今回は「彼岸花」(1958年)。娘の結婚めぐって父親の複雑な思いを小津安二郎監督が切なくコミカルに描きます。
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大和商事の重役・平山渉(佐分利信)は、友人の娘の結婚式に中学から親友の三上(笠智衆)が来ていないことが気になっていました。
実は、三上は一人娘の文子(久我美子)が、三上の意に反して家を出て好きな男性と同棲をしているために、こういった祝いの席に出席することに気がすすまなかったのです。
平山には妻の清子(田中絹代)との間に年頃の長女・節子(有馬美子)と高校生の次女・久子(桑野みゆき)がいます。
平山は妻とともに節子の縁談を探していました。
そんなある日、突然、平山を訪ねて会社に谷口(佐田啓二)と名乗る青年が現れて「節子と結婚させて欲しい」と言います。
広島に急に転勤が決まり時間がない、と。
戸惑う平山。そして節子の結婚に猛反対し、頑固になってゆきます。
平山が懇意にしている京都の旅館の女将・初(浪花千栄子)の娘・幸子(山本富士子)は、平山に「結婚する気がないのに母が勝手に次々縁談を持ってくるんです」と相談するのです。
平山は「好きな人がいないのなら結婚なんかしなくてじゃないか。若さを謳歌すれば良いのだよ」と、幸子には言うことができる。
でも、実の娘の結婚が突然現実になったら、いつもは静かな口調ですが、混乱し、頑なになり、部屋でステテコ姿でウロウロ落ち着きがなくなってしまうことも。
それくらい動揺し、複雑な思いを味わうのです。
妻の清子、次女の久子は、谷口と接して直感的に谷口が節子にふさわしい男だ、と見抜いて安心するのです。
でも平山は「なんで何回も会っていないのにわかるんだ?」と不思議でならない。
親友の三上に頼まれて、文子の勤め先を訪れた平山は、文子から「父は自分が一番正しいと思っていんです。でも私は幸せです」と言い、恋人と結婚をするつもりだと語るのですね。
時を同じくして、平山は節子のことで妻の清子に「あなたはいつも自分の考えが正しいと思ってみえます」と言われてしまう。
平山は「父親として心配なんだ。今はいいかもしれないが、この先何が起きるかわからないから良い話をお父さんは探してきたんだぞ」と節子に言うと、節子には「いい暮らしができなくとも、私は幸せです。もっと私を信頼してください」と言われる。
同時期に平山をめぐる三人の年頃の女性たちの話があり、そして平山と彼の友人たちは皆年頃の娘さんがおり、子の幸せを願いながらも寂しい思いをしているわけですね。
そして気持ちをいかに整理してゆくか。このあたりが非常に巧みに描かれております。
突然の娘の結婚に直面した父親の心情を描いた非常にいい映画でしたね。
男親は娘の結婚に際して平山たちのような気持ちを抱えるものでは。
音楽も良い。昭和感もいい。寂しさを漂わせるお父さん達の姿も良い。夫の平山をお見通しな妻・清子も良い。
さいごにこの作品から名言を3つ。
「子は親の思うとおりにはいかないものだねえ」。
「親ってもんは子どもが幸せなら親も幸せなんだよ」。
「本当の結婚とは真鍮を金にすることなんだよ」。
(※2016年4月23日の過去記事をリブログしました)