「モンスター・コールズ」@PARCO劇場 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

原作小説 パトリック・ネス(原案 シヴォーン・ダウド)邦題「怪物はささやく」

脚色 サリー・クックソン、アダム・ペックほか

演出 サリー・クックソン

佐藤勝利/山内圭哉/瀬奈じゅん/銀粉蝶/葛山信吾

 

 泣きました~😭 最後に怒涛のように込み上げてくる感動というのか、共感?痛み? とにかく心が激しく揺さぶられた。この作品は、以前、イギリスのオールド・ヴィック劇場での公演が配信されたときに観まして、すごく衝撃を受けました。今回観るに当たって原作小説を再読したのですが、お話は知ってるのにやはり涙が😭

 上演までの背景を一応書いていおくと、2007年に乳癌のため47歳で逝去した作家シヴォーン・ダウドが、本作の構想(物語の舞台、登場人物、導入部)を書いたメモを遺していた→そのメモに作家パトリック・ネスが独自に肉付けをして2011年に小説に仕上げた(児童文学の賞であるカーネギー賞を受賞)→それをサリー・クックソンらが脚色して戯曲を書き起こし、2018年に初演(ローレンス・オリヴィエ賞ベスト・ファミリー・ショー賞を受賞)。今回の上演はそのイギリス版と同じ演出家によるものです。

 

 ネタバレあらすじ→現代のイングランド。13歳の少年コナー(佐藤勝利)は難病で療養中の母(瀬奈じゅん)と2人暮らし。コナーは毎晩のように同じ悪夢を見てうなされ精神的に消耗しているが、そのことは誰にも話せない。ある晩、彼の前にイチイの大木のモンスター(山内圭哉)が現れ「3つの物語を聞かせるから、そのあとお前が4つ目の物語を話せ」と言う。日を置いて現れては語るモンスターの物語は人生や人間の本質を突いてくるものだ。その間にも母の容体は徐々に悪化し、治療法も尽きて最期の時が迫る。

 3つ目の物語を話し終えたモンスターはコナーに「今度はお前の物語を話す番だ」と、コナーが見る悪夢の話をさせる。それは「深い闇が広がる崖から母が落ちかける。コナーは走り寄り間一髪で母の手を掴み崖から引き上げようとするが、コナーが握る母の手は少しずつ滑っていき、とうとう放れて母は底なしの暗闇に落ちていく」というもの。話し終えたコナーに怪物は「違う! 真実を話すのだ!」と迫る。コナーは抵抗するが苦痛の中で告白する。「ママの手が放れて落ちたんじゃない、僕がママの手を放したんだ。ママが落ちてくれればいいと思ったから。ママの死をただ待っている生活はもう耐えられない、こういうのはもう終わらせたいから」。すべてを吐き出したコナーは危篤の母と会い、その手を握り抱きしめる。終わり。

 

 コナーは母がもう長く生きられないことを最初から知っていた、でも、良くなると信じているふりをしなくてはならなかった、なぜなら母がそう信じてほしいことをコナーは知っていたから。そうやって自分を偽る日々は苦痛で、そこから解放されたいという思いから、早く母が逝ってくれることを願ってしまった……😢

 もちろんコナーは、母に死んでほしくない、治ってほしいと心底から思っています。だから、母の死を望む自分に強烈な罪悪感を覚え自分を責め、誰かに罰してもらうことで罪を償いたいとすら思うんですね。コナーの母の病状を知っている生徒や教師は腫れ物を触るようにコナーを遠巻きに見たり目を逸らしたりする。学校でも彼はとても孤独です。でも一部のいじめっ子(大津夕陽)からは暴力的いじめに遭っている。コナーがそれを甘んじて受けているのは、それが自分に与えられる罰だと思うからだし、いじめっ子だけが彼を真正面から見てくれるからでしょう。なんと複雑で辛い心境なのか😖

 そこに現れたモンスターはコナーに話す3つの物語を通して、人は善であり同時に悪でもありうること、思いやりがあると同時に身勝手でもあること、人に見られることで却って孤独感が深まることを伝え、人はさまざまな矛盾した考えを持つものだけど、重要なのは考えではなくどう行動するかだとコナーに諭すのです。母の死を望んでしまったという真実を認めたことでコナーのその考えは昇華され、彼は現実に目の前にいる母の手を取り「逝っちゃイヤだ!」と、もう1つの、本当の真実を伝える行動をとれたのでしょう。

 

 演出は一般的な写実風ではなく、抽象的かつ象徴性のあるスタイリッシュなもので、辛い話だけどじっとりとした湿っぽさは少ない。こういう演出ほんとうに好きです👍 舞台の両サイドにいくつかの椅子が並べてあり、天井からロープが何十本も垂れ下がっている。コナー役以外はメインの役のほかに群舞的な役割も果たし、出番じゃないときは椅子に座って、演技している人に小道具を渡したり椅子やロープを動かしたりする。

 ロープは束ねたりバラけさせたり丸めたりすることで、イチイの木の幹になり生い茂る枝になり根元の塊になる。ロープたちが生きているように自在に変化するのが見事です。モンスターがそこによじ登ったりぶら下がったりすると完全にイチイの木の精に見えるんですね。束ねられたロープ(イチイの大木)の横にコナーやモンスターが立ったところがシルエットになって後方に映し出される絵柄がとても美しかった。

 

 役者たちは皆すごく良くて彼らの演技にも圧倒されました。真実に向き合うことに苦しむコナー役の佐藤勝利くんはとても瑞々しく、セリフがクリアで感情の込め方も素晴らしい。悲しみや苦しみや怒りや焦りや訳のわからない焦燥感など、とても素直に丁寧にしかも全く自然に見せていて、ほぼ出ずっぱりの芝居の真ん中に立派に立っていた。たくましく美しい身体を自在に動かしてモンスターを演じた山内圭哉さんも説得力あるセリフ術でとても良かった。荒々しくて本当にコナーをとって食いそうな怖さとパワーを見せるけど、そのセリフには温かみとユーモアが感じられました。

 

 プログラム内の記事によると、ヨーロッパイチイの木は高さ20メートルほどにもなる大木で寿命も長く、1500年を超えて成長するものもあるらしい(樹齢4000~5000年とも)。それゆえ欧米では「生と死」「死や悲哀」の象徴であり、芝居の中でも「病を治す木」「癒しの木」とセリフで語られます。イチイのモンスターは確かにコナーを癒しににきてくれたのですね。また、古くから薬草として使われていて、近年、抗癌剤の成分が含まれていることが分かり医薬品としても活用されているそうで、コナーの母が最後に施された治療薬もそれだったのかな。

 

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