團菊祭五月大歌舞伎「極付 幡随長兵衛」@歌舞伎座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

團十郎/菊之助/児太郎/右團次/男女蔵/新蔵/錦之助/九團次/新十郎/市蔵

 

 故・十二代目團十郎さんが持ち役として何度も勤めてこられた長兵衛を、現・團十郎が初役で勤めたのは2013年の新春浅草歌舞伎。これが、当時の海老さんがお父さまに教わった最後のお役になったのだそうです。公演当時の1月、十二代目は病床にあり人工呼吸器をつけていて、テレビ電話で話したのが最後だったと😢(十二代目は翌月2月3日に逝去されました🙏)。公演前月の12月に稽古の様子を撮影したものを病室にいる十二代目に観てもらい、その感想を手紙で丁寧に綴ってくれたそう。その中で「悪くないよ」と書いてくれていたと……。なので、長兵衛は現・團十郎にとって思い出深いお役でしょう。今回が4度目、團十郎としては初めて勤める長兵衛です。ようやく十二代目と同じ土俵に立てた。

 

 まず、冒頭の劇中劇「公平訪問諍」なんですが、これが毎度ながらすごく面白い👏 今回も手慣れた市蔵の坂田公平を筆頭に、達者な役者陣(吉弥、玉太郎、歌女之丞、右左次)。公平と慢容上人が争っているとき客の邪魔が入って中断した後、では続きはどこから……というときの、ワチャワチャと和気あいあいになるところが、良い一座なんだな~☺️という和み感があって、何度見ても好きです。舞台番の新十郎がまたすごく良くて、無礼な客(九團次)にキレてドスを効かせた声に変わるところ、スカッとする。結局、劇中劇は中断したまま幕になるんだけど、その続きを観たいと、いつも思いますねー。

 

 本筋です。團十郎の長兵衛、大変良かったです🎉 柔らかさのあるカラリとした粋な親分ではなく、眼光鋭く、ドロッとした闇を抱えた、孤高の侠客という感じ。骨太でどっしりとした落ち着きと貫禄があり、一本気だけど思慮深さも滲ませ、それゆえ皆から頼られ慕われ信頼されているのが分かる、実に “團十郎の長兵衛” になっていました。セリフの(特に語尾の)癖はまだ少しあるけど、独特の抑揚は和らいでいたと思うよ。

 

 劇中劇の最中、客がいちゃもんつけてるその場を収めようと、客席通路から登場した姿は大きく、なだめる様子には冷静さと説得力があり、そのあと顔を現した水野(菊之助)とのやりとりにも鷹揚さが感じられた。その水野から呼び出しを受け、死を覚悟してからの演技がとても良い。妻子や子分たちへの情をストレートに見せないところがむしろ切ないし、最後までカッコいい親分を装うところが團十郎らしい。「人は一代、名は末代……」のセリフには、怖気付いて逃げたという生き恥をさらすより潔く死んで名を残そうという、男の意気地を貫く気骨が感じられてよかったなあ。妻(児太郎)との別れでは突き放す辛さが感じられ、息子との別れではその将来を思う父としての優しさが見えました。

 水野の屋敷で対峙するところは、團十郎と菊之助のツーショットだけでも眼福なり😊(こういう絵面をもっと見たいのよ~)。お風呂を使う決心をする前に一瞬だけ腹をくくった表情を見せたね。湯殿での長兵衛と水野とのやり取りは真に迫るものがあり、その死に際(形)は美しかったです✨

 

 児太郎の女房お時、海老さん時代から相手を務めてきているせいか、夫婦としての姿がしっくりくる。夫の覚悟を悟ったあとは侠客の妻としての意気を見せ、衣装を着替えるのを手伝うところ、世話女房風の所作が自然で心が温まります。しつけ糸が残っているのに気づいてスッと取る何気ない動作に妻としての情がこもっていて、これが最後のお世話なのねと思うと、切なくなりました😢

 ちなみに、こういう “衣装を着替える” シーンもひとつの見せ場にするのって歌舞伎の面白いところだなといつも思う。一つ一つの段取りが面白く、今回は裃の着付けでどこに力を入れどこを緩めるのか、なんていうのが見えて興味深かった。

 子分たちのあれやこれやがまた楽しい。右團次の唐犬はスキッとした粋の良さや侠気が感じられた。その右團次を筆頭に、血気盛んな子分たち(男女蔵、歌昇、尾上右近、鷹之資、廣松、莟玉、男寅、蔦之助)が何気に華やかで、ずらりと並んだところはなかなか壮観。團菊祭やな~と改めて思いました。

 

 菊之助の水野は少々貫禄不足に思えたけど、品性があり、旗本のプライド(そして驕り?)が感じられた。それにしても、水野のような役を役者さんはどういう気持ちで演じるんでしょうか。水野は明らかにワルじゃないですか?🙄 前もって保昌(新蔵)や腰元と示し合わせ、お酒を注ぐふりをして着物にわざとこぼし、(長兵衛は悪い予感がして嫌がるのだけど)無理やりお風呂を勧める。湯殿では、長兵衛は当然ながら浴衣一枚で丸腰なのに対して、水野は槍を、近藤(錦之助)は刀を持ってこっそり現れ、2人して長兵衛を襲う。卑怯極まりないだろーがっ😡 古典作品によくある理不尽さって “ま、そういうお話だから” と大抵は許容範囲なんだけど、これは何度観ても受け入れ難いな。

 そういう水野というお役を、かつて菊五郎さんは何度も勤めているし、仁左さまも勤めたことある。悪モン風な人物造形にはしていないですよね。よく分からない😔

 そういえば、腰元が長兵衛に「着物が乾くまでお風呂にお入りなさいませ」と勧める所で客席から和やかな笑い声が起こりました。お話の顛末を知らない場合そこでクスッとなるの分かる。でもそれって実は “風呂場で長兵衛が騙し討ちにあって殺される” 悲劇への舵取となるセリフなんですよね〜💦

 

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