本「手紙・絵画・写真でたどるオスカー・ワイルドの軌跡」 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

著 ジュリエット・ガーディナー

訳 宮崎かすみ

発行 マール社(2023年)

 

 

 タイトルどおりオスカー・ワイルドの人生を綴った本です。ワイルドが好きで既にさまざまな本を読んできている自分には、内容的に格別な目新しさはなく、何らかの新説を立てているわけでもないのですが、本文約150ページの全ページにモノクロやカラーの図版が載っているのが特色のひとつ。本人や関係者の写真はもちろん、内容に関連した手紙や新聞記事、ホイッスラーやビアボームやビアズリーやリケッツなど関係者が描いた絵画やデッサン、カリカチュアしたイラスト、当時の様子を表す町の風景画や写真など、他分野にわたる豊富なヴィジュアル素材が、ワイルドが生きた時代を生き生きと蘇らせてくれます。ページをめくるのが楽しくなってくる。

 もう一つの特色は、著者の言葉を借りれば「可能な限り(ワイルドの作品の中に表された言葉や手紙などから取った)ワイルド自身の言葉をそのまま使って」おり、関係者(家族、友人、画家や文学者や役者、プレス関係者、ワイルドの敵対者など)が書いた関連記事や手紙の文も頻繁に引用していること。それにより、リアルに、時に生々しさをもって、ワイルド個人の姿があらわにされます。なので本書は、ワイルド好きとしては蔵書にしておきたい1冊です。ワイルド導入本としても面白いけど、ただし、小説や戯曲やエッセイなど彼の作品の内容についてはほとんど触れていません。

 

 ネガティヴな感想としては、ワイルドの生涯をたどっているのだけど、最終章「行き着いた先は監獄」での、彼を破滅に追いやった3回の裁判の描写が、他の部分に比べると詳細すぎてしつこくもあり、ちょっとうんざりではあった💦 イギリスでは1895年の刑法改正で「著しい猥褻行為」を犯罪にしました。男性同士の性行為が “違法” になったのです。ワイルドはこの罪で訴えられて有罪になり2年間の重労働つき懲役刑となるんですね。そのあたりの経緯をけっこう細かく追っているんだけど、読んでいて深い痛みを感じます。ちなみにこの法律は、女性同士の性行為を適用範囲から外してあるんだけど、本書によるとそれは「ヴィクトリア女王が “女性はそういうことをしない” と強引に言い張ったから」らしい😑

 

 それにしてもイギリスが、19世紀末になっても建前としての道徳至上主義にがんじがらめになっていたことに今更ながら驚かされます。小説「ドリアン・グレイの肖像」に対するマスコミの反発・拒否反応たるや、今のイギリスからは考えられない仰天レベルです。一部のプレスではそれゆえにワイルドを変態犯罪者扱いしてる😓 同時代のパリの社会・文化背景とは大違いです。それが、いつ頃からどういう経緯で現在のような社会通念に変わっていったのか、イギリスにおけるその辺の流れにちょっと興味ありますね。

 

 話は飛びますが、1997年のイギリス映画「オスカー・ワイルド(原題:Wilde)」ではワイルド役をスティーヴン・フライが演じてるんですが、これがまたハマり役でねー。そして、ワイルドの愛人アルフレッド・ダグラスは当時26歳のジュード・ロウがやっていて、もう美しいのなんのって、キラッキラですよ💖 アルフレッドの父でワイルド破滅のきっかけを作ったクイーンズベリー卿は昨年12月30日に亡くなったトム・ウィルキンソンで、狂気じみた怪演でした。また、ワイルドの終生の友ロバート・ロスをマイケル・シーン(TVドラマ「グッド・オーメンズ」の天使アジラフェルね😇)が演じているんですよね。賞レースにもちょっと絡んだ良く出来た映画でした。

 

 

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