リラクゼーションルームには全身を包み込むような大型の高級マッサージチェアーやマッサージ専用ベッドが配置されている。

「ここでマッサージ師をよんで施術してもらうんだね、揉みほぐされると気持ちいいだろうなあ。」と川上に言うと、
「専門のセラピストも依頼できて、心身の不調な部位ごとに対処療法もしてくれるよ。」と応えると、はるちゃんが、「私、肩こり気味だから頼んでみたいわ。」と興味ありそうだ。
あおいが「入浴後に浴衣を着て、このマッサージチェアーを使うと血行が良くなりそうね。でも、今日は温泉には入れないけど。」と言うので、
「じゃあ、下着だけになってやってみたら。」と笑いながら話すと、
「いやらしいわね、でも試してみたいわ。」と、あおいはチェアーに座り、リクライニングして全身自動コースを選択し、スイッチを入れる。しばらくすると身体がリラックスしたような状態になり気持ちよさそうだ。


川上がはるちゃんに、「僕はここでよく施術してもらっていて、マッサージの手ほどきも受けているから、ある程度の心得はあるよ。よかったら、軽くしてあげようか?」と冗談ぽく声をかける。
彼があまりにもあからさまにアプローチするので、僕は多分、彼女がNOと応えると思ったが、ランチタイムで酒を飲んで酔っていることもあるのか、
「ええ、お願いしてもいいですか?」と僕が制止するまでもないまま、あっさり承諾する。
彼女は専用ベッドでうつ伏せして横たわると、川上は彼女の肩先から、手をかけて揉み始める。
あおいもチェアーに座ったまま止めようともしない。
たしかに川上のマッサージの手つきは特にいやらしくもなく、本職並みに見える。
施術は5分ほどで終わり、はるちゃんは気分が良いのか満足気だ。

僕が川上に「マッサージ上手いね、次は俺もやってもらおうかな?」と皮肉っぽく言うと、彼は「女性オンリー、あおいちゃんだったらいいよ。」とにやけ顔で応える。
「はるちゃん、喜んでいるから私もお願いしようかしら?」と言うので、僕は慌てて、「マッサージチェアーで充分だろ。」と止めに入る。

リラクゼーションルームでしばらく過ごした後、彼女達は主婦なので、夕刻までには帰れるように、迎えに来た社用車に乗って帰途についた。
用賀で解散した後、道すがら僕は「川上とはるちゃんはどうなのかな?」とあおいに聞くと、「さあ、どうかしら? 彼女、今回の件で好奇心が募り、アバンチュールを楽しみたくなるかも。川上さんみたいな大人の余裕のある男性に惹かれることもあるわね。私も貴方とはそんな心情だったから。」と意味ありげな笑みを浮かべる。

2時間ほどのクルージングを終えて、リゾート施設に戻る。
彼が事前に手配してくれていた、ケータリングでランチタイムを過ごす。
企業接待でよく利用している業者のようで、手際よく料理、配膳をこなして、ソムリエのようにワインまで注いでくれる。
地場の新鮮な魚介をふんだんにフレンチ風に調理したコースメニューだ。

あおいは「まるで高級レストランで食事しているみたいね、簡単にデリバリーでも取っていただいても良かったのに・・。本当に有難うございます。」と川上に礼を述べる。
「川上君の会社は業績も良いし、甘えてもいいんじゃないかな?」と僕が笑いながら言うと、
彼が「皆が宿泊できたら、ナイトクルーズやバーテンダーを頼んでカクテルディナーも楽しめたんだけどね。」と話すので、
「それに宿泊すればサウナ付きの浴場でゆったりもできるしさ。」と僕が話を続ける。


はるちゃんが「私、結婚してからあまり外泊するような旅行していないから興味あるわ。」と応える。
あおいも「それは私も同じ、色々と旅行して羽を伸ばしたいわ。貴方、また、どこかに連れてってよ。」と僕を見る。
僕は「二人とも独身じゃないから、そうそうは無理だね。」と応えつつ、あおいとは、伊豆の熱川に一泊旅行したこともある。(前述『混浴風呂のアバンチュール』)

川上が、「僕はいつでも歓迎するよ、その気になったら連絡してね。」と乗り気になっている。
僕が「あまり人妻を誘うようなことは良くないな。」と釘をさすと、
彼は「でも君はあおいちゃんとはすでにそんな関係なんだろ。」と意に介さない。
確かにその通りだから、彼に対しても僕の言葉に全く説得力は無い。

僕と川上の話のやり取りを聞いていたのか、
はるちゃんが、「ナイトクルージングで海上で停泊し、波に揺られて
夜景や星空を見ながら夜を明かすのって、一度経験してみたいわ。」と呟くように言うので、
すかさず川上が「はるちゃんから
連絡くれれば船を出すよ。」と応える。
あおいが、「嫌ねぇ、川上さん、下心丸出しだわ。その時は必ず私も一緒よ。」と口を挟む。
川上が、「下心なんて無いよ。もちろん、あおいちゃんと二人でもいいよ。」と言葉を取り繕う。

そんな際どい話も交えて談笑しながらランチタイムを過ごした後に、リラクゼーションルームに向かう。

夏場のクルージングシーズンでもあって、船着き場周辺は多くの船舶が係留されている。
彼の所有するクルーザーは真っ白な船体に矢羽根のようなブルーラインが描かれた10メートルは超える船舶だ。
乗船すると潮風が心地良いオープンデッキでチェアーに寝そべりながら眺望を楽しむことができる。船内はコックピットが見通せる広々としたリビングルームのようなキャビンで、ベッドにも転用できるソファーが配置されて、船中泊もできるそうだ。

川上から船室から出た時は着用するようにと、皆にオレンジ色のライフジャケットを手渡される。彼は、黒のつばと額部分のエンブレムに金糸で立体感のある月桂樹模様が縫い込まれた、白地のキャプテンハットをかぶり、航海の気分を盛り上げる。
そんな姿で彼が操舵を始めると、あおいもはるちゃんも「素敵、格好いいわ。」と褒めたたえる。
彼は「俺、こんな美人達に持てはやされるなんて、久々だわ。」と照れている。
「いや、確かに見た目、海の男って感じで頼りがいがあるよ。船長。」と僕もおだて上げる。
彼は操縦しながら、ガイドもしてくれる。

出航して程なく、葉山灯台が姿を現す。
別名、裕次郎灯台とも言われ、往年の大スター石原裕次郎の3回忌に建立され、葉山のランドマークとしても知られている。
灯台とその近くにある小島に建つ鳥居、そこから遠方に富士山がかすんで見える。
彼は、その3か所が見通せればラッキースポットだと話す。富士山はよほど天候が良くないと、なかなか姿を現さないらしい。
「私達、ラッキースポットOKよね。何か良いことあるかしら?」とはるちゃんが言うと、あおいが「恋愛運かもね? でもはるちゃんは旦那様がいるから、金運かな。」と応えると、「さあどうかしら、あおいちゃんみたいに既婚でも恋愛しているから、私もこの先、分からないわ。」と意味深な笑みを浮かべる。

波風も穏やかで、船はゆっくりした速度で進み、折り返し地点の江の島沖でとどまる。
江の島は、江の島大橋から陸路側で眺める観光地として開けた姿を表とするならば、船が留まっている海側から見る裏の景観は断崖絶壁が連なり、自然のままの荒々しさを印象づける。
女性二人は、キャビンに備え付けの冷蔵庫から冷えたビールを取り出し、持ち込んでたつまみで酒食の用意をする。川上も停留中は操舵から離れて合流する。彼はアルコールが飲めないのが辛そうだが、ノンアルコールで乾杯する。