夏場のクルージングシーズンでもあって、船着き場周辺は多くの船舶が係留されている。
彼の所有するクルーザーは真っ白な船体に矢羽根のようなブルーラインが描かれた10メートルは超える船舶だ。
乗船すると潮風が心地良いオープンデッキでチェアーに寝そべりながら眺望を楽しむことができる。船内はコックピットが見通せる広々としたリビングルームのようなキャビンで、ベッドにも転用できるソファーが配置されて、船中泊もできるそうだ。
川上から船室から出た時は着用するようにと、皆にオレンジ色のライフジャケットを手渡される。彼は、黒のつばと額部分のエンブレムに金糸で立体感のある月桂樹模様が縫い込まれた、白地のキャプテンハットをかぶり、航海の気分を盛り上げる。
そんな姿で彼が操舵を始めると、あおいもはるちゃんも「素敵、格好いいわ。」と褒めたたえる。
彼は「俺、こんな美人達に持てはやされるなんて、久々だわ。」と照れている。
「いや、確かに見た目、海の男って感じで頼りがいがあるよ。船長。」と僕もおだて上げる。
彼は操縦しながら、ガイドもしてくれる。
出航して程なく、葉山灯台が姿を現す。
別名、裕次郎灯台とも言われ、往年の大スター石原裕次郎の3回忌に建立され、葉山のランドマークとしても知られている。
灯台とその近くにある小島に建つ鳥居、そこから遠方に富士山がかすんで見える。
彼は、その3か所が見通せればラッキースポットだと話す。富士山はよほど天候が良くないと、なかなか姿を現さないらしい。
「私達、ラッキースポットOKよね。何か良いことあるかしら?」とはるちゃんが言うと、あおいが「恋愛運かもね? でもはるちゃんは旦那様がいるから、金運かな。」と応えると、「さあどうかしら、あおいちゃんみたいに既婚でも恋愛しているから、私もこの先、分からないわ。」と意味深な笑みを浮かべる。
波風も穏やかで、船はゆっくりした速度で進み、折り返し地点の江の島沖でとどまる。
江の島は、江の島大橋から陸路側で眺める観光地として開けた姿を表とするならば、船が留まっている海側から見る裏の景観は断崖絶壁が連なり、自然のままの荒々しさを印象づける。
女性二人は、キャビンに備え付けの冷蔵庫から冷えたビールを取り出し、持ち込んでたつまみで酒食の用意をする。川上も停留中は操舵から離れて合流する。彼はアルコールが飲めないのが辛そうだが、ノンアルコールで乾杯する。