから、当然の成り行きだろう。
僕はダンスの相手をしてくれた何人かの美魔女を誘いたいという気持ちもあったが、ママが目当てなので居残ることにした。
パーティーが閉会してママと片付けを始めると、ダンス教師の彼女が帰り際に、そそのかすように「あとはうまくやってね。」と耳打ちして出て行った。
片付けの後、まだディナーには早いので、日中も開いている二階のカフェレストランに入って、とりあえずグラスビールでママとパーティー後の飲みなおしをする。
窓際の席からは、パーティー会場が薄暗かっただけに、ガラス越しに注いでいる残暑の陽射しが眩く感じられる。
ママは煌びやかなパーティードレスから、薄いブルーの愛らしいウェストリボンのタイトワンピースに着替えている。
スタイリッシュな容姿に、深く裂けたスリットからチラつく美脚が悩ましい。
「どうだったの、パーティーの感想は?」とママがほろ酔い気分で聞いてくる。
「仮面をつけているから、素顔が分からないのがいいね。美魔女との乱舞で怪しげで刺激的な雰囲気がしたよ。」と応えると
「ダンスパーティーというより、皆、そんな刺激を求めて集まっているのよ。今頃、男女の関係になって楽しんでいるカップルがいると思うわ。
あの彼女と一緒でなかったら、貴方も気に入った女性を誘えばよかったのに。」とにこやかに話す。
「いや、僕はママと一緒になりたかったから居残ったんだけど、ママはどう?」と酔いにまかせて率直に述べる。
「まあ、ストレートに口説くのね。でも、悪い気はしないわ。あの彼女から貴方の事は聞いているのよ。あとくされなく、お付き合いできる方だとね、今夜は私もそんな気分だわ。」とパーティーから続けて飲んでいるアルコールの酔いで、美顔にほんのりと紅がさして色っぽい目つきで見つめる。
どうやら、ダンス教師の彼女は、ママにも同じように僕との今夜の筋書きを言い含めていたようだった。
「じゃあ、ディナーの後で二人だけの時間をゆっくり過ごすことにしましょうか。」と僕は決めつけるように言うと、
「仮面舞踏会での秘密の男女関係が、私自身と貴方になるとはね。」と笑みを浮かべながら応えた。
僕はフロントで部屋をリザーブした後、このホテルの高層階にあるフレンチレストランでママとディナーをとることにした。
今夜は、ダンス教師の彼女が彼氏と情交するなら、僕もママと関係するのも何ら悪びれることはないな、と納得する。
ダンス教師の彼女が、「その気になったら、今夜は会場の後片付けを手伝うことにして、ママと居残り、ディナーでも誘うといいわ。多分、ママはOKする筈よ。後は貴方のエスコート次第ね。」と教えてくれるので、その理由を聞くと、
「ママ、今は彼氏とうまくいってないのよ、このパーティーだって、いつもなら、パートナーの彼と事前準備するのに、今回、彼はノータッチだしね。ちょっと寂しそうだから、貴方が優しくしてあげればいいんじゃない。」と示唆してくれる。
確かに女性は、落ち込んでいる時に優しくされるとなびき易いと言われている。
その心の隙間に邪な気持ちで入り込むのに罪悪感はあるが、それはそれで一時でもママの気分が軽やかになるならいいと思った。
そんな思惑でママに近づき、ダンスの相手をお願いしてルンバを踊る。
ママのベアトップドレスの露わになったエロティックな肩肌に目移りがして、下心のある僕の気分は興奮しがちだ。
踊り終わって、バーカウンターから薄めのウイスキーサワーを持ち寄って、ママと壁際の席に座る。
踊り疲れた後の、冷たいアルコールの喉越しが心地よい。
「パーティーの後片付けは僕も手伝いますよ。」とダンス教師の彼女に入れ知恵されたとおりに話しかける。
「いいの? 彼女と一緒に帰らなくても?」
「彼女、今夜は彼氏と夜を過ごすみたいだから、僕は振られたみたいだね。」
「そうよね、貴方は本物の彼氏じゃないものね。あの彼女も恋多き女性だから。」とお互いに笑いながら言葉を交わす。
「ママも今夜は、そんな予定があるんじゃない?」とわざとらしく聞いてみる。
「今は特にないのよ。ちょっと色々とあってね。」と浮かぬ顔だ。
「じゃあ、今夜、片付けの後に食事でもどうです?」と即座に誘う。
「あら、いいわね。パーティーイベントも済んだら、一息付けるわ。」と嬉しそうだ。
ふと、フロアーに目をやると、ダンス教師の彼女がママとの成り行きを見ていて、指を丸め、OKサインを僕に送って面白がっている。
どうも彼女は男女の関係を観察したがる趣向があるようだ。
まあ、僕とダンス教師の彼女は、束縛し合わないセックスフレンドだから、お互いにヤキモキするようなことはない、しかも、それぞれに他の不倫相手はいるのだから。
「社交ダンスをする前は、オールディズパブやディスコでよく遊んでいて、ロックンロールやツイストで踊ってたからかな。荒っぽくてごめんね。」と話すと、
「そうねぇ、正式の社交ダンスなら嫌がられるわね。だけど、今夜は男女の触れ合いを楽しむ秘密の仮面パーティーだから、盛り上がっていいんじゃない。
私もあんなに振り回されるジルバなんて気分が乗って楽しいわ。」と応える。
激しく踊った後でもあり、その女性の背中から腰まで切れ込んだドレスが乱れて、露出した肌が艶めかしい。
さらに、「ねえ、次にアップテンポのジルバナンバーがかかったら、ディスコみたいにツイストなんかやってみてよ。」と興味本位に言ってくる。
僕の後ろから声がして、「いいじゃない、やってみたら。いつもとは違った雰囲気になって面白いと思うわ。」
振り返ると、ダンス教師の彼女が笑顔で立っていた。
このパーティーでは、僕にとって本命ともいえる彼女と向かい合い、すかさず彼女の手を取り、踊り始めた。
やはり、パートナーとしてレッスンしていただけに、水を得た魚のようにダンスができる。
次にタイミングよく、アップテンポのジルバナンバーで舘ひろしの「朝まで踊ろう」がかかり、ツイストを踊ると、先ほどのジルバのお相手の女性も一緒に、ダンス教師の彼女と僕に合わせてツイストを踊ってくれる。それにつられて、パーティーメンバーの何人かもツイストの心得があるのか、踊り始める。
パーティー会場は、ジルバとツイストが入り混じり、さながらロックンロールディスコのようだ。
曲が終わり、踊り終えると、主催者のママが来て、
「いつもと変わった盛り上がりだわ。こんな賑やかなパーティータイムがあってもいいわね。」と嬉しそうだ。
激しいダンスの後はムーディなチークナンバーに変わり、あちらこちらで、身体を密着しながら揺れるように踊っている、にわかカップルが見受けられる。仮面を着けた男女同士だから恥じらうこともないのだろうか。
僕もダンス教師の彼女を抱き寄せるようにして踊り、背中の素肌に触れながら、かぐわしい香水の匂いを嗅ぐと情欲がつのる。
「今夜、抱きたいのだけど、いいかな?」と耳打ちすると、思わぬ応えが返ってきた。
「今夜は駄目よ、彼氏と会うことになっているの。それより、ママを口説いてあげたら? たぶん、今夜だったら、彼女、落ちると思うわ。」
僕は、その意外な言葉でママの方を見た。
彼女は、壁際に沿って並べられた椅子に座り、バーカウンターに置かれてあるドリンクを手に取って飲んでいた。僕と目が合うと、笑顔を返して好意的な感じだ。