あおいとひろみは遊びなれた古巣の学大のパブでも1、2番を争うほど、男性客の人気が高かっただけに、自分のライバルとして見合うだけの男性と付き合って欲しいと不満気な表情だ。

僕も内心は、あおいの言うように、元カノとしては、もう少しましな男にすればいいのにと思ったが、
「まあ、大企業に勤務しているみたいだし、身辺はちゃんとしているのだからいいじゃないか。」と話すと、店長が、
「彼は派遣の運転手ですよ、彼の仕事仲間と一緒に来ていた時に、彼の同僚からそう聞いたのですが・・。」と怪訝そうな顔をする。
あおいが、「私が聞いたのは、大手のエネルギー会社の秘書室勤務だという事だったわ。」と首を傾げる。
店長が、「それは多分、そこに運転手として派遣されているということじゃないですかね。」と応える。
「つまり、彼は大手会社の秘書室から業務委託を受けた派遣会社の運転手で、役員の送迎などしているというのなら、確かに秘書室勤務とも言えるね。」と僕も納得する。
「ひろみちゃん、そんな彼の素性を知っているのかしら?」とあおいが気に掛けるので、
「知っても知らなくても、ひろみちゃんが気に入っていればいいじゃないか、職業は関係ないよ。現に彼女の夫は、一流商社のエリートだけど、家庭ではとんでもないDV野郎だし、それが彼女の不倫の引き金になったわけだしさ。」と返答する。

元カノのひろみは僕と付き合い始めた切っ掛けは、夫のDVを避けるために家出をしていた時で、このパブで知り合ったのだ。(ブログ前述 仮面夫婦の妻1)
彼女は、会社での出世コースにある役職者としての夫の立場上、表向きは上品な良妻を演じて円満な夫婦を装っているが、実情は夫のDVと浮気を嫌悪して、不倫に逃避する仮面夫婦の妻だった。

あおいが、「そんな夫ならさっさと離婚すればよかったのにね。」ときっぱりと言うが、
「ひろみちゃんはずーと専業主婦だから条件の良い就業もままならないし、自宅も夫名義だから経済的には夫を頼るしかないので離婚は無理だね。
その点、職業が安定した公務員でしかも役付きのキャリアウーマンの、自宅も親譲りのあおいちゃん名義で、経済的に自立できるあおいちゃんとは違うよ。」と窘める。
「そうかしら? 離婚した後に、今度は真面な男性と再婚すればいいじゃない。子育てが終わって、娘さんももう社会人だし、彼女ほどの美貌で40代だったら、年下から年上までの男性のセレクトゾーンは広いと思うけど。」と反論する。
そんなあおいの思い込みで、あとあと、彼女自身が人生の転機を迎えることになるのだった。

ステージで生バンドの演奏がはじまり、チークナンバーがかかると、
その彼氏は、いかにもこの女は俺のものだと見せつけんばかりに、ひろみを抱きしめて踊る。
あおいが「ほらね、ひろみちゃんの彼氏は元カレの貴方を意識しているでしょう。」と言うので、
「こちらはもう彼女と別れているのに、それでも張り合っているのかなあ?」とあきれてしまう。

「それでは、彼氏に安心させてあげるように私達も踊りましょうね。」とあおいが僕の手を引っぱって、ダンスフロアーに向かう。
あおいは僕にふくよかなバストを押しあてて身体を密着させて踊りながら、濃厚な口づけをした後に耳元でささやく。
「これで私達のラブラブの関係がはっきり分かったから、あの彼はひろみちゃんと貴方の事を気にすることも無くなるのじゃない。そしてひろみちゃんもまだ残っている貴方への未練を断つことができるわ。」
あおいのこれみよがしの行為は彼のみならず、ひろみにまで見せつけることを意図していたのだった。

テーブル席に戻ると、顔なじみの店長がやって来て、
「今夜はお熱いことですね。あおいさんも随分、色っぽいですよ。」とあおいに目を向けながら笑顔で僕に語りかける。
あおいは初夏という季節柄、タンクトップにシースルーのカーディガンをかけた装いで、胸元まで素肌が露出している。
先ほどのチークダンスでは、彼女の豊満な胸の圧迫感が僕にとって心地良い感触になった。
さらに店長は、「今日は元カノのひろみさんもアベックで来られていますね。」と話を続ける。
この店長は店のオーナーでもあり、来店歴の長い常連客としての僕の、店での女性関係を含めた行動履歴をよく知っていて、あおいとひろみが鉢合わせして、僕を巻き込んだ修羅場にも遭遇している。

「ひろみちゃんも彼氏ができて落ち着いたようだね。彼氏がぞっこん惚れ込んでいるみたいだし。」と僕が応えると、
あおいが、店長に「でも、ひろみちゃんだったら、外見ももっと良い男性と付き合えると思っていたわ。彼女にもう少しプライドを持ってほしいわね。」と水をさす。

ひろみが席を離れると、あおいはおもむろに語りだす。
「ひろみちゃん、それほど今の彼氏を好きでもないみたい。
もともとは貴方と突然、別れた反動で自棄になっているところに、彼がタイミングよく言い寄って来たので、それほど好みのタイプじゃなかったけど、優しそうだったから、しばらく考えたすえに付き合うことにしたようだわ。」
「そうなんだ、僕への当てつけみたいな気もしなくもないなあ。」
「それもあるとは思うけど、彼女、旦那のDVに悩まされているから、優しくされると寄りかかりたくなるのよ。それだけの気持ちで妥協したんじゃないの。」

ひろみと最初に出会った過去を思い出してみると、あの時は不倫サイトで知り合ったIT企業の女社長とその部下のウェブデザイナーの女性と別れた後の虚しさで、このライブパブで一人飲みしていたら、彼女の方から声をかけて来て、一緒に彼女と来ていた男性を先に返してまで同席してくれた。そして、閉店までいてその夜のうちにラブホに同行したのだった。
その時の彼女の積極性に比べて、いまいち気が乗らないような今の彼氏との成り行きからしてもあおいの憶測どおりだろう。

しばらくして、ひろみの彼氏らしい人物が彼女の席に着いた。
聞くところによると、その男性は僕がひろみとが一緒に来ていた頃のことを見ていて知っていたそうだが、僕はあまり彼の印象が無い。
あおいが、「外見的には美人のひろみちゃんとは不釣り合いな感じだわ。服装もダサいわね」と笑いながら僕に告げる。
確かに少し瘦せ気味で中背の貧相な顔立ちで、ジーパンを履いて幅広の皮ベルトに大きなバックルをつけているのが目立つ。
「でも大企業の秘書室勤務なんだろ、普段は職責上、スーツなんか着こなしていると思うがね。」と僕も訝しく思った。

その彼氏は店内を見まわして僕に気づき一瞬、目を止めたが、僕があおいと一緒にいるので安堵したようだった。
「彼、やっぱり、ひろみちゃんの元カレの貴方が気になるみたいね。でも、ひろみちゃんだったら、もっと素敵な彼氏を見つけてほしいわ。」とあおいが苦笑いする。
「まあ、ちゃんとしたサラリーマンで、危ない輩じゃないからいいと思うよ。」と僕が言うと、
「にわか仕立ての彼氏みたい、いつまで続けられるかしら?」と呆れるようにあおいが応える。