新国立劇場バレエ「ホフマン物語」@新国立劇場オペラパレス | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付/台本 ピーター・ダレル

音楽 ジャック・オッフェンバック/編曲 ジョン・ランチベリー

奥村康祐/奥田花純/小野絢子/米沢唯/中家正博/渡辺与布

 

 このバレエ作品、新国では2015年の初演後2018年に再演していて私は両方観ていました。プログラム内の解説によると、オッフェンバックによる同名オペラに基づき、ランチベリーが編曲、ダレルが台本と振付を手がけた、とあります。オペラ版は観たことないけど、ドイツロマン派の作家 E.T.A.ホフマンの「砂男」「クレスペル顧問官」「大晦日の夜の冒険」という全く関連性のないの3つの小説を繋げて脚色し、その前後を枠(プロローグとエピローグ)で挟んだ構成。

 E.T.A.ホフマンは言うまでもなく、バレエ「くるみ割り人形」の基になった「くるみ割り人形とねずみの王様」や、「コッペリア」の基になった「砂男」などを書いた作家で、私は彼の、ちょっと不気味&ユーモア味のある奇妙な幻想的童話が大好き!

 独立した3つの物語をオムニバス風に繋げたものなので、起承転結やドラマティックな展開があるわけではなく、1つの物語としてより、トリプルビル風に個々のエピソード、そこでのホフマンとヒロインや悪の化身とのやりとりを楽しむのがいいかなと。1つの物語として観る場合、それらを繋ぐ要としてのホフマンと彼を翻弄するリンドルフ&悪の化身のダンサーの力にかかっている。今回はそのいずれの観点からも楽しめる舞台でした🎉

 

 奥村くんホフマン、今回がロールデビューだったのか。奥村くんは前芸監のときは不遇でプリンシパルにはなったものの真ん中をなかなか踊らせてもらえなかったんですよね😔 その前芸監が持ち込んだ本作で主役を踊る許しをようやくもらったということでしょうか(←個人の想像です🙇‍♀️)。その奥村くん、期待の斜め上をいく素晴らしさでした。身体のラインが綺麗、表情豊かでちょっとした喜(怒)哀楽、人生の機微を丁寧に見せる。うぶな若々しさ、しっとりしたエレガンス、聖俗の間での葛藤、含め4人の女性それぞれに対する感情の違い、各幕の最後の見せ方まで、演じ分けが見事です。

 

 1幕では登場時の颯爽としたキラキラ感がまず印象的。人柄が良さそうなんだけど、ピンクのジャケット姿の伊達男を気取ってる風もあり、オリンピアに一目惚れした時の舞い上がり方が可愛く、魔法の眼鏡で騙されてしまうナイーヴさも見せる。人形振りするオリンピアとのダンスも、サポートしづらいのではと思うのだけど、とても良く、実際には自動人形と踊ってることで何か哀愁を感じさせるものもありました。

 2幕ではアントニアへの深い愛情がこもった眼差し、彼女の身体を気遣う優しさ、その彼女を死に追いやってしまったことへの深い絶望と悲嘆などを丁寧に見せていた。アントニアの幻想シーンではクラシックの正統ダンステクニックを発揮👏 気品ある立ち姿、女性を際立たせるサポートなどすごく綺麗。絢子さんとの相性も大変良いですね。

 3幕のホフマンは信仰生活に入ったという設定らしいんだけど、それゆえに、彼を誘惑するサロンのオーナー(ダーパテュート)の怪しげな圧やクルティザン(ジュリエッタ)の悪魔的妖艶さに争いきれず翻弄される姿にちょっと退廃味が。自分の影像すら与えてしまう奥村くんホフマンは、葛藤し鬱々と悩み弱々しさを見せるダンスや演技で本領発揮です。唯ちゃんとのアクロバティックな見せ場も難なくこなし、こちらも見応えのある幕でした。

 最後、ラ・ステラも失い心が空(カラ)になったような呆然とした表情が胸に焼きついた。ホフマンはプロローグとエピローグでは初老の男という設定だけど、奥村くんは髪にほんの少し白髪ラインを入れている程度で、無理に老け作りにしていないのも良かったな。

 

 絢子さんアントニアは儚げで、いかにも深層のお嬢さま風だけど、踊りたいという望みをはっきり見せて強さも感じさせ、ホフマンへの愛情表現は控えめながら一途な想いが伝わってくる。幻想でのダンスはエレガントで、柔らかな四肢の動きやラインが美しい

 唯ちゃんジュリエッタはハマり役👍 あの可愛いお顔がホフマンを誘惑するとなると妖艶さをまとった女王さまに変わるのすごいですね。流し目でホフマンを誘う表情がなんとも罪作り。奥村くんとのダンスも特にリフト系のポーズが美しく、且つ、パワーもあって圧倒されました。奥田さんオリンピアの愛らしくも無機質な人形振り良かったです。

 

 ホフマンの恋路をじゃましたくて仕方ない中家さんリンドルフは、プロローグとエピローグでのアク強い存在感が効いてます。下手の椅子に座ってホフマンを見ているだけなのにその視線の鋭さ、その黒い圧が……。そこに邪悪なものが漂っていて、そのあと3人の悪魔的キャラになりホフマンを弄ぶのと繋がりますスパランザーニの狂気じみながらもコミカルな可愛さ、ドクターの胡散臭さ、ダーパテュートのサドっ気ある悪魔っぽさ、それらの見せ方も面白い👏 奥村ホフマンとの対比も鮮明で物語に奥行きを作ってました。

 プロローグでのウェイトレスやホフマンの友人たちのダンスが溌剌としていてとても良く、スパランザーニとその召使2人とのコミカルなやり取りが傑作。サロンの踊り子たちのダンスには異国情緒が溢れ、ダーパテュートにお尻を鞭打たれる2人がやたら気になりました😅 総じて新国ダンサーの小芝居は大変よかったし、この作品自体、予想していたより随分楽しめました。

 

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