ナショナル・シアター・ライブ「ディア・イングランド」@(2023年) | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ジェイムズ・グレアム

演出 ルパート・グールド

ジョセフ・ファインズ/ジーナ・マッキー/ウィル・クローズ

 

 すっごーく面白かったー🎉 今年のローレンスオリヴィエ賞の、作品、主演男優、助演男優、助演女優、演出、振付、装置デザイン、照明デザイン、音響デザイン、9部門にノミネート(授賞式は4月14日)っていうのがす・べ・て納得❗️の、素晴らしい芝居でした。

 

 ガレス・サウスゲイト監督が率いるサッカー・イングランド男子代表チームの話です。ガレスは1996年のEURO(欧州選手権)準決勝でPKを失敗しイングランド敗退の要因を作ったことで “戦犯” 扱いされた過去を持つ。その彼が、低迷の続くイングランド代表の監督に就任。2018年W杯、EURO2020、2022年W杯という3つのトーナメントを通して、人との信頼関係や自分との戦いなど、代表チームの成長を描いたものです。

 サッカーの知識がなくても全く問題なく、お芝居として純粋に楽しめる。ハッピーエンドではないけど、ラストで爽やかな感動が込み上げきて、不覚にも落涙してしまった🥲 タイトルはEURO2020を前にガレスがファンに宛てた公開書簡の冒頭の言葉から取られています。

 

 脚本のジェイムズ・グレアムは、イギリス労働党政権の闘いを描いた「This House」、イギリス大衆紙の発行部数をめぐる競争を描いた「インク」、アメリカにおける政治的ライバルとメディアの影響を描いた「ベスト・オブ・エネミーズ」などを書いた手堅い戯曲家です。演出のルパート・グールドは「インク」でグレアムと組んでいる。

 

 ネタバレあらすじ→EURO1996準決勝、PK戦でガレスがシュートを外し「イングランドの夢は終わった……」と実況アナウンサー。再現されるその瞬間を今のガレスが眺めている。2016年、その彼がイングランド代表の監督に就任。代表選手たちはライバル心むき出し、出身別に固まる、などチームには亀裂があった。ガレスは選手たちを精神面から変えていこうと、スポーツ心理学者グランジをトレーニング・セッションのアシスタントにする。グランジは互いに信頼し合うこと、失敗したらという不安や恐怖と向き合うことなどを説く。ガレスのリーダーシップとグランジの訓練により選手たちは成長。2018W杯ロシア大会でPK戦を制するなど躍進し、ベスト4入りまで果たす。

 自分の役割は終わったと判断したグランジはアシスタントを退く。しかしイングランドは、その後のユーロ2020は決勝で敗退。そのPK戦で失敗した3人のカラードの選手が一部のサポーターから人種差別的言動を受ける。2022年W杯カタール大会準々決勝ではキャプテンのハリー・ケインがPKを外しイングランドは勝利への糸口を失う。傷心するハリーの周りに選手たちが集まり彼をハグする。地元イングランドの様子をレポーターは「私たちに怒りや絶望はない。今まで無かったこの感覚を敢えて言うなら、希望だ」と報道する。ガレスと選手はEURO2024への意欲を燃やす。終わり。

 

 最後、大事なPKを外したハリー・ケインはかつてのガレスの姿と重なります。そのハリーを真っ先に温かく抱きしめたガレス、いま彼はあの時の自分をようやく受け入れられたのでしょう。

 イングランド代表が抱える、サッカー発祥の地という自負、そこからくる慢心、PKに弱いという先入観、ファンの過剰な期待、それに応えねば勝たねばという重圧、応えられなかった時の苦悩と葛藤、多様性を受け入れることで生じる人種差別との戦い、それらもろもろの事象がスピーディーに展開していきます。ガレスは、個人あるいはチームの弱点をどう克服すればいいのか、失敗にどう立ち向かえばいいのかを考える。勝つことでしか評価されない世界にあって、負けた時それにどう対処するかでその人の真価がわかると言います。大事なのはその先にある勝利へ向かう姿勢だ、今ピッチに立つのは過去を清算するためではない、これから向き合う未来のためだと。

 シリアスなだけでなくユーモアもたくさん挟まれている。例えば、ほんのちょっとだけ出てくるテリーザ・メイとかボリス・ジョンソンとかリズ・トラスとか歴代の首相をパロディー化しておちょくり大笑いさせる、イギリスのこういうとこホント好き😆

 

 舞台美術が秀逸です。ロッカーのようなボックスと弧を描く照明を巧みに使ったミニマムでスタイリッシュなセット。ボックスを役者が動かすことで一瞬でシーンが変わる。照明の弧の部分には時々選手名やスコアなどが流れ、背景にウェンブリースタジアムが現れたり、実際の試合映像が映されたりする。練習やPKシーンではサッカーボールは出さず、役者の動きとボールを蹴る音と歓声だけで、ものすごい緊張感と臨場感が生み出されます。3人のカラードの選手がPK戦で失敗するシーンは、彼らがシュートするときサポーター(たぶん人種差別者)が選手を背後から壁のように囲みプレッシャーを表すという演出で、選手が感じる痛いほどの緊張が感じられる😰 とても上手い見せ方だった。

 

 ガレス役はジョセフ・ファインズ。懐かしい~。彼を見るのは映画「ベニスの商人」以来です。お兄さんのレイフ・ファインズを舞台や映画で見るたびに、ジョセフはどうしてるんだろうと気になってました。役者として活躍されていたようで良かった良かった。それはともかく、ヒゲのせいもあってか立ち姿やちょっとした仕草など実際のガレスに限りなく近かった。冷静沈着で思慮深そうな演技もよく、過去に自分がPKを外した時の気持ちを語るところでは深い共感を呼びました👏

 ハリー・ケイン役のウィル・クローズが、ハリーを(かなり誇張してると思うけど)口下手ながら一生懸命気持ちを伝えようとする愛すべき和みキャラに造形していました。W杯カタール大会でフランスと対戦する前にキャプテンとしてチームを鼓舞するとき、カッコいいことを言おうと長〜く考え抜いた末に「ワーテルローの戦いのパート2だ!」って言うんだけど、一瞬不安になって「……(ワーテルローでは)俺らフランスに勝ったよな?」って自信なさげに皆んなに確認する、その間(ま)の取り方が絶妙で大笑いでした😅 あー、ほんと良い舞台だったです〜。

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 演劇(観劇)へ
にほんブログ村

観劇ランキング
観劇ランキング

明日もシアター日和 - にほんブログ村