「社交ダンスをする前は、オールディズパブやディスコでよく遊んでいて、ロックンロールやツイストで踊ってたからかな。荒っぽくてごめんね。」と話すと、
「そうねぇ、正式の社交ダンスなら嫌がられるわね。だけど、今夜は男女の触れ合いを楽しむ秘密の仮面パーティーだから、盛り上がっていいんじゃない。
私もあんなに振り回されるジルバなんて気分が乗って楽しいわ。」と応える。

激しく踊った後でもあり、その女性の背中から腰まで切れ込んだドレスが乱れて、露出した肌が艶めかしい。
さらに、「ねえ、次にアップテンポのジルバナンバーがかかったら、ディスコみたいにツイストなんかやってみてよ。」と興味本位に言ってくる。

僕の後ろから声がして、「いいじゃない、やってみたら。いつもとは違った雰囲気になって面白いと思うわ。」
振り返ると、ダンス教師の彼女が笑顔で立っていた。
このパーティーでは、僕にとって本命ともいえる彼女と向かい合い、すかさず彼女の手を取り、踊り始めた。
やはり、パートナーとしてレッスンしていただけに、水を得た魚のようにダンスができる。

次にタイミングよく、アップテンポのジルバナンバーで舘ひろしの「朝まで踊ろう」がかかり、ツイストを踊ると、先ほどのジルバのお相手の女性も一緒に、ダンス教師の彼女と僕に合わせてツイストを踊ってくれる。それにつられて、パーティーメンバーの何人かもツイストの心得があるのか、踊り始める。
パーティー会場は、ジルバとツイストが入り混じり、さながらロックンロールディスコのようだ。
曲が終わり、踊り終えると、主催者のママが来て、
「いつもと変わった盛り上がりだわ。こんな賑やかなパーティータイムがあってもいいわね。」と嬉しそうだ。

激しいダンスの後はムーディなチークナンバーに変わり、あちらこちらで、身体を密着しながら揺れるように踊っている、にわかカップルが見受けられる。仮面を着けた男女同士だから恥じらうこともないのだろうか。
僕もダンス教師の彼女を抱き寄せるようにして踊り、背中の素肌に触れながら、かぐわしい香水の匂いを嗅ぐと情欲がつのる。

「今夜、抱きたいのだけど、いいかな?」と耳打ちすると、思わぬ応えが返ってきた。
「今夜は駄目よ、彼氏と会うことになっているの。それより、ママを口説いてあげたら? たぶん、今夜だったら、彼女、落ちると思うわ。」
僕は、その意外な言葉でママの方を見た。
彼女は、壁際に沿って並べられた椅子に座り、バーカウンターに置かれてあるドリンクを手に取って飲んでいた。僕と目が合うと、笑顔を返して好意的な感じだ。