文学座 附属演劇研究所 卒業発表会「三文オペラ」@文学座アトリエ | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ブレヒト

音楽 クルト・ヴァイル

演出 西本由香

 

 文学座研修科の卒業発表作品を観てきました。あらすじはwikiなどにあるので割愛しますが、1928年にベルリンで初演された音楽劇です。ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にした、不道徳でアンチヒーロー的犯罪者マッキースをめぐるピカレスク。彼に絡むのは、ロンドンの乞食たちを管理支配しているピーチャムその妻、マッキースとは軍隊仲間だった警察署長タイガー・ブラウン、マッキースに惚れ込んでいる、ピーチャムの娘ポリーとタイガー・ブラウンの娘ルーシーと娼婦ジェニー、さらにマッキースの手下たち、ピーチャム傘下の乞食たち、娼婦たちがうごめいて……。よくぞこのブレヒト作品を!と思ったけど、卒業公演だから登場人物が多いものを、というのがあったのかな。

 

 おそらくほとんどが20代だろうと思われる若い役者さんたちが、年配の役はもちろん社会の底辺でしたたかに生きる人間たちをめいっぱい猥雑にパワフルに演じていて素晴らしかったです🎉 老獪な年寄りピーチャムや、なかなかの曲者タイガー・ブラウンを演じた役者さん、すごく上手かったし、ポリーとルーシーも演技が達者で2人のバトルや、のちに互いに共感していくところ良かったです。ただ残念ながら、主役といっていいメッキースの役者さんは役のニンではないため物足りなかったな💦 悪党たちの親分メッキースはパワハラ気味で警察を賄賂で丸め込み、でも色気があって女にモテモテというアクのつっよーいキャラ、彼の存在次第で芝居のカラーが決まるくらいなんだけどね。若い人の中にはその手の役者さんがいないということなのかな。

 音楽劇だから歌も頻繁に歌うんだけど、ミュージカル俳優というわけではないものの、みなさん発声がちゃんと出来ているから歌が歌になっている。正確に言えば、クルト・ヴァイルの全くメロディアスじゃない曲をよく歌いこなしていました。決して上手いとは言えないけど💦中には美声の人もチラホラ、そういうとこが雑味感ある本作に合っていました。

 

 ブレヒト幕も含め舞台の使い方も良かったです。客席1列目と地続き(段差がない)のフラットな舞台スペース、中央奥に1段高くした矩形のミニステージを作り、そこに幕がかかっていてそれがブレヒト幕として機能(開け閉めするたびに一瞬でシーンが変わってる)。そこでの演技とその周りの、客席と地続きのスペースでの演技とがシームレス。最後、マッキースが絞首台に登るところでは高く台が組まれるんだけど、彼を救う “女王の伝令” を伝えるタイガー・ブラウンはその絞首台より高い位置にある出入り口から姿を見せるという、まさにデウス・エクス・マキナとしての現れ方で見事でした👏

 それにしても凄まじい風刺と皮肉が溢れた作品ですね。タイガー・ブラウンをはじめとする警察(権力)側の腐敗(=マッキース側に立って、賄賂はもらうし犯罪資料の隠滅もする)。庶民も決して同情を誘う存在ではなく、騙したり裏切ったり貧者からピンハネしたり。ブレヒト的な異化効果もあり、今の日本と重ねてしまってグサグサ刺さりました。

 

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