今回はSF「プリデスティネーション」(2014年)。
凄い映画でした。脚本と言いますか、原作の凄さですかね、これ。
"Predestination" Photo by Jorge Figueroa
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主人公は時空警察のエージェント(イーサン・ホーク)。
エージェントは、爆弾魔がニューヨークを恐怖に陥れる前に事件を未然に防ぐべく、1970年3月にタイムスリップ。
しかし、すんでの所で犯人を取り逃がし、自身は重傷を負います。
元の時代に戻ったエージェントは、大手術を受けて回復しますが、見た目は別人になります。
度重なるタイムスリップは心に深刻なダメージを与えるため、エージェントは最後の任務として1970年11月のニューヨークにタイムスリップ。
エージェントが潜入してバーテンダーをしている酒場に、ある晩ジョン(サラ・スヌーク)という風変わりな男が現れます。
ジョンは安っぽい雑誌に「未婚の母」として記事を書いて日銭を稼いでいると言います。
エージェントが、なぜそれほど女性心理に詳しいのかジョンに尋ねると、彼は挫折の連続の半生を語りだす。…
"Predestination" Photo by Jorge Figueroa
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ジョンの回想が物語にどう関わりがあるのか、謎解きしようと観ていましたが、想像を超える展開でした。
監督脚本も書いたスピエリッグ兄弟。オーストラリア発の映画です。
原作「輪廻の蛇」を書いたロバート・A・ハインラインは、SF小説の巨人の一人。
SF少年だった子ども時代、ハインラインとアイザック・アシモフ、アーサー・C・クラークはワクワクして読みましたわ~。
ハインラインが1950年代に「輪廻の蛇」を書いたことは驚異的です。
その未来を想像する力と科学的視点、そして時代関係なく横たわる普遍的テーマをよく考えたな~と。
「プリデスティネーション」は、2024年の今観ても全く時代遅れがなく、誰もが一度は考えたことがある問いを扱っています。
それは 「卵が先か、鶏が先か?」。
でも、考えてみれば過去に全く囚われない存在~雄鳥がいる。
あるいは「ウロボロスの蛇」。己の尻尾を食らう蛇のモチーフです。
輪廻の如く、時を超えて永遠にぐるぐる、始点と終点は永遠に謎。
「プリデスティネーション」は、まさにタイムパラドックスの極み。
このパラドックスに気づいた時、強烈なジレンマが襲ってきます。
"Predestination" Photo by Jorge Figueroa
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SFでタイムスリップものは多いですが、そのおもしろさ(コワさ)を「プリデスティネーション」ほど表現した作品は無い、と思いました。
ハリウッド発のタイムスリップ作品でよく観られるのは、人が歴史を変えることへの抵抗感がゼロ、というパターン。
むしろ、 人間は歴史を変えることが出来る、運命を変えることが出来ると、奨励している。
「ターミネーター」は、まさにそうですよね。
見方を変えると、欧米の「人間が万物をコントロールする」という価値観を反映しているかのようです。
日本人の感覚からすると欧米の価値観はかなり傲慢に思えますが、「プリデスティネーション」ではその危うさも描かれていることが異色で好感が持てます。
(「歴史にタイムスリップした痕跡を残すな」というルールを敢えて違反することが時に大きな達成を得ることになるかも、というくだりはありますが。)
つまり「人は運命を変えることは決して出来ない」ということですね。
タイトルの「Predestination」とは「宿命」という意味です。
時間を旅して過去に戻って悪い事態が起きないよう予め処理しても、結果そうなってしまう。
人が決して操作出来ないもの。それが宿命。あるいは運命と呼ばれるものです。
人は宿命から逃れることは出来ないんですね。
"Predestination" Photo by Jorge Figueroa
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主演2人の鬼気迫る演技力が、この物語を真に迫らせています。
イーサン・ホークは昔から好きな俳優です。
近年は眉間に刻まれた深い皺が演技者としてさらなる境地に辿り着いてますね。
サラ・スヌークは初めて知りました。
本作を観てもらえば分かりますが、ジョディ・フォスターとレオナルド・ディカプリオにも似ている彼女が難役を見事に演じきっています。