三月大歌舞伎 仮名手本忠臣蔵「天川屋義平内」@歌舞伎座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

芝翫/孝太郎/幸四郎/橘太郎/松江/坂東亀蔵/中村福之助/歌之助/男寅

 

 「仮名手本忠臣蔵」全十一段の中でもあまり上演されない十段目。それを言ったら、二段目も八段目も観られる機会は少ないけど、十段目は仇討ち本筋と直接関係しないというところがネックなのかな。

 直近では2016年に国立劇場開場50周年記念公演として「仮名手本忠臣蔵」3カ月連続完全通し上演があり、私はそのときに「天川屋義平内」を初めて観ました。義平=歌六、由良之助=梅玉、おその=高麗蔵だった。面白くないとは特に思わなかったですけどね〜。今回、芝翫の義平は骨太でとても良かったです🎊

 

 (めったに上演されないので)ネタバレあらすじ→摂津堺の廻船問屋・天川屋の主人・義平(芝翫)は、塩冶家への恩義から、討入りに必要な武具を密かに調達し鎌倉へ送る役を引き受けている。秘密を守るため、妻おその(孝太郎)には暇を出して実家に帰らせた。おそのの父(橘太郎)はかつて斧九太夫に仕えていたので高師直サイドに情報が漏れるのを心配してのこと。夜がふけたころ捕手が現れて送ったはずの長持を持ち込み、中に武具が入っているだろう、開けてみせろと迫る。義平がガンとして断ると、白状しないとお前の息子(4歳)を殺すゾと、息子に刀を向けて迫る。義兵が息子の殺害も辞さない覚悟を示すと、長持から由良之助(幸四郎)が現れる。すべては、義兵が信用できる男かどうかを試す芝居だった(ひどっ!😠)。由良之助は義兵の忠義心を褒め、仇討ちが終わったらおそのと復縁するよう促し、由良之助と、捕手に変装していた浪士たち(松江、坂東亀蔵、中村福之助、歌之助)は出立する。おわり。

 

 腹を決めた義兵が長持の上にドッカと座って言うセリフ「天川屋義兵は男でござる!」とか、由良之助が、討ち入りの合言葉を店の名から取って「天」「川」にするとか、けっこうキーポイントがあるんですよね。

 また、由良之助が義平の忠義に感謝して寸志を渡すんだけど、それはおそのの一房の髪と櫛簪。おそのが髪を切ったのは離縁されても他の男とは添わないという決意の証。由良之助は「100日経てば髪も伸びる、仇討ちもその頃に終わっているから、そのとき復縁すればいい」と言うのです。ここでは夫婦の絆も描かれているんですよね。

 

 芝翫の義平、座敷の奥から出てきた押出しが、まずとっても立派でした👏 荒磯の衣装を纏った姿はどっしりと大きく貫禄があり、侠客っぽくもあり、ちょっと渡海屋銀平とも重なり、ただの商人ではないと思わせる存在感。声も低く太くてセリフにも重みがあります。娘を実家に戻すなら去り状を書けと言ってきた義父をテキパキとあしらう小気味良さよ。その去り状に驚いて会いに来た妻を荒っぽく追い返すところは、内心では泣いている、その苦渋の思いがちゃんと伝わってきました。捕手たち(実は赤穂の浪士たち)との対決場面では、長持は絶対に開けない❗️真実は語らない❗️というきっぱりした態度に気概が感じられ、例の名セリフを吐くところはスカッとします。息子に短刀を突き付けられたときの一瞬の驚愕から、すぐにそれを隠して腹で泣くところでは、武士の忠義心を凌ぐほどの決死の覚悟を感じた。ただ、このあたりになって声が高くなるとセリフが聞き取りにくくなるのが残念だったかな。

 

 孝太郎のおそのはいかにも上方商人の女房といった風で、程よい所帯味と柔らかさ、夫と子を思う情が見えました。こういうお役は孝太郎ほんと上手いですね。

 由良之助は幸四郎です。長持からドバッと現れるところ、3階からの観劇だったので、背後の押し入れから幸四郎がこっそり出てくるところが見えてしまった😅 で、芝翫の義平に対して幸四郎は、由良之助としては線が細く重厚感も弱め。ここでは由良助の方が大きく見えないとまずいと思うので、これは残念でした。でもセリフ回しや所作には聡明さが感じられ、義平家族を思う人情味も十分でしたね。

 

 最後、由良助のお供をしていた義士4人が例の討ち入りの装束になって並び、義平を真ん中にして全員での絵面の見得がカッコ良く決まる👍 討入りが近いなという期待感が観ている方にも湧いてきます。実際、この次の十一段目が討入りの場だしね。「仮名手本忠臣蔵」通しでまた観たいです、もちろん十段目も省かずに。

 

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