あおいは役所勤めという地味な職場環境での鬱積もあってか、華やかさを求めたがる。
学生時代にはミスコンにも選出されたことがあるくらいで、アラフォーになってもその高身長でスタイリッシュな容姿はキープされていて、芸能界でも充分に通用しそうだ。
本人はそんな自身を自覚しているのか、肌を露出するファッションを装う趣向があり、男性目線をそそらせる。

酒場での交遊も好きで、いつものライブパブや学大のパブ以外にも行き付けのスナックが何店かある。そこにあおいと連れ立って行った時、彼女がトイレから戻って来る途中に、露出した肌に欲情した酔っ払い客に胸を鷲掴みにされ、僕がそいつを叱責して乱闘まがいになりかけたこともあった。
他にもアベックで来ている彼女にも関わらず言い寄って来る連中を、僕が追い払うことも度々あり気が許せない。
どうも彼女は酔うと隙ができるというか、うつろな目つきが人懐っこく色っぽいまなざしになり、肌をさらした身なりで、スケベーな男たちを誘い込むような魅力を発散させてしまうみたいだ。

クルージングの日程が決まって、当日は川上が運転手付きの社用車を用意してくれた。
彼女達は揃えたのか、同じようなつば広の白いキャップをかぶり、白地の紺のボーダーライン柄のスクエアーネックカットソーに、あおいは長めの白いワイドパンツ、はるちゃんはライトブルーのキュロットスカートで、いかにもマリーンルックというファッションだ。

高級車の広めの車内だが定員5人乗りの満席だけあって、その空間に彼女達のスポーティーで健康的な色香が漂い、助手席の川上も満足気な表情だ。
僕はあえて後部座席の真ん中で、彼女達が窓側から景色が眺められるようにと着席している。すでに体の関係があるとはいえあおいと若々しいはるちゃんに挟まれたシチュエーションは、座り心地が悪くても気分は満更でもない。
待ち合わせ場所の用賀を9時に出発して第三京浜玉川ICから高速道路に入り、横浜横須賀道路を南下し、葉山に10時過ぎに着いた。
クルーザーには11時に乗船し、途中の海上停留を含めて、2時間程かけて相模湾を周遊する予定だ。

マリーナ近くにある川上の会社のリゾート施設は、平屋建ての白亜の外観で広い敷地に屋外プールまで併設している。
社用の接待にも利用している充実した建物で、幾部屋ものゲストルームに研修用の会議室、マシーンが設置されたジムスペース、おまけにリラクゼーション&マッサージルームまである。食堂と厨房は、ちょっとしたファミレス並みだ。
彼女達は、「ここだったら宿泊してゆっくりしたいわ。」と言いながら、二人とも夫のある身だから、残念ながら日帰り旅行に限られている。

旧山手通り沿いに古くからあるショップや飲食店のある複合施設のヒルサイドテラスを通り過ぎると、集客で賑わうイタリアンレストランがある。
「このカフェがやまとなでしこのドラマのオープニングロケで使われたミケランジェロだわ。」とあおいが声を上げる。

以前に『不倫サイト2』で知り合ったIT関連の女性経営者と最初の顔合わせをした八幡通り沿いにあるフレンチレストラン「タブローズ」から歩いた散策コースと重なり、代官山はいい女を連れて歩くにはふさわしい街だと思われた。

ミケランジェロを過ぎたあたりで渋谷方面へのタクシーを拾い、円山町に向かう。
ラブホに入ると、すぐにあおいを抱きしめ、カーディガンを脱がすと、キャミソールワンピースのなだらかな肩先からふくよかな胸の谷間まで露出した肌に欲情がそそる。
萬葉庭でのはるちゃんのチューブトップの露わなコスチュームにも刺激を受けていたこともあり、女性の肌の露出に、男性は視覚で性的興奮のボルテージが上がる。
「どうしたの? 随分、性急なのね。」とあおいが聞いてくる。
「なにか今日は君の色香に我慢ができなくなってね。」と応えて、ベッドに押し倒し、慌ただしく、あおいの衣服をはぎ取るようにして、性交に及ぶ。

半ば、強姦まがいのセックスにあおいも受け入れてくれたが、行為のあとに、
「いつもの貴方らしくないわね。まるでうちの夫みたいだわ。」とあきれている。
「ごめん、萬葉庭でのあおいちゃんが妙に色っぽく見えてさ。発情したみたいだ。」とおどけるように応えると、
「それって、私だけじゃなく、はるちゃんの色気にも惑わされたんでしょう。」と睨むよう言う。
どうやら、あの時の僕の色欲の心情を見透かされているようだ。
あおいは、「それに私、まだイッてないから、次はちゃんとやってちょうだい。」と要求してくる。
愛情が無くなった旦那の性的欲求の捌け口で、いつも性交を強要されている彼女にとっては、体目的だけの男の短絡的な性行為ではなくて、愛情のオーラに包まれた優しさとゆとりあるセックスを望んでいるのだろう。

その夜は12時には帰宅しなければいけない彼女を、会食の後にはるちゃんと代官山のロケ地巡りをするつもりが、僕の衝動的な情欲に付き合わせてしまうことになったのだ。

あおいが、「貴方の秘書って綺麗な人なんだ。本当に今まで何も無かったの?」と聞いてくる。
「何もないから、彼女は長年、勤続しているんだ。川上みたいに不倫関係になれば、仕事も長続きしないよ。」ときっぱり否定する。
セクレタリーの事は前カノの仮面妻ひろみにも疑われていた。
「どんな方か、会ってみたいわね。」とあおいは関心を持ったようだ。

懐石風の料理に舌鼓をうちながら飲食もすすむ。
ビル内に人工的に造作された景観とはいえ、池面に映し出される淡いライトの揺らぎに植栽の花々が彩をそえて、酒宴の雰囲気を盛り上げる。

そんなムードと酒に酔いしれて、皆、すっかり打ちとけて和んでいる。
彼女達は酔いが回り身体が火照ってきたのか、薄手のはおり着を脱ぐと、両肩から胸元まで肌が露出して艶めかしい。
あおいとはすでに体の関係はあるが、なにか新鮮な情欲にそそられる。
もちろん、はるちゃんにもこぼれるような色気を感じるが、あえて目線を外して、あおいに悟られないようする。
川上も同じように、女性二人の色っぽさにご満悦の様子で視線が泳いでいる。

僕はあおいを抱きたくなり、この後は二人だけになりたいとそっと耳打ちする。
二時間あまりで宴をお開きにして、川上は思わぬ美女との遭遇に上機嫌で帰途についた。
はるちゃんにはタクシーチケットを渡して乗車させ見送った。
あおいは代官山界隈を酔い覚ましに少し散策したいと言うので、代官山アドレスから旧山手通りに向かうと、彼女は腕を絡ませて僕に身を寄せるように歩く。
通り沿いには多くの若い女性が目に付く。
代官山は新宿や渋谷みたいな繁華街の喧騒とした賑やかさは無いので、上品な夜の帳の散策には向いている街並みだ。

あおいが語るには、「あのやまとなでしこのドラマ以来、ロケ地めぐりが人気になっているのよ。」
「だから、この辺りには若い女性が集まっているんだ。」
「私もその一人よ。はるちゃんもね。貴方、彼女を先に帰して悪い人だわ。」と悪戯ぽっく笑いを浮かべる。

この頃は「TVドラマの聖地巡り」と言う言葉があったのか定かではないが、現在はスマホが普及し、インスタ映えする人気ドラマのロケ地が数多くSNSでアップされるようになった。