明治大学シェイクスピアプロジェクト ラボ公演「新ハムレット」@アートスタジオ | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 太宰治

キャスト&スタッフ 明治大学学部生

 

 明治大学シェイクスピアプロジェクトは明治大学主催のシェイクスピア劇上演組織で、今年で設立20年。戯曲の翻訳、演出をはじめとする制作、演技、企画運営、すべてを明治大学の学生が主体となって行い、毎年秋に本公演(大学主催の学校行事の一環)を打っています。私は数年前から観てきています。今回観たラボ公演というのは小スペースでの実験的な上演という位置付けらしく、今秋の本公演ではシェイクスピア「ハムレット」を上演するそうです。

 太宰治「新ハムレット」は今年PARCO劇場で木村達成くん主演のを観たばかり。シェイクスピアの「ハムレット」を換骨奪胎、ハムレットに太宰自身を投影させ、ほかの登場人物のセリフにも自分を重ねてたりしている作品です。

 

 原作「ハムレット」とはプロットが少し違うのでネタバレ概要→前王(ハムレットの父)が亡くなり、その妻ガートルード(ハムレットの母)と結婚した前王の弟(ハムレットにとっては叔父)クローディアスが王になる。ハムレットは、父の死、母の再婚、叔父への嫌悪、城内での孤立、恋人オフィーリアに関する悩みなどから、苦しみと悲しみで悶々としている。ハムレットの話し相手として城に招かれた友人ホレイショーは、ハムレットに「城に前王の幽霊が現れ、自分はクローディアスに殺されたからハムレットに仇を討って欲しがっているらしい」という巷での噂を伝える。侍従長ポローニアス娘オフィーリアがハムレットとの子を身籠もっていることが皆にバレる。彼女はガートルードに、子どもは産んで自分1人で育てると言い切る。ポローニアスは、ハムレットが責任をとってオフィーリアと結婚するつもりでいると知り、ハムレットに味方して、クローディアスが前王を殺害した証拠を突き止めるための朗読劇を提案。それを観た王は余計なことをしたとポローニアスを責める。ポローニアスが「私はあなたが前王を殺す現場を見た」と言うと、王は彼を刺し殺す。そこを盗み見していたガートルードはショックで入水自殺する。フランスに向かう船がノルウェー軍艦に攻撃され、乗っていたレアティーズ(オフィーリアの兄)は死亡。王はノルウェーとの開戦を宣言する。終わり。

 

 今回の演出では、上記の展開は劇中劇になっていて、まず、現代の青年が書籍「新ハムレット」を読むところから始まり、そこから彼がハムレットになって本芝居になります。そして最後、ハムレットの役者はセリフの途中で劇中の衣装を脱いで冒頭の現代の青年に戻り、残りのセリフを言って終わる(あたかも、書籍を読み終わったように)。そこにポローニアスを演じた役者がやはり現代服で出てきて「まだ起きてるのか」と声をかけると、青年が「あ、父ちゃん」と言って幕です。

 

 う~ん、とても残念という感想です。まったく現代性のない演出で落胆しました😔 そもそも大枠を作って劇中劇にした意図がわからない。しかもハムレットとポローニアスを親子にするって。「な~んだー💦」とクスッと笑えても、軽すぎないか? 劇中劇にすることで客観性は生まれるけど、そこには何らかの意味があるべきだと思う。なのに、これでは作品のもつテーマ性が無視されたままです。

 

 太宰も書いているように「新ハムレットは」とても個人的なお話で、青年(太宰)の感情、心理、考えなどが映されているのだけど、それは、父母への信頼と憎悪、恋人への愛と不信、ナルシシズムとエゴイズム、自己犠牲、自己憐憫、偽善やスノビズムへの嫌悪など、青年が抱く複雑な感情が普遍的なものとして表現されているわけです。

 また、執筆年は1941年7月で、その5カ月後に日本は真珠湾攻撃から太平洋戦争に突入していくという背景は無視できず、大戦に向かってひた走る不穏な空気漂う只中で書かれたこの作品からは、クローディアスの最後のセリフからも分かるように、太宰の反戦メッセージが読み取れるのです。

 

 このように、若さゆえのナイーヴで矛盾した悩みや、否応なく愛国を強いる為政者のいる社会など、作品におけるテーマ性は高く、現代に重ねて考えずにはいられないのに、そういうのに触れず緩くまとめてしまっている😔  太宰はハムレットとレアティーズを23歳、ホレイショーを22歳に設定しています。学生たちはまさに当事者として作品に携われるのに、他人事にしすぎていない? あの大枠を作ったことで、浮かび上がる問題を本の中での単なる話にして「かんけえねーよ」と突き放した作品にしてしまっていない? 若い感性や問題意識をもって作品の肝を際立たせ、その奥に深く入り込んだ舞台、荒っぽい作りでもいいから、学生ならではの鋭い斬新な視点で解釈した舞台を観たかった

 

 演技の上手さにバラツキがあるのは学生なので仕方ないとして、ハムレットやガートルードを演じた役者はセリフが身体に入っていて、それに伴う動き=身体的表現もかなり良かったと思う。しかし何と言っても、ポローニアスを演じた役者がプロ並みの上手さでした👏 微妙な気持ちの変化をしっかりセリフで表現できていて、キーパーソンでもあるタヌキ親父的なポローニアスが出来上がっていた。学部の3年生だそうですが、そのまま商業演劇の舞台に出ても通用しそうなレベルでした👍

 

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