猿若祭二月大歌舞伎 昼の部@歌舞伎座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

新版歌祭文「野崎村」

鶴松/児太郎/七之助/彌十郎/東蔵

 鶴松、大健闘でした🎊 相当な稽古を積んだことでしょう。鶴松は故・勘三郎に才能を見出され、部屋子になった頃は勘三郎の「3人目の倅」とか言われてましたね。少しずつ芸の力も付けつつあったと思うけど、勘三郎の死でその進捗がややが滞ってしまった感があった。勘九郎&七之助は自分たちの舞台のことで必死だったから仕方ないよね。今回のお光のお役は七之助の推薦があったそうで、歌舞伎座で、追善公演で、勘三郎も勤めたお光という主役を張る、というのは凄いことだと思う👏

 

 暖簾をくぐって登場した鶴松お光は、すっきり綺麗なお顔ゆえ田舎娘の素朴な雰囲気は薄いものの、初々しい愛らしさがあり明るく溌剌とした感じ。なます用の大根を切る手が時々止まってぼーっとしたり包丁を鏡にして髪を直したり、これから祝言だわというソワソワした気持ちが伝わってくる。所作には多少の現代風味あり、そこがリアルとも言えるけど、なめらかさや柔らかさがもう少しあるといいなとも思ったり。訪ねてきたお染(児太郎)の美しさや着物の豪華さに一瞬息を呑んでたじろぎ、焦りと嫉妬がごっちゃになった反応も丁寧。“でも久松さまは私のものヨ” と、お染を冷たくあしらう様子が可愛らしい😊

 

 お染と久松(七之助)が心中まで決意していると知り髪を切ったお光、悲しみを隠そうとする健気さが見え哀れを誘います😢 2人が帰ることになり、駕籠で行く久松を見つめるお光はずっと微笑んでいたけど、私には作り笑顔、精一杯の強がりに見えた。その笑みも駕籠が遠ざかるにつれて消えていく。最後は感動ですよね。放心したように遠くを見つめる→左手に持っていた数珠がポトンと落ちるが気づかない→父がそれを拾いお光の手に握らせる→ハッと我に返り悲しみがどっと押し寄せて父にすがり付いて泣く……。大泣きするのではなく、抑えた感じで背中を振るわせる鶴松が感動を呼びました😭

 

 お染の児太郎は頬がふっくらしていて、ガタイが大きいので、線の細い七之助の久松とは、恋人同士としてはちょっと釣り合わなかったかも💦 それはともかく、久松に許嫁がいて今日が祝言という状況が分かっていないお染の場違い感がなんとなく和む😅 ホワンとした雰囲気だけど、久松への愛情表現は児太郎ならではの濃厚さ。自分たちのことしか頭にないというお嬢さんっぽさや児太郎から醸し出される色気でお光を歯牙にもかけず、お光をますます疎外された存在に見せます。久作の彌十郎は人柄良く優しい老人が板に付いている。久松とお光にお灸を据えられているときは本当に幸せそうで、2人が祝言をあげればこんな毎日を送ったこことだろうと思うと、急転直下の展開は彼にとっても残酷です。セリフには娘を思う温かみが感じられ、最後にお光の背中を抱く姿も泣かせました😢

 

 この芝居で面白いのは、お染「いっそ自害しちゃう」→久松「いえいえ私が先に」→久作「いや、わしが死んでから」→お光「あ、私も死にます」と言う😅ところや、花道で駕籠かきが暑いって言って裸になり体を拭いたりコミカルなリズムを刻んで去っていったり💦など、悲劇なのにのどかな喜劇味が入ること。とても古典的だし、なぜか哀れさが増すんですよね。

 

 

「籠釣瓶花街酔醒」

勘九郎/七之助/仁左衛門/松緑/橋之助/時蔵/歌六 

 偶然にも、ちょっと前に手持ちの “歌舞伎座さよなら公演(2010年2月)” のDVDで勘三郎が次郎左衛門を演った「籠釣瓶……」を観ていて、勘九郎も早くやらねばねーと思ってた頃に演目発表になったので、いよいよというか、ようやくというか、そんな気持ちで観ました。あの時も仁左さまが栄之丞でお付き合いしてくれて、八ツ橋は玉さまでした。

 

 勘九郎の次郎左衛門はお父さんをよくなぞりつつも、悲劇の中に狂気をはらんでいた。最初は八ツ橋(七之助)の妖艶さに吸い込まれ、最後は妖刀に取り憑かれる。同じように放心したような表情だけど、それぞれの場で見せる目の色の違い。八ツ橋を見る目にはキラキラとした輝きがあり、妖刀を見つめる目は感情なく空洞だったな。 

 中盤、皆の前で恥をかかされた屈辱をグッと飲み込み、気持ちを整理し、そこから「花魁、そりゃぁあんまり袖なかろうぜ」で始まる恨み言。次郎左衛門の辛さがグイグイと心に染み込んできます。皆が去ったあと九重(児太郎)になぐさめられるもその言葉は聞こえておらず「ことによったら……」と呟いたときのぼんやりした目は、決意の目でもあったような😔

 再び店を訪れ、お酒を注いだ盃を八ツ橋に向け「この世の別れだ、飲んでくりゃれ」の次のセリフから突然に変わった声にゾッとしました。ドロリとした、でもざらつきのある低〜い声。別人でした。「よくもわしに恥をかかせたな」と八ツ橋の打掛の裾を膝で押さえ、遺恨をぶちまける勘九郎が怖い。八ツ橋と下女を斬り殺し「籠釣瓶はよく斬れるなあ……」と刀をまじまじと見る表情には、悲哀とか屈辱感とか絶望とか復讐心とかを超えた、刀に魂を抜き取られたような、うつろな狂気しか見えなかった😱

 

 七之助の八ツ橋、道中の花道に差し掛かるところで振り返り微笑むのだけど(この、歯を見せる笑みには色々な解釈があるらしい)、七之助のそれは男を取って食いそうなゾクッとするような含みがあり、次郎左衛門の後の悲劇を予告するようにも見えました。すぐに元の澄ました表情に戻った顔もひんやり……。愛想尽かしのところは会場が水を打ったように静まり返りましたね。七之助は微かに悲しみの翳りを帯びていて、花魁の身の辛さを痛切に感じてしまいます。最後、次郎左衛門に一太刀されると、くるりと後ろ向きになり海老反りからスローモーションで倒れ息絶える、その最期は美の極みでした✨

 

 次郎左衛門の下男は橋之助。本来の二枚目キャラの気配を消そうと頑張っていたけど、ちょっときつかった。そもそも、そのお役のニンじゃないから気の毒でした。そしてそして、中堅〜若手中心の舞台をグンと格上げする仁左さま栄之丞声音高く歯切れ良く、浪人だけど柔らかな品があり、どことなく浮世離れした雰囲気を纏う。座敷の柱に背中で寄りかかる姿が絵になるほどの色っぽさ💓 障子をちょっと開けて八ツ橋が縁切りしているの確かめ、満足してサッと帰っていく姿すらカッコよかったー(出番が少ないのでちょっとしたとこも記憶に留めたよ😊)。

 

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