映画ピーター・グリーナウェイ①「プロスペローの本」(1991年)@シアター・イメージフォーラム | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

 「〈特集上映〉ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティブ 美を患った魔術師」というタイトル&キャッチコピーで、グリーナウェイの映画4作品が上映されています。「英国式庭園殺人事件」「ZOO」「数に溺れて」「プロスペローの本」で、どれもマイケル・ナイマンが音楽を手がけている。私は日本での上映当時にこれらを観てまして、グリーナウェイの世界に速攻で魅了されたのでした。またスクリーンで観る日が来るとは😭

 

 1980年代から90年代に渡って日本でもその作品が話題になったグリーナウェイの映画はいわゆるアート映画で、公式ページで「偏執狂的」と紹介されているのは当たっている。彼が執着したのは構図、色彩、音楽。物語は二の次みたいなところがあり(個人的な印象です🙇‍♀️)、スクリーンをキャンバスに見立てて描いたような映像それだけでも楽しめます(観る人の好みによりますが💦)。その内容/お話はちょっと奇妙。再び公式ページの言葉を借りれば「アブノーマル」なところもあり、時にグロテスクで、プロットを追う観客が迷子になることも……😓 で結局、そこがアーティスティックで美しい!に到達するんですね。4作品のうち最も新しい作品(といっても1991年の作品)から感想を書きます。

 

 ストーリーはほぼシェイクスピアの「テンペスト」なのであらすじは割愛。実際、翻案ものだけどしっかり「テンペスト」でした。プロスペローは名優ジョン・ギールグッドが演じている。本作ではプロスペロー=シェイクスピアという捻りが加えてあり、彼が物語を構想し、演出し、演じ、自分が完成させたその作品を書くためペンを取る、みたいな枠組みになっている。なので、プロスペロー以外の登場人物のセリフも彼がしゃべり、演じている役者はクチパクもせず無言劇風に演じるのです。ギールグッドの朗々たるセリフが素晴らしく、シェイクスピアのセリフって詩だなあと再認識しました。他に、ファーディナンドをマーク・ライランスが演っていて若きの甘い麗しさにびっくり✨ キャリバンはダンサーのマイケル・クラークで懐かしかった〜。

 

 なんといってもその「映像美」がものすごいわけですよ🎉 ギリシャ神話の世界を思わせる背景、バロック風のデコラティブな衣装、細部にこだわった構図、光を反射あるいは吸収して表情を変える色、夥多とも思える調度品、それらを溶かしてひとつにまとめるようなナイマンの音楽。とにかくおびただしい色と物の洪水に圧倒的されます。それらが重層的に構成されていて、めまいがするようなマジカル&スペクタクルな世界に迷い込む。プロスペローの周りには無数の男女の妖精がかしずいて、そこに「饗宴」とも「狂宴」とも形容できる世界が広がっている。女神たちによる仮面劇シーンはもう too much という感じで、自分の感性が押しつぶされそうになりました。度を超えた豪華絢爛さは、一歩間違えばカオス化してしまう感じだけど、そこをギリギリ踏ん張ってアートの領域に踏みとどまってましたね

 

 タイトルの「プロスペローの本」(原題は「“Prospero’s Books”」で、“本” が複数形)というのは、彼が魔法を使うために読んできた24冊の本のことで、お話の展開に沿って、水の本、神話の本、幾何学の本、死の本、建築と哲学の本、植物の本、愛の本など……そしてシェイクスピアの全集ファーストフォリオ(戯曲36編が掲載されている)。最後に彼はそれら全てを海に捨てるんだけど、ファーストフォリオはあとで引き上げられたという終わり方でした。つまり「テンペスト」が掲載されているファーストフォリオはそうやって現代に残されているということですね。この辺はシェイクスピア好きなら “なるほど…ニヤリ😏” でしょう。

 とにかく凄まじい映画でした。観終わった後もしばらくグリーナウェイとプロスペローの世界から抜けきれなかったです。

 

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