ナショナル・シアター・ライブ「ベスト・オブ・エネミーズ」(2023年5月収録) | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

脚本 ジェイムズ・グレアム

演出 ジェレミー・ヘリン

デイヴィッド・ヘアウッド/ザカリー・クイント

 

 久しぶりに観るナショナル・シアター・ライブ(イギリスで上演された演劇のシネマ上映)です。大統領選挙を控えた1986年のアメリカで実際に行われた、民主党と共和党それぞれのサイドに立つ論客によるTV討論番組。そのドキュメンタリー映画が2015年に公開。それに着想を得て舞台版が書かれ、2021年にロンドンで初演されました。本作はその再演版です。

 これを書いた劇作家ジェイムズ・グレアムの他の芝居は、「This House」(イギリス議会下院の舞台裏を描いた作品)をロンドン上演版の配信で、「Ink」(メディア王マードックとイギリス新聞業界を描いた作品)を劇団俳優座による上演で観ました。2作品とも素晴らしかった。本作もすごく面白い🎉……と言っていいのだけど、政治的なお話は苦手な上に、内情をよく知らないアメリカの政治/大統領選を背景にしているため、セリフの意味するところが理解できなかったり状況が把握できなかったりして、置いてきぼりにされること多々あり😅

 

 ネタバレ大意→大統領選がある1968年、アメリカ3大ネットワークの中で視聴率において最下位だったABCは、ライバルであるCBSとNBCに勝とうと、民主党と共和党それぞれを支持する知識人に討論させるという選挙特番を企画する。選ばれたのは、民主党側に立つリベラル派の思想家ヴィダルと、共和党側に立つ保守主義者バックリー。それぞれの全国大会(各党が正副大統領候補を選ぶために開く大会)の中継中に2人のディベートを設け、それをTVで生中継する。討論は日を変えて複数回行われ、最初は冷静だった2人は回が進むに連れてエスカレート、やがて互いのプライバシーに触れる悪口雑言の応酬になっていく。終わってみれば、ABCは視聴率トップに躍り出るが、2人はメディアに対する1つの意見の一致に至る。終わり。

 

 終盤の討論の回で、ヴィダルはバックリーを「隠れナチ!(crypto-Nazi)」と言ってしまい、バックリーはヴィダルを「ホモ野郎!(←邦訳どおり。原文はqueer)」と言い返す。こうして罵り合いになると、視聴者はそれに敏感に反応し番組は興味本位のエンタメ化。おかげで視聴率で他社に勝ったと有頂天になるTV局の影で、当事者2人は自分たちのやってきたことを振り返る、その対比が絶妙です。

 TV局の視聴率競争に乗せられ、自分たちの言動に一喜一憂する視聴者を生み出したことで、そこに「政治」などない、自分たちは何か大切なものを犠牲にしてしまったのでは? と2人は悟る。人はメディアに囚われ、メディアは人に囚われる。では私たちは何を頼りに物事の真偽・正悪を判断すればいいのか、という問い掛けがされます。

 最初に書いたように政治的な内容は完全には理解できなかったこともあり💦 政治ドラマというより、私たちとメディアとの付き合い方のドラマだと、個人的には受け止めました。メディアは社会の現実や政治とどう関わるべきか、私たちはメディアに何を求めるのか、メディアを通して何を見極めるべきか……。メディアの責任や役割を考えさせられる作品という意味では、今の日本ではまさしくタイムリーですね。

 

 舞台中央に矩形の台が置かれそこに椅子が2つ。ボクシングのリングをイメージしているらしい。討論が終わるとそれに変わってデスクやソファやベッドが置かれる。後方に作られた2階部分はTV局スタジオの調整室で、TVモニターを模した3つの窓から、討論を仕切る司会者や他のスタッフや出演者の関係者が見えたりする。時々そこはTV画面になり、当時の社会的事件(パリでの学生たちによる反体制デモ、ベトナム戦争反対デモ、アンディ・ウォーホールへの銃撃、キング牧師の暗殺、ロバート・ケネディーの暗殺など)の関連映像が映されます。要所要所で変わる照明や、緊張感を煽る微かな音響がとても効果的。

 

 ドキュメンタリー映画から起こした脚本が実に素晴らしいです👏 とても巧みに構成されていて、硬質ながら機知に富み、時々挟まれるユーモアも知的。1回の討論が終わるたびに両陣営は反芻し次回の戦略を練るんだけど、私たちもその時に討論内容を整理できる(分からない時もあるけど←しつこく言う😅)。演出はスタイリッシュでイキイキとしており、展開がスピーディーでシーン転換もシームレス。“舌を巻” くという表現を使いたくなるような、手慣れた演出でした。

 

 そして、膨大なセリフを自分の言葉として内側から吐き出す役者たちの手堅い演技に驚愕しましたよ。ヴィダル役のザカリー・クイントはセレブっぽい華があり、その仕草にはお洒落な粋が感じられる。喋る時のちょっと気取ったアクセントは実際のヴィダルを真似ているらしい。時にシニカルだけどユーモアもあり、隠れた知性を感じさせる。時々伏し目がちになったり視線をそらせたりする時に見せる陰りは、彼が背負っている悲しい過去と重なった😢(それが何なのかはプログラム内の解説で知りました)。

 バックリー役のデイヴィッド・ヘアウッドはスマートでいかにもNYのインテリ・エリートという雰囲気、所作も上品でとてもカッコ良いです。発言は自信に満ちていて曇りがなく、その場を支配する力も感じさせる。とにかく2人ともセリフが完全に身体に入っていて、演技とは思えないリアルなディベート合戦は本当に迫力があったー🎊

 それにしてもイギリスの演劇界はレベルが違う、というか、もう別次元ですなー(←ナショナル・シアター・ライブを観るたびに言ってるかも)。

 

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