やっと観ましたよ。鬼才クリストファー・ノーラン監督「TENET/テネット」(2020年)をご紹介します。
"Довод / Tenet (Christopher Nolan, 2020)" Poto by Denis Denis
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※今回はネタバレです。本作をまだご覧でない方はご注意ください。
CIAエージェントの名も無き男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、キーウでの作戦の際に、壁から逆行する銃弾で何者かによって命を救われる。
この世に存在の無くなった名も無き男は、第三次世界大戦を阻止するために活動する謎の組織TENETにリクルートされる。
「時間逆行の技術を利用して未来から現在に兵器が送り込まれたら世界は終わる」とTENETの研究者から解説された名も無き男は、ムンバイで協力者ニール(ロバート・パティンソン)と合流。
名も無き男は、逆行弾から辿り着いた武器商人プリヤの情報提供により、ロシア人の武器商人セイター(ケネス・ブラナー)の存在を知る。
セイターが未来と通じて時間の逆行に関わっていることを知った名も無き男は、セイターの妻キャット(エリザベス・デビッキ)に接近。
ここから未来からの兵器「アルゴリズム」をめぐる争奪戦となり、名も無き男は未来から逆行して現れた謎の敵と対峙、さらには逆行セイターに追われる。
やむなく名も無き男も時間逆行に飛び込む。…
う~む!「TENET/テネット」もスゴすぎる設定。
本作は「時間の逆行」という概念が登場、複雑な時間の流れが難解ですが、ストーリーの肝になっています。
敵味方入り乱れて時間の順行と逆行が入れ替わる超複雑な展開になり、山場の10分間に渡る挟撃作戦はカオスになります。
で、終盤に伏線が回収されて謎が解ける作りなのです。
「映画で一番重要なのはラストシーン。そこを最初に構想する」と言うノーランは、観客を驚かせることが相変わらず好きですよね。
名も無き男が真相を知る直前のやりとりで、「やり方を変えたら別の結果もあり得た?」と聞いた名も無き男にニールは答える。
「起きたことは仕方ない。…それはこの世界の理だが、何もしない理由にはならない」。
これが「TENET」(信条)なんでしょうね。
ニールが去り際に名も無き男に言った言葉、「これは僕にとって美しき友情の終わりだ」は、不朽の名作「カサブランカ」のオマージュですね。
でも「カサブランカ」では、ボギーが警察署長の正体を知って、「これは我々の美しき友情の始まりだな」って言うんです。
(※名も無き男はニールに「でも俺にとっては始まりなのに」という)。
「無知は最大の防御だ」という台詞が劇中に何度もありますが、確かに知っていたら情が動き作戦が失敗するかも知れない。
だから最後にニールの正体を知った名も無き男(と観客)は、驚きと同時に切ない哀しみが…。
この後ニールは再びキーウに移動して名も無き男を助けに戻るのでしょう(※映画のオープニング)。
現実の残酷さを受け止めているニールの動機は、名も無き男との友情。
時を越えた友情は存在する。真の友情は時を物ともしない。…というノーランの信条でしょうか。
とは言え、何回観直してもはっきりしない部分がありますね。
挟撃作戦の間、セイターの気を惹くために逆行したキャットがなぜ酸素マスク無しでいられるのか?とか。
他には、ラストでニールは「あの鍵を開けることが出来るとしたら僕しかいないでしょ?」とヘリに戻るアイブス隊長(アーロン・テイラー=ジョンソン)に尋ねてから名も無き男に言いました。
「僕の役目だ。だから戻って過去を作る」。
ニールが過去に戻り、もっと良い結末にするかもしれない、とか。
解釈の仕様によってはもっとハッピーな結末だった物語にもなるかも?
でも、ノーランは観客に想像させる狙いを持つ監督なので、人それぞれ、その時々の解釈が正解なんだと思います。
本作はノーランが今までの作品で培ってきた技術と発想の集大成ですね。
ノーランはヒット作を連発してきた実績ある監督だから「TENET/テネット」を撮れたと思いますが、ホントやりたいように好きに本作を作ったんだな…とは思いました。
もちろん、ノーランの発想は天才やわ~とも。
家族の愛は夢空間を越えるのかを描いた「インセプション」、次元と時間を越えるのかを描いた「インターステラー」。
真の友情は時間を超えて相まみえるのかを描いたのが「TENET/テネット」。
ノーランはずっと「絆は時間や次元を越えて繋がり続けるか?」をテーマにしていますね。
不可能を超えるのか?と。
本作を二度観ましたが、途中で戻しては確認してまた戻りしながら観て、まだわからないところはあります。
いつかまた逆行、いや、観直そうっと。
さて、「TENET/テネット」は世界大戦による人類の破滅を未然に防ぐ物語でしたが、最新作の「オッペンハイマー」は、 世界大戦がはじまり人類を滅亡させる核兵器を作ってしまった男の物語ですね。
「オッペンハイマー」の評価は観てからにいたしますが、ノーランが皆で核戦争の危機という問題を共有して考える機会にしたい、という意図ではあるんですね。