「リア王」@東京芸術劇場プレイハウス | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ウィリアム・シェイクスピア

演出 ショーン・ホームズ

段田安則/浅野和之/玉置玲央/江口のりこ/田畑智子/小池徹平/入野自由/盛隆二/上白石萌歌/高橋克実/前原滉/平田敦子

 

 イギリス人演出家ショーン・ホームズによる日本での演出作品の4本目。私は2020年の「FORTUNE」と2023年の「桜の園」を観ています。「セールスマンの死」はアーサー・ミラー苦手なので未見。古典作品を現代に寄せた(重ねる or リンクさせる)演出は好みなので本作も楽しく観劇しました。展開はほぼ原作戯曲通りですが、同族会社のワンマン社長が勝手し放題で……みたいな。

 

 前半は真っ白な舞台で、天井には何本もの蛍光灯。OA機器や給水機などが置いてあり、企業の一室のような空間です。リア(段田安則)が荒野を彷徨う後半になると後方の白壁(パネル)が取り払われ、剥き出しの舞台が広がります。根っこから引き抜かれた1本の木が宙吊りになっている。実際にはまだ出番ではないコーディリア(上白石萌歌)が後方に登場して右左にゆっくりと行ったり来たりする。

 前半の白い空間は “クリーン” な世界を象徴しているようだけど、リアにとっては綺麗事に囲まれた欺瞞の世界。いい人キャラのケント(高橋克実)エドガー(小池徹平)がその壁をぶち破って外に出ていくのは象徴的です。後半の荒涼とした空間は虚飾を剥ぎ取った真の世界で、そこでのリアは弱々しい一介の老父でした。芝居の最後、死んだ者たちが後方に亡霊のように並び、白壁が再び出てきて彼らを舞台から隠す。生き残った善良な3人=ケント、エドガー、オールバニー(盛隆二)が舞台前方に残り、リアの死を悼みます。

 

 時々、ブ……ンという小さい虫の羽音が聞こえてくる。最初はエドマンド(玉置玲央)が異母兄エドガーを罠にかける策略を傍白してるときです。その飛んできた虫をエドマンドが捕まえ白壁に押し潰して殺すと血のシミが付く。その後も人の災難が暗示されるたびに羽音がする。これは、後に盲目になったグロスター(浅野和之)が言う「人間は虫ケラ同然だ」というセリフからですね。「神々の手にある我々は、いたずら小僧の手にある虫と同じだ。ほんの気晴らしに殺される」😖 天井の蛍光灯が接触が悪くなったみたいに時々チカチカと点滅するのは、その度にリアの心の糸が切れていく、心が壊れていく意味だと解釈しました。時折どこからか微かに聞こえるゴォー……という嵐のような音はリアの心象を表しているのだろうか?

 

 段田さんのリア王、生身の人間の姿を曝け出していてすごく良かったです🎊 どちらかというと “陽” の気質のお騒がせ老人、前半の強引な我儘には呆れるけど、後半、失ったものの大きさを知って自分の愚かさにようやく気づいてからの、心を乱しヨレヨレになった段田リアの姿が愛おしい。娘たちに蔑ろにされても振るっていた権力と威厳を剥ぎ取られた姿は、本当にただの老人だった。気が触れ、かつて「王」であったことを微かに記憶していた彼がファーストフードの紙袋を王冠にして被ってくる姿が哀れ😢 コーディリアと再開するシーンで車椅子に乗って現れときは本当に縮こまっていて、理性を少しずつ取り戻しコーディリアを次第に認識していくところで、私はもう落涙でした😭 前半、2人の姉に怒りをぶつける時は強い口調だけど、後半の嵐のシーンでもセリフを絶叫調で喋ることはなく、静かに淡々と、時につぶやくように、弱々しく、やがて悲しみを押し殺すようにするセリフ回しがとても良かった。

 

 悪党たちが魅力的なんですよね👍 玉置玲央のエドマンド。彼は出番じゃないシーンでも後方にひっそりと居て、ことの成り行きをじっと観察していることが多く、その姿が少し不気味。無表情でスパスパと悪事を重ねていくところはむしろ痛快です。自分が私生児であることに対しての屈辱、その反動としての「なんでもできる、やってみせる」感が、クリアなセリフ回しの中にはっきりと見える。その彼が爬虫類的だとしたら、前原滉のオズワルドはなにか両生類っぽくて気味悪かった(褒めてます😅)。この2人はメガネをかけているんだけど、ものごとを二重の目で見ていて、誰にどう振る舞えば自分に有利かを探る人間ということ? それとも、素顔を隠しているということだろうか。

 

 姉2人は、この父親にしてこの娘ありというか、リア、ゴネリル、リーガンは似たもの同士に見えました。それでも2人の気質が微妙に違う、その見せ方が上手い。江口のりこのゴネリルは頭脳犯的で常に冷静に判断し、父に対して辛抱に辛抱を重ねつつも、裏で着々と奸計をお膳立てしていく性質に見えた。リアとの丁々発止のやりとりが痛快です。田畑智子のリーガンは感情が先に立つ激しい女で、勘が鋭く速攻で行動するタイプかな。遺産分けが終わった後さっさとハイヒールを脱いでスニーカーに履き替えるところがおもしろかったです。

 

 浅野和之のグロスターはリアと対極を成したりシンクロしたりする、リアとはパラレルの存在で、とても存在感があった。自分に惨劇が待ってるのに口笛吹きながらご機嫌で登場する、あの感じを出せるの、やっぱり浅野さんですね😆 息子エドガーとは知らずに死への道案内を頼むところは見ていて辛い。リアとの再会シーンはとても示唆的で、浅野さんと段田さんの役者としての味わい深さが滲み出る見せ場でした。

 

 演出意図が分からないところもあって、例えば、基本的にみんな現代服なんだけど、リアの3人の娘が同じデザインのピンクの衣装なんですね。老齢のリアが愛する末っ娘コーディリアと間違えて姉の方をハグしちゃうとか?……なんて思ったらそういうのはないし。3人同じ衣装というのは何を示唆しているのだろう。

 いちばん分からなかったのは、横に話す相手がいるのにその人に向き合わず、客席に向かってセリフを言う会話が結構あったこと。観客側に伝えるそのセリフに何か特別な意味があるから? 同行した友だちは、相手に伝えようとは思っていないことや真実ではないことを喋ってるんじゃないかと言ってたけど、そうだったのかなあ🤔

 

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