途中、伊豆高原あたりのロードサイドのレストランで昼食をとり、海沿いを散策したいというあおいの要望で城ケ崎海岸に立ち寄る。

最寄りのパーキングから100m程歩くと門脇灯台に着く。
展望台からは紺碧の海に浮かぶ大島や八丈島など伊豆七島が望められ、見下ろせば海面から切り立った数十メートルの断崖が延々と続き、荒波が高い飛沫をあげて打ち寄せている。
あおいは「海水浴で行った穏やかな海辺ぐらいしか見てなかったから、こんなダイナミックで荒々しい海岸を間近で見るのは初めてだわ。」と驚嘆している。

灯台下の断崖の先端に二人で向かう。ヒールを履いたあおいがごつごつした岩場で足取りがおぼつかないので、僕が手を取り、しっかり支えながら進む。
海風に彼女の長い髪がなびいて僕の顔にかかり、香しい匂いが漂う。
断崖の先端付近から下を見ると、吸い込まれそうな深淵と豪快な波音にあおいは「怖い!」と声を上げて、僕にすがりつく。
僕は「じゃあ、もっとスリルのある所に行こうか。」と笑いながら次のスポットに向かう。

灯台から80m程の距離に城ケ崎観光で有名な門脇吊り橋があり、断崖絶壁に架けられた橋からは目もくらむような絶景で、サスペンスドラマの撮影場所としてもよく使われている。
吊り橋の手前で、あおいが「私、ちょっと高所恐怖症気味なのかも・・、足がすくみそうだわ。」と気後れしている。
ちょっと見、吊り橋だけにワイヤロープで吊り下げられ、通路は板張りですれ違いができる程度の橋幅で、真下の海面までは数十メートあり、揺れるような感じがしてスリリングな気分だ。
それでも彼女の背中を押すようにして、橋を渡りきった先の休憩所脇に【城ケ崎ブルース】の歌碑がある。昭和43年に(黒沢明とロス・プリモス)によりリリースされた曲で、その大ヒットにより、観光客が増加した記念に建てられたもので、昭和世代には懐かしいムード歌謡だ。
あおいがその歌碑を見ながら、「この曲知っているわ。学大のスナックで年配客がよく歌っているの。」と言う。
「あおいちゃんはその曲が流行った頃はまだ小学生だったんだね。」と聞くと、
「そうね、でも、私もカラオケで歌えるわ。オジサマが喜ぶのよ。」とにこやかに応える。

城ケ崎を後にして、熱川に向かう。今夜の宿泊先の温泉ホテルも近い。

あおいは役所の役職のある正職員として勤務していて、専業主婦のひろみのように、比較的自由に時間の取れる昼間の情事というわけにはいかない。
だからデートは彼女の終業後の夕刻から深夜12時までで、週一ぐらいの頻度で逢うようにしていた。
僕と付き合う前から女友達と夜遊びをしていたのが習慣となっていて、ある程度の夜の外出は旦那も許容していたようだ。
そんな彼女との逢瀬で、ライブパブでの遊興やラブホテルでの情交もしていたのだ。

あおいからせがまれていた同伴旅行については、伊豆の熱川にあるジャングル温泉風呂で評判のホテルに一泊二日で予約を取ることにした。
熱川バナナワニ園も近場にあり観光もできる。

ラブホデートの折に、その話をベッドの中で告げると喜んで身を寄せて絡みついてくる。
そんな彼女を抱きしめて、濃厚なセックスをしたが、なにかいつもより彼女の感度が良く、絶頂の瞬間が早い気がした。
引き篭もり亭主とは旅行経験の無いような彼女にとっては、よほど嬉しかったのだろう。

情交の後の心地よい気だるさのなかで、彼女が思いついたように聞いてくる。
「ひろみちゃんとも旅行したんだよね、どこへ行ったの?」
「伊豆とは反対方向の房総方面だよ、勝浦のリゾート施設だね。」と応えると、
「なら、いいわ。同じ伊豆方面だと、ちょっと嫌な感じがするけど。」と安堵する。

ただ、僕は以前にも伊豆方面に女性同伴で旅行に行ったことがある。
このブログに前述している『フロアーレディ』のライブパブの女性スタッフと伊豆高原の洒落たペンションに泊まり、童話のシーンにあるような宝石風呂で混浴した経験がある。
また、この彼女とは、ひろみと旅行した勝浦のリゾート施設にも同伴している。
そんなことを思い起すと、あおいにはなんとなく後ろめたい気がする。

あおいが有給休暇を取り、旅行の当日になって車で伊豆方面に向かう。
彼女は、旦那には女友達と旅行するという口実で、友達にもアリバイ工作をしたそうだ。
僕は、いつもの経営者クラブの研修旅行という名目で、会社のセクレタリに告げてきた。
東名高速から小田原厚木道路を抜けて、海岸線沿いの135号線から真鶴道路、熱海ビーチラインを走る。
晴天の青空と海を分ける地平線上に数隻もの船舶が浮かび、海岸の岩礁には白い波しぶきがリズミカルに押し寄せる。
あおいはそんな光景に感激して見入っている。

「ひろみちゃんは、君も知っているとおり、旦那のDVからの逃避で、その拠りどころを僕に求めていたので、彼女とは楽しく過ごせるように気にかけていたよ。」と当たり障りのないように返答をすると、
「それで貴方が私と会うまでに、彼女とは2年もの不倫が続いたのね。その間はどんな交際をしていたのよ?」と聞いてくる。

僕の前カノがあおいの知らない女性だったら、それほど関心は無いとは思うが、親友のひろみだけに興味深々みたいだ。
「まあ、今の君との付き合いと同じように食事したり、パブで遊んだりしていたよ。あと、彼女の旦那の出張の折には、旅行にも行ったことがあったなあ。」と言うと、
「ひろみちゃんと旅行もしていたのね。私は役所の慰安旅行ぐらいで、プライベートの旅行なんて、随分と行ってないわ。ひろみちゃんは貴方と旅行するなんていい思いをしていたのね。」と妬ましそうだ。

「職場の旅行も楽しいじゃないの?」と聞くと、
「私にとっては、苦痛だわ。宴会で上席のオヤジ連中のお酌をして機嫌をとったり、セクハラまがいのこともあったしね。」と応える。
「そうか、あおいちゃんは美人だから、職場のオヤジさん達にはうってつけの宴会の花になるのだろうな。」と笑いながら言うと、
「冗談じゃないわよ、コンパニオンじゃないから。そんなことより、私だって貴方とプライベートでのんびり旅行して癒されたいわ。」と僕にねだるような目つきをして、ひろみと張り合っているようにも思える。

「だって、君の旦那は出張なんてしないから、僕と宿泊するような旅行の機会はなかなか取れないだろう?」
「女友達と旅行したことにして、口裏を合わせてもらうようにはできるわ。」
「よくある不倫旅行の手口だね、旦那は信用するのかな?」と懸念すると、
「大丈夫よ、今までにも外泊まではしなかったけど、元カレと遅くなった時にはアリバイ工作してもらっていたから。」と気やすく応える。
「土、日曜は外した方がいいけど、あおいちゃんは平日に仕事は休めるの?」
「ええ、有給休暇も残っているから大丈夫よ。」
「じゃあ、のんびり癒されるなら、やっぱり、温泉がいいのかな。あまり遠出はできないから、伊豆あたりでどう?」
「いいわね、旅行先は貴方にお任せして、楽しみにしているわ。」と嬉しそうだ。
ひろみとのかっての交際話から、その成り行きであおいとも同伴旅行することになったのだが、その宿泊旅館で思いもかけないアバンチュールがあったのだ。