シネマ上映「ジゼル」@オランダ国立バレエ(2023年収録) | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

新演出/振付 ラシェル・ボージャン/リカルド・ブスタマンテ

オリガ・スミルノワ/ジャコポ・ティッシ/ギオルギ・ポツヒシヴィリ

 

 オランダ国立バレエ団にプリンシパルとして移籍した2人、オリガ・スミルノワとジャコポ・ティッシによる「ジゼル」観てきました。新演出・振付とあるけど割とオーソドックスなプロダクションで、とても質の高い、見応えある舞台でした🎉

 

 お目当てはオリガ! あのスーッとした透明感と気品……大好きなダンサーです。1幕のオリガ・ジゼルは聡明そうな雰囲気なんだけど、ひとたびアルブレヒトと会うと完全に可憐で無垢な少女に変わる。そしてほんの少し翳りをまとっていて何か儚げ。最初から悲劇性を感じさせるのは、生まれつき病弱であることに微かな早世の予感がしているからなのかな。ダンスは華やかでメリハリがあり、1幕では溌剌としたステップを見せる。

 アルブレヒトに「まだ帰らないで(←適当に書いてます🙇‍♀️)」と止められ恥ずかしそうに顔を逸らせたところに彼の手が肩にそっと触れたとき、ビクッとしながらも嬉しそうな笑顔を浮かべる。今までオリガには演技も良いという感想はあまり持たなかったので、この繊細な感情表現は新鮮でした。このあとも豊かな演劇表現を見せてくれます。

 狂乱シーンは、心がどんどん壊れていく過程の見せ方が丁寧。まず、アルブレヒトがバチルドの手を取ったのを見た瞬間、オリガの目が狂気を帯びて一瞬光る(ここのオリガをアップで見せたカメラワークと編集に拍手👏)。「嘘でしょ?」とすがるもアルブレヒトが顔を背けてしまったときに、完全に心を失ったように見えました。そこから次第に目が宙を泳ぐ感じになり、心がズタズタと壊れていくのが分かる迫真の展開でした😢

 ウィリになったオリガ、登場して最初の回転がすごくなめらかでスルスルと回る。浮遊感あるダンスも美しく、まさしく空気の中を漂っているような軽やかさ。アルブレヒトにリフトされて左右に移動するところは身体のしなりが流れるよう。そして聖母のような慈愛の眼差しですね。倒れたアルブレヒトを抱き起こすところはピエタ像が脳裏に浮かびました。夜明けを告げる教会の鐘の音を聞いてホッと安堵したオリガ・ジゼルの、人間的な柔らかい表情も良かったな。その、アルブレヒトを抱き寄せたところで大きな感動が湧き上がりました😭 互いの愛の力でアルブレヒトの罪は贖われたんだと感じて……。

 

 アルブレヒトのジャコポは絵に描いたような正統派ダンスール・ノーブル。佇まいからしてキラキラの雰囲気を纏った王子さま系で、オリガと並べば、その美しさと釣り合いにおいて完璧、サポートも盤石でした。ジゼルとは軽い気持ちとか、遊び半分のおたわむれとか、そういうの一切感じられず、それどころか、そのまま本当の愛に進んでいきそうな真っ直ぐな誠実さしか見えない。マラーホフと同じ解釈ですね。バランスの取れた長身長脚長腕もあってか、踊りは優雅なうえに大きく華やか、かといって決して雑だとか手脚を持て余しているようには見えず、テクニックもちゃんとある。なんかベタ褒めですが、この役に関して特に難点が見えなかったんで😊

 1幕の最後、ヴァージョンによっては従者に促されてその場から逃げ去るアルブレヒトもいますが、ここではジゼルの亡骸を胸に抱き寄せて嘆くところで幕という、その感情がそのまま2幕へと繋がりやすい、良い終わり方でした。その2幕でもエレガントなダンスをたっぷり見せてくれる。軸が安定していて回転には勢いがあり、アントルシャシスは爪先の先の先まで美しい。もっと続けて飛んでいられそうでした😅。2幕の最後も、舞台上手奥へ去っていくのではなく、ジゼルがくれた白い花を手に宙を見つめ中央から歩いてくるところで幕。余韻を残す美しい終わり方でした。

 

 ヒラリオン役は二枚目ふうの素顔を消して粗野な作りにしてあるのが良かった。森番の特権でしとめた野鳥をジゼルの母にあげるなどいいやつっぽいけど、大きなカゴを運んであげながら家の奥をしつこく覗いてジゼルがいるかどうか探る仕草をする。親切にするのは母に好印象を与えてジゼルの気を引くためというのが分かり、彼も芸が細かいです。アルブレヒトに対しては不敵な表情を見せるし、全体に無骨な感じがよく出ていました。そして踊りがかなり良かったです👏 森番らしくたくましくて力強い。特に回転やジャンプにパワーがあり、ダンスシーンが2幕だけなのがもったいないくらいでした。

 

 ミルタ役ダンサーがクールかつ凛とした雰囲気で気高さを感じさせる。ヒラリオンやジゼルの「もう許して🙏」という懇願に対して、プイッと横向くんじゃなくゆっくりスーッと顔を背けるの怖かったですー😱 ウィリたちの踊りにはドラマティックな動きも見られます。特に最初と最後は、ミルタを中心にその周りを囲む円形フォーメーションが象徴的でした。また、最後の方で、舞台前方でひざまずく(だったかな)ヒラリオンに向かって、隊列を成したウィリたちがザッザッザ……って感じで後方から近づいてくるところ、ゾゾッとしました🥶 

 1幕のペザントによるパ・ド・カトルも良かったです。1組目の男性のソロはキレと力強さがあり女性も溌剌としていて、エレガンスを抑え気味にした、良い意味で村人の感じが出ていた。2組目の男性は軽やかで回転系が見事、女性も音によく乗っていました。

 

 話は変わるけど、世界バレエフェスティバルでオリガを呼んでおいてジャコポを呼ばないってとても残念😔 オランダ国立バレエ団を招聘することはないだろうだけに、このペアを生で観たかったです。さらにいえば、スカラ座バレエのツートップ、ニコレッタ・マンニとティモフェイのカップルも呼ぶべきだよね😔 佐々木忠次さんがご存命だった頃のように、「世界」の冠に相応しいフェスティバルに戻ってほしい。まだ日本に紹介されていない世界的トップダンサーは大勢いるのに、という意味です。

 

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