「ハムレットQ1」@PARCO劇場 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ウィリアム・シェイクスピア

演出 森新太郎

吉田羊/吉田栄作/佐藤誓/飯豊まりえ/広岡由里子/牧島輝/大鶴佐助

 

 とても面白かったです🎊 森新太郎さんらしい硬質で知的な演出。激情に溺れたりせずナチュラルにじっくり言葉を聞かせる役者たちも良かった。以下、長いです💦

 

 スルーしてもOK🙇‍♀️→他所でも詳しく解説されてますが「ハムレットQ1」の「Q1」について少し書きます。アルファベットは本のサイズを示し、当時の全紙を4つに折ったものを「四折本=クォート/quartro=Q」、2つに折ったものを「二折本=フォリオ/folio=F」と呼びます。「ハムレット」には3つの異なる印刷原本が残っていて、まずクォート判で1603年に出た「Q1」と、続く1604-5年に出た「Q2」、そしてフォリオ判で1623年に出たシェイクスピア劇作品集(「F1」)に収められているものです。現在、最も用いられているのはF1(またはQ2とF1を突き合わせて編集したもの)だそうです。

 そのF1と今回のQ1との違いは、まずセリフ量。行数にしてQ1はF1より1400行近くも少ない、つまりシーンやセリフがカットされてる。また、シーンが入れ替わりったり、言ってることや人物の造形が違ったりもする。全体的にハムレットの内省的かつ哲学的セリフは少なめで、物事がトントンと進んでいく感じです。しかも今回はハムレットを女性が演じるということで、いろいろ楽しみでした。

 

 舞台の下手後方に向かってスロープが作られ、スロープの先端は険しい山の頂のように天を指して尖っている。ほかには、舞台上手に手すりのついた台座が置かれているだけ。背景の図柄は、海氷が漂う海のようにも、ひび割れた大地のようにも見え、北欧をイメージさせます。全体的にグレイの濃淡による無機質な舞台だけど、照明によって、いぶし銀になったり漆黒になったりするのが綺麗だったな。

 

 ハムレットを演じた吉田羊さん、とにかくセリフが良い。最初の独白で心を鷲掴みにされました👏 転がるような滑らかな言葉、その一言ずつに感情と意味がこもっている。大袈裟に張り上げたりしない代わりに微妙に声のトーンが違い、それが1つの文になるとリアルな心情の吐露になる。思惟的セリフが少ないぶん行動派に見えるけど、その仕草や動きに女性ならではのしなやかさがあり、それが繊細な神経の持ち主だと思わせる。男性軍の中にいると小柄なので、却ってセリフや行動に現れる芯の強さが際立って見えました

 ポローニアス(佐藤誓)を過って殺した時はかなり動揺していました。また、女性が演じることで母ガートルード(広岡由里子)との関係は(例えば、マザコンではないか?とかいう)余計な邪推をすることなく、普通の母・子として受け止められた。終盤の決闘で、死に際のレアティーズ(大鶴佐助)の願いを受け彼の手を握り和解するところ、すごく良かったな。

 最後、毒が回ったハムレットは舞台中央に立って両腕を広げ、十字架にかけられた殉教者のような姿になり「天よ、我が魂を迎えたまえ」と言って死んでいきます。そのセリフからこのポーズにしたのだろうけど、両腕を広げ天を仰ぐ姿には、苦しみを背負って生きる現世からようやく開放されたという思いが感じられた😢

 Q1の大きな特徴のひとつは「To be or not to be ……」の独白が早い時点でされることだけど、それ、とても納得できました。この独白でハムレットは死後の恐怖を語り、この世の苦痛を甘んじて受けて生きる方がいいのではないかと悩み、行動を起こせない自分の臆病心をなじる。彼のそうした葛藤や逡巡が早い段階で分かるので、最後に昇華されるまでの経過がドラマティックに感じられます。

 

 Q1では、ガートルードは夫だった先王の殺害に加担していないどころか、クローディアス(吉田栄作)が殺したとは知らなくて、ハムレットに教えられてショックを受け、ハムレットがやろうとしている復讐に陰ながら協力するとはっきり言ってます。なので、最後にクローディアスがハムレットに飲ませるつもりだった毒入り杯をガートルードが飲んでしまうシーンで、クローディアスが慌てて止めたとき広岡ガートルードは王を見てしばらく思案する。そして、杯に毒が入っているのだと理解し、ハムレットの身代わりになる覚悟で飲んだのだと納得できました。

 

 クローディアスの吉田栄作さんが良かったな。ご本人の持ち味もあり、根っからの悪党には見えない。当たりはソフトだし誠実にすら見える。そんな彼がなぜあんな悪事を?と考えたんだけど、兄王へのコンプレックスがあったのかな。お兄ちゃんが持ってるモノは全部欲しがる次男坊😅 その兄の妃と王座と権力を奪うことで、兄に勝ちたいと思ったのか? 自分はその器(うつわ)じゃないのも知らず……。(同じことをプログラム内で栄作さんご本人が言っていて、答え合わせができた👍)。悪事を暴かれるのを恐れ執拗にハムレット殺害を企むという、泥沼から抜けられない弱さも栄作さんから感じました。

 そんなクローディアスだけど死にザマ(殺されザマ)は今まであまり観たことない解釈で、そうきたか❗️と思わず膝ポン(←死語💦)。すべてを暴いたハムレットが自分を殺そうとしていると悟ると、ハムレットに向かい合いって立ち、ハムレットが向けた剣先が胸に当たると身じろぎもせず、刺されるがままになって死んでいく。あの潔い表情は「さあ殺すがいい」だったのか「もう殺してくれ」だったのか……。私には、自ら堕ちた悪事の連鎖から解放されホッとしているように見えました😔

 

 佐藤誓さんのポローニアスが、浅はかで、王にお追従を言ってばかりいる、嫌なヤツだな~と思わせる廷臣でした😅(子供たちのことは大事にしてるけど)。

 全体を通して気になったのは、ハムレットは狂気を装うとき、いかにもという感じに声色を変えて喋ること。そこまでコミカルにせずとも、微妙なセリフ回しや演技で狂気を装うのではダメだったのかな? また、劇中劇やオフィーリア(飯豊まりえ)狂乱の場で歌うシーンが長く感じ、展開のテンポの良さが削がれてしまう気がしました。あの辺、もっとスパスパと進めて欲しかったかも。

 

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