「カム フロム アウェイ」@日生劇場 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

脚本/音楽/歌詞 アイリーン・サンコフ/デイヴィッド・ヘイン

演出 クリストファー・アシュリー

安蘭けい/石川禅/浦井健治/加藤和樹/咲妃みゆ/シルビア・グラブ/田代万里生/橋本さとし/濱田めぐみ/森公美子/柚希礼音/吉原光夫

 

 ネタバレ概要→2001年9月11日、ニューヨークで同時多発テロが起き、アメリカの領空が完全閉鎖される。世界中からアメリカを目指して飛んでいた旅客機のうち38機がカナダ、ニューファンドランド島の町ガンダーにある国際空港に着陸を余儀なくされる。人口約1万人の町民は、乗客乗員約7千人と動物19匹を受け入れるべく、自分たちの日常を中断して、食事や衣服ほか生活物資、滞在先や娯楽を用意するなど、彼らを迎える準備を始める。一方、乗客乗員たちはなぜ緊急着陸させられたのか分からないまま、何時間も機内で待機する。そこには国籍、人種、宗教、言語、性的指向、食事文化などが異なるさまざまな人が乗っている。ようやく飛行機から降りた彼らは町の緊急避難所で、NYで何が起こったのかを初めて知る。町の人たちの温かいもてなしに、不安を抱えていた乗客たちは次第に警戒心を解き、互いに信頼を深めていく。5日後、離陸許可が降りて彼らは去っていく。どちらの人々も普段の生活に戻るが今までとは何かが少し変わっている。10年後の記念の日、町民と町を再訪した乗客乗員は友情と絆を確かめ合う。終わり。

 

 「Come From Away」は「遠くから来た人」=町の人から見た「乗客乗員」のことです。劇中の「携帯電話をみんなが普通に持てる時代より前の話」「インターネットが使えるコンピューターがまだ珍しかった頃の話」というセリフが感慨深かった。あの事件はそんなに昔のことじゃないという感覚だったけど、23年前ってそうだったんですよね。

 

 初演は2013年。完成までの経緯は、あの日、世界中の旅客機がガンダーの空港に着陸したというエピソードをミュージカルにしたいとプロデューサーが呼びかける→のちに脚本、音楽、歌詞を手がけることになる、カナダ出身の I.サンコフと D.ヘイン夫妻が興味を持つ→10年後の記念日に夫妻はガンダーとその周辺を訪れ、地元の人や再訪した乗客乗員たちと会って話を聞く→集まった16000もの物語からミュージカルを創る。登場人物はすべてその時に出会った人たちからインスピレーションを得ていて、橋本さとしさん演じるガンダーの町長と、濱田めぐみさん演じるAA(アメリカンエアウェイズ)の機長は1人の人物をモデルにし、あとは3,4人の人物を融合したキャラらしい。

 

 感想をひとことで言うなら「ユニークで難易度高い演出と、それに完璧に応えて演じる役者たちの力に驚いた🎉」ですかね。12人の役者が100人余りの人物および動物の鳴き声を演じる(1度出るだけの役も含め1人10人前途の役)。町民を演じてる役者が衣装や声色や身体表現などわずかな変化をつけて瞬時に飛行機の人になり、その逆も然り。個々の会話は断片的でそのサイクルは短く、ある2人の会話の直後に、その内容とは全く関連性なく、別の2人の会話が始まり、同じ内容で2つのペアが舞台の両端で交互に喋り……、そうやって100人余りの人のエピソードが同時進行しつつ5日間のお話が超スピードで展開していきます。人物の切り替えがシームレスというか、溶けていく感じ。

 役者さんは一瞬でその人になり切るわけだけど、役柄によって感情や心理の振り幅が大きいから心の切り替えも大変なはず。しかも、歌い、喋り、踊り、脳内では自分の次の役の準備をしながら、他の役者さんが次に演じる役のために小道具をサッと用意し、椅子や机を動かしていく(それによって舞台が機内に、街の避難所に、バス車内に、一般家庭に、パブに変わる)。誰かが段取りをひとつ間違えたら、1秒遅れたら、ドミノ倒し風に崩れていく、異常なほど緊張感あふれる演出作品です。

 

 オールスターキャストものだけど、皆さん華とオーラを消し去り完全に市井の人になっていた。役者さんごとにメインで演じる役があり、そのうち数人には、5日間の間にちょっとした悲喜のドラマがあり、将来を変えます。

 町民のビューラ(柚希礼音)と乗客ハンナ(森公美子)は共に息子が消防士であることから友情を築き、のちにハンナはNYにいる息子が救助活動中に死亡したことを知る😭 乗客のうち独身のイギリス人男性ニック(石川禅)とバツイチのアメリカ人女性ダイアン(安蘭けい)にはロマンスが芽生え、のちに結婚する😊 同じく乗客で同性カップルだったケビンT(浦井健治)とケビンJ(田代万里生)はストレスからすれ違いを起こし、のちに別れてしまう😔 NYっ子であるがゆえに他人を疑って生きてきたボブ(加藤和樹)が人を信じることを学ぶ👏 事件の日までスト決行中で町長(橋本さとし)と激しく対立していたスクールバスの運転手(浦井健治の2役め)たちは、飛行機の人たちを運ぶためストを中断、5日後にストを再開するけど、運転手にも町長にも譲歩する気持ちが生まれている👍

 そんな中で陰を落としていたのがムスリムのアリ(田代万里生の2役め)。彼に対する乗客の差別意識と偏見、孤立する彼の寂しげな目、個人的には彼のエピソードがいちばん胸に刺さったな😢 町民のビューラが彼に手を差し伸べるところでホッとするのだけど。

 

 愛する人を失う非情さも、心に潜むヘイトも見せる。メデタシメデタシや感動の涙で終わらず、5日前と全く同じではないけど前に進むだけ……という結びは現実味があるし、無償の善意によって得られるものの重さに気付かされました。 歌詞に頻繁に出てくる「ここにあなたは居ます」という言葉が胸に響いた。ごく普通の町民たちとごく普通の乗客たちは、私たちでもあるんですね

 

 客観的な観点での感想としては、群像劇風ではあるけど5日間の記録を “断片的に、叙事的に見せられている” 感が強かった。会話としてのセリフや歌のほか、今どういう状況なのかをナレーション風に客席に向かって説明するセリフも結構あり、その “ストーリーをテリングしている” ことが引っかかり、そこを会話と歌で見せてほしいんだけど、と思ったりね。さまざまな人の膨大な話を厳選して繋ぎ合わせた「エピソードのパッチワーク」風構成なんだけど、ちょっと詰め込みすぎと感じたりもしました💦 役者たちの演技は、全ての段取りが緻密に計算され、立つ位置、手足の動き、身体や顔の角度などが細かく決められているそうで、見方を変えれば、ナチュラルな演技の面白さはなかったな。最後に水をさすような締めになってしまった🙇‍♀️

 

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