「さのっちは、このパブスナックには6年前ぐらい前から来ていて、その頃はまだ愛人のなっちゃんは同伴していなかったわね。
彼は気さくで話やすいから、私やひろみちゃんも飲み友として親しくなったの。
それに、背が高くて恰幅もいいから、彼と一緒にいると言い寄る危ない男性連中の抑止ができて、ボデーガードにもなるのよ。」と話す。
「でも、彼もひろみちゃんやあおいちゃんみたいな美人がいると、単に店での飲み友だけでなく口説きたくなるのじゃないかな?」と言うと、
「ええ、そうよ、でも私もひろみちゃんもそれ以上の関係は望んでなかったの。
彼は私に、『渋谷の紳士服専門店でスーツを買いたいから一緒に行って、あおいちゃんのセンスで見立ててくれないかな、その後にディナーでもご馳走するからさ。』、って誘ってきたから、まあ、買い物に同行するぐらいならいいか、と思って約束したの。」
「うまい口説き文句だな、それで、付き合ったんだ?」
「ううん、当日になって、ドタキャンしたの。やっぱり、オヤジ系は気が進まなくなってね。洋服を選んであげるなんて好きな人にしかできないわ。それにお腹の出ている男性は生理的にも無理なの。彼とはとくにプライベートは抜きにして、パブスナックだけの良好な仲間内関係に止めたいのよ。」と笑いながら話す。
「さのっちは、根はいい奴だと思うけど、プライドが高そうだから、あおいちゃんにドタキャンされた時はそうとう気分害してたんだろうね。」
「ええ、店では、しばらくは私には気まずそうな様子だったわ。そのうち、さのっちがなっちゃんと同伴で店に来るようになってからは、また、親しく話すようになったの。」
「彼とひろみちゃんとはどうだったのかな?」と聞くと、
「ひろみちゃんは私と違ってオヤジ系でもOKだけど、彼には関心が無かったみたいだわ。ただ彼女がスナックの雇われママになっていた頃は、さのっちはそこに通っていたようね。それからのことは、ひろみちゃんとあまり会わなくなって、よく知らないわ。」と応える。
それからのことは、僕がさのっちに聞いた、ひろみのレイプ事件の後でメンタルが落ち込んだ彼女とカーセックスをした話になる。
「まあ、温厚な性格のなっちゃんだったら、あおいちゃんにふられた彼も癒されそうだね。彼女は彼にはもったいないくらいの女性だと思うよ。」と感想を述べると、
さのっちの彼女をほめたことが気に障ったようで、あおいは「あら、貴方にとって、私はどう思っているのよ。ていうか、ひろみちゃんとはどうだったよ?」と問いつめてくる。
あおいとひろみが顔見知りだったということが発端の、思いがけないひろみとの別れが過ぎて、その後はあおいとはより親密に交際するようになった。
あおいはひろみに増して遊び好きな性分で、夜に呼び出されることが何度もあった。
以前、ひろみとは夜の逢引きは、おもに亭主が出張の時ぐらいで、それ以外は昼下がりの情事がたまにある程度だった。
あおいは連チャンで飲みに出ることが度々で、彼女がひろみやさのっちと交遊していた学大のパブスナックに連れ立って行くようにもなった。
その店のスタッフが話すには、彼女は酒好きで焼酎ボトル一本を空けることもあり、酔っ払って前後不覚になり、旦那が迎えに来たことも幾度となくあったそうだ。
あおいの色っぽい容姿からして、酔った彼女に言い寄る男達もいて、女性客からは、彼女への妬みもあってか、まだ中学生の子供がいるのに、連夜、店で酔い痴れていることへの批判もあったらしい。
そして、さのっちも述べていたように、やはり、年配のオジさん連中には見向きもしないで、年下のイケメン系にしか関心を示さなかったあおいが、店内で年上の僕にラブラブになる様子を見て驚きでした、とも言っていた。
仮面妻のひろみも、あおいと同じように男性客には人気があり、さのっちが話してくれた画家とひろみのヌードモデルの件もこの店で起きた事だった。
あおいとひろみは似て非なるところもあるが、男性客にはモテモテだった分、女性客には妬みをかうみたいなところで、似た者同士、仲は良かったようだ。
このパブスナックは、あおいやひろみが30代の頃から通っている彼女達の古巣ともいえる店で、ここのスタッフは全員男性で、生バンドは無いが、カラオケでダンスも踊れるので、ちょっとしたホストクラブぽい感じもする。
そんな雰囲気の店だから、熟女系の女性客も足蹴く来店するので、その女性達を目当てに年配男性も多く訪れる。
たぶん、さのっちも横浜からよく来ていたのも、そんな思惑があったのかもしれない。
彼とひろみはすでに情交しているのは知っているが、あおいにも彼の誘惑が無かったか、聞いてみたら、面白い答えが返ってきた。
あおいが、年配女性に「さち子さんはまだアラフィフだから、ロマンスグレーの踊れる殿方があらわれるかもよ。」と話しかける。
「あおいちゃんはいいわよね、アラフォーなのに、アラサーのはるちゃんと遜色ないくらいの容姿にみえるから、年下男性でも全然いけるわよ。」と可愛い系の女性と見比べながら応える。
「はるちゃんは、その気になればすぐに素敵な彼氏ができるかもね。」とあおいが言えば、「私はまだ子供に手がかかるし、今は夫を裏切るようなことはできないわ。」と応える。
「今はできないという事は、私の歳ぐらいになればそれもあり、ということかしら?」とあおいが突っ込みを入れると、
「その時にならないと分からないけど、あおいちゃんみたいに夫に愛想が尽きればありかもね。」と笑いながら返答する。
そんな既婚女性同士の際どい会話を聞いていると、妻が不倫に走りやすい世代は、子育てから解放されて身軽になり、外気にあたる機会もできて、合わせて夫への倦怠感が生じる40代に多いのだろう。
また男性目線から見ても、40代人妻は、女ざかりというか、成熟した艶やかさに満ちていて、年下から年上までの幅広い年代の男性からの誘惑も増える。
実際、あおいや仮面妻のひろみもそうだった。
店内がカラオケタイムになり、「ねえ、あおいちゃん、彼氏とディエットしてもいい?」と年配のさち子さんが頼むので、
「ええ、貴方、一緒に歌ってあげてよ。」とあおいが僕にうながす。
「どんな曲がいいの?」と聞くと、
彼女の世代に合った「北空港」をリクエストする。
歌いながら、さち子さんが僕の腰に手をまわすので、やむを得ず彼女の肩に手をかける。
席に戻ると、あおいがやや不機嫌そうだ。
そして僕の耳元に手をあて、「なにもあそこまでスキンシップすることは無いでしょう。」と小声で言う。
あおいの嫉妬深さをあらためて思い知らされた。
嫉妬心は煩わしく思うこともあるが、ある意味、愛情のバロメーターで、好きでもない男に嫉妬はしない。嫉妬心が強ければ強いほど、愛情も深いと言えるだろう。
あおいの機嫌直しに「ロンリーチャップリン」をディエットすると彼女は嫉妬心もあってか、僕に身体を密着するようにして歌う。
そんな素振りをするあおいが可愛いとも思えたが、仮面妻のひろみと別れたばかりの夜なのに、何事も無かったようにあおいと過ごしている自分に割り切れぬ気持ちもあった。