マン・ツー・マンのレッスンなので、ダンス教師の彼女と何度も演舞を繰り返して、ワルツの最終レッスンを終える。
「何とかマスターできたようだわ。あとは自信をもって女性と踊ることね。これ貴方が着けるマスクよ。」と彼女はにこやかに話しながら、仮面舞踏会用のマスクを渡してくれる。

アイマスクというより、片側に銀色の鷹の羽が伸びている黒いハーフマスクで、装着してみると鼻から上が覆われる。
「このマスクは背の高い人でないと似合わないのよ、貴方にはピッタリだわ。」と彼女が選んだだけに満足気だ。
「君はどんなのを着けるの?」
「ふふっ、それは会場でのお楽しみね。」と思わせぶりに応える。

仮面舞踏会の当日になり、ダンス教師の彼女と開催場所のホテルで待ち合わせる。
マスクに合わせるようにブラックスーツを装って来たが、彼女は、「私の見立て通りね、格好いいわよ。」と笑顔を見せる。
彼女は、これからパーティードレスに着替えて、仮面を着けるので、
「君が、どんな美魔女に変身するのか期待しているよ。」と言うと、
「私だとすぐに分かるかしらね、女性陣は皆、美魔女だから。」と楽しそうだ。

ロビーで彼女から離れ際に、
「これからは別々の行動になるわよ、私ともお互いに見ず知らずの他人ということで振舞ってね。
貴方は大丈夫だけどカップルで参加すると、なかには自分の女性パートナーが他の男性と接しているとイライラする人もいるから。パーティールームに入る前に必ずマスクを着けてね。」とルールを再度、告げられる。

僕はロビーのソファーに座り、彼女の着替えの頃合いをみて、
少し時間をおいてから会場に向かった。
男女別の着替え用控室も用意されているが、僕は平服のスーツ姿だから、マスクを着けるだけで入室する。

入り口横で来訪者の受付をしている女性がいる。
ラメが煌びやかな白地のベアトップドレスを身にまとい、シルバーに部分的に薄いピンクをカラーリングした蝶々のデザインのベネチアンマスクを着けている。
バストラインから肩にかけてむき出しになった素肌が艶めかしいが、何か神々しい上品な色気を感じさせる。
僕を見て、すぐに分かったのか、口元に笑みを浮かべて参加者リストにチェックを入れる。
仮面は着けているものの、僕も彼女があのソシアルダンスサロンのママだと分かる。

場内は、やや薄暗く、メンバーは全員が仮面で素顔が分からないが、確かにママが人選しただけあって、そのシルエットは、人並み以上の容姿だ。
室内を見渡し、ダンス教師の彼女を捜す。