今回は「恋する惑星」、「花様年華」のウォン・カーウァイ監督脚本「グランド・マスター」(2013年)。
時代に翻弄された拳法の達人の人生を描きます。
"The Grandmaster" Photo by Wolf Gang
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舞台は20世紀初め。
中国北部のカンフー界の頂点ゴン・バオセンは老いています。
バオセンは自身の引退に際して一番弟子であるマーサンの気性の荒さを懸念していました。
そしてバオセンの心残りは南部の拳法を北部に伝承すること。
詠春拳の達人イップ・マン(トニー・レオン)と出会ったバオセンは、他流派であるイップ・マンの腕だけでなく、その徳に感心してカンフーの統合を託す後継に選びます。
この件でイップ・マン、マーサン、そしてバオセンの娘ルオ・メイ(チャン・ツィイー)の三者の人生が交錯することになります。
ルオ・メイは父の敗北に心を痛め、イップ・マンに果たし状を送ります。
拳を交わすルオ・メイとイップ・マン。
イップ・マンとルオ・メイの手合せの場面は愛のささやきに見えてきます。
プラトニックな愛。
主演の二人が儚くも美しいのです。
"Wong Kar-wai, The Grand Master" Photo by Shin'ichi Iwamoto
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イップ・マンは親が事業で成功して経済的に豊かで、美しい妻と子どもにも恵まれていました。
順風満帆なイップ・マンの人生は40代で突如として暗転します。
運命と時代に翻弄されて人生の春が一気に冬になってしまうのです。
一方、後継のマーサンがパオセンを殺害したことでルオ・メイは復讐に燃えるのです。
列車が爆走する駅での闘いは壮絶。
ルオ・メイは「後悔のない人生なんて味気ないものよ」と言いますが、彼女の悔いとはなんだったのか。
復讐に時間を費やしたことか。
それとも、イップ・マンとの愛を貫く人生を送らなかったことでしょうか。
"Wong Kar-wai, The Grand Master" Photo by Shin'ichi Iwamoto
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戦後、香港に流れ着いたイップ・マン。
経済的に困窮しても、彼はカンフーにしてもケンカの技でなく、見世物にもしない。
流派にもこだわらず、苦しいときも寡黙に美しく生きることを貫く生き方を選びます。
そんなイップ・マンはブルース・リーの師匠なのですね。
ブルース・リーも詠春拳を極めてジークンドーを作り、そして映画界、アメリカに渡って思想(人の道と人生観)を伝えたかったわけです。
この映画を観て改めて納得。
"Wong Kar-wai, The Grand Master" Photo by Shin'ichi Iwamoto
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ウォン・カーウァイ監督ならではのスタイリッシュな映像と色彩の美しさが息をのむほどです。
そしてセットが素晴らしい。
男女の愛を直接描かないカーウァイは本作では拳法の闘いでそれを表現。
このあたりが好きですね。
ウォン・カーウァイらしく、起承転結はふわっとはしております。
"Wong Kar-wai, The Grand Master" Photo by Shin'ichi Iwamoto
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人生においては、良いときもありますが、個人の力では如何ともし難い苦難が突如襲ってくるもの。
だから「人生はひいては返す波のごとし」。
そしてルオ・メイの言葉通り、悔いのない人生は無いでしょう。
「後悔のない人生は味気ない」と言うことで彼女は人生を肯定していたのでしょう。
それはイップ・マンも同じ。
苦悩に満ちた人生かもしれませんが、イップ・マンのように「それでも人生は美しい」と言えるかどうか。
そんな気が致します。
(※2018年1月11日の過去記事をリライトしました)