三月大歌舞伎「伊勢音頭恋寝刃」@歌舞伎座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

幸四郎/魁春/雀右衛門/彌十郎/愛之助/菊之助/高麗蔵/彦三郎/橘太郎/廣太郎/吉之丞/市蔵/新悟/歌昇/錦吾/又五郎/亀鶴

 

 62年ぶりの通し上演というのが話題だけど、それは “歌舞伎座では” ということで、国立劇場では2015年に同じ形(相の山宿屋追駈け地蔵前二見ヶ浦太々講油屋奥庭)での通し上演をやっています。「太々講」だけカットしての通しは2021年にも上演してるし。ともに福岡貢は梅玉さん。私はいずれも観ていますが、こうやって通し上演を企画してきた国立劇場は本当に貴重な場でした。

 

 通しで観るとこれが “青江下坂” という名刀をキーアイテムにしたお家騒動のお話だということがわかります。冒頭の「相の山」で、大名家の家老の息子万次郎(菊之助)が、将軍家へ献上しなければならない名刀を、遊郭で遊ぶ金のために質に入れてしまったことが語られ、その名刀の折紙も万次郎が敵方に渡してしまうところが描かれる(折紙は、一般に上演される「油屋」でお紺が取り戻す)。「太々講」では、万次郎の家来筋である福岡貢(幸四郎)の手に名刀が渡った経緯と、その名刀が妖刀となった因縁が分かります(「油屋」で貢がその名刀を持って現れ、終盤ではそれに操られるように人を斬る)。その間に挟まる「宿屋」「追駈け」「地蔵前」「二見ヶ浦」では、お家乗っ取りに関わる悪党たちとその証拠となる密書をめぐる応酬がコミカルに描かれます。

 

 その「追駈け」では密書の取り合いをめぐって、万次郎を裏切っている家来(廣太郎と吉之丞)と、万次郎の味方の家来林平(歌昇)の3人が客席降り👍 廣太郎が最前列のお客さん2人と楽しげに会話するという客イジリも😆

 続く「地蔵前」でもこの3人のギャグが面白いです。廣太郎が地蔵のフリをしたり、井戸の中に隠れた吉之丞の綱が切れたりと、2人のとぼけたやり取りが傑作。ここを観ると終盤の「油屋~奥庭」の展開などとても想像できません。

 「二見ヶ浦」の日の出シーンは様式美を楽しめる。でも、海辺なのにニワトリが鳴いて夜明けを告げ、水平線の向こうから夫婦岩越しに真っ赤っかの巨大な太陽がドドーンと昇るという、ベタな演出&美術で笑っちゃう😅

 そして、通しでもカットされがちな「太々講」もチャリ場ですが、展開として見応えありました。貢の叔母おみね役の高麗蔵さんが名刀を取り返してきて、とても説得力のある芝居を見せ、場をきっちり締めています👏 お家乗っ取りに加担する悪い2人彦三郎さん橘太郎さんコンビのあれやこれやも滑稽味があって可笑しい。

 それにしても、遊郭で遊ぶために刀を質に入れてしまったのにどこか悠長な万次郎。折紙もあっさり敵に渡しちゃうし、二見ヶ浦で(追われて逃げてきた)吉之丞とすれ違うと「あれに刀を預けたんだよね〜」と呑気に貢に教えるし、ことの重大さを全く分かってない感じが、オイオイ💦ってなりますね。

 

 いよいよ「油屋」です。幸四郎さんの福岡貢はもちろん盤石。初役は染五郎時代で、仁左さまに教えてもらったそうです(そうでしょう、そうでしょう😊)。元は武士である貢はぴんとこなの代表格で、イケメン、柔らかさと色気、キリリとした強さなど兼ね備えた役柄。イメージとして仁左さまが真っ先に浮かびますが、幸四郎さんもそのニンですね。前半と後半とで役の雰囲気が違うんだけど、焦り、戸惑い、喜び、怒り、驚きなどさまざまな感情表現を繊細に見せていた。特に、万野にやりこめられ、悔しさから溜まった爆発しそうな怒りをグッと飲み込むところ、そのあと、お紺に愛想づかしされて唖然とし最後はうろたえて帰っちゃうところまで、感情の表し方が素直で共感を呼ぶ。花道での惨めな姿も良かった。しっかり者の愛之助さん喜助との対照も面白いです。

 終盤の「奥庭」では殺しの様式美を味わえます。最初に遊女たちによる伊勢音頭の総踊りが華やかに始まり、その最中に血まみれの貢が丸窓を破って現れるという、陽と惨との対比が絶妙。妖刀に操られるように人を斬っていく幸四郎さん、しなやかな所作と相まって美しい限りでした✨ 殺戮に疲れ水を飲むため刀を放そうとしても握った手が開かず、トントンとやってポロッと刀が落ちる=妖刀の呪いから解放されるところは仁左さま型だろうか?(梅玉さんはソレやってなかったような)。

 

 お鹿はかつてのイメージだと頬紅を濃いめに真ん丸く塗って眉を垂れ気味にし、いかにも不細工にして笑いを誘う顔に作ってるの何かイヤだったんだけど、最近は少し薄めになりましたね。彌十郎さんはさらに、そういう漫画チックなデフォルメは全くせず普通の化粧だったのが好感を呼ぶ。年いっててちょっとガサツだけど人柄良くて情が篤い女性という作りでとっても良かった👏 その一途さゆえに、万野に利用されていたのが気の毒で哀れさが沁みます。そんなパパお鹿を後ろで新悟お岸がしっかり目で追いながら見ていたのが印象的でした。

 万野の魁春さんは派手に貢をいじめるのではなく、意地悪さの見せ方が程よいと言うのかな。「お前、悪いぞえ、ここが」って言って団扇で貢の胸をポーンと叩くところとか、団扇の柄で貢の頬をチョンと突くところも、大袈裟にやって周りに悪印象を持たせることまでは見せない演技が、むしろ性格の悪さ、陰湿さを滲み出していた😓 お紺の雀右衛門さんは売れっ子遊女の貫禄があり、本心ではないのにそこを隠して貢に縁切りを言う見せ所、手堅かったです。

 それにしても「油屋」の冒頭でお岸が貢を万次郎のいる大林寺にそのまま向かわせておけば良かったのにといつも思う。まあ、そうしたらお話しは始まりませんが🙇‍♀️

 私は “物語” が好きなので、「通しで上演されてこなかったのも納得」と言われるような緩慢な場があったとしても、通し狂言はお話として興味を覚えます。本作の通しはもう当分上演されないだろうから、魅力的な配役で観ることができて良かった。

 

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