シネマ上映 マシュー・ボーン「くるみ割り人形」(2022年収録) | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

振付/演出 マシュー・ボーン

音楽 ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

コーディリア・ブレイスウェイト/ハリソン・ドウゼル/アシュリー・ショー/ドミニク・ノース

 

 この作品、2004年の来日公演は観ているんだけど断片的にしか覚えていなくて、記憶を新たにするためにもと思い、観てきました。ボーンが翻案したこのお話は孤児院で暮らすクララが主人公で、bitter! → bitter! → bitter! … and a bit sweet という展開だった。全体に音楽のテンポが速く、90分でクララの世界を駆け抜けます。

 

 ネタバレあらすじ→意地悪なドロス夫妻が経営するブラックな孤児院、でもクララには思いを寄せる男の子がいる。経営者夫妻にはシュガーフリッツという傲慢な姉弟がいて、シュガーもその男の子に気があり、2人が仲良くしていると邪魔に入る。Xマスの日、慈善家にプレゼントされたくるみ割り人形をクララは気に入る。

 夜(ここからクララの夢)人間サイズになったくるみ割り人形の先導で、孤児たちはドロス夫妻に対して反乱を起こし、部屋の壁を壊して孤児院から逃げ出す。仮面を取ったくるみ割り人形はクララが慕う男の子だった。冬の王国で心を通わせる2人。そこにシュガーが現れると、なんと❗️くるみ割り人形はクララそっちのけで彼女とラブラブになり😱 お菓子の国へ飛んでいく。クララも天使の助けを借りて2人を追いかける。

 そこでは2人の結婚式が行われていた😫 幸せそうな2人を目撃し、失意のまま夢から覚めたクララはベッドに入ろうとすると、そこにはくるみ割り人形=思いを寄せていた男の子が。2人はシーツをつないだロープを窓から垂らし、孤児院を抜け出す。おわり。

 

 ボーンお得意の皮肉と風刺とブラックユーモアと、往年のミュージカル風エンタメ性が混在。夢の部分はクララの心象風景ですね。お菓子の国は、孤児院では美味しいお菓子は食べさせてもらえないクララの願望が生んだ世界。くるみ割り人形の心変わりは、孤児院にいる想い人はいつか自分より綺麗でリッチな子に心移りしてしまうのでは?というクララの不安を体現。結婚式の招待状を持っていないクララが最後にお菓子の国から追い出されちゃうのは、孤児院という隔離された世界が自分の居場所なのかという疎外感の現れかも。

 夢から覚めたクララが好きな男の子と孤児院から逃げても前途多難だよね……と現実的に考えてしまったけど、あれはクララの内面の解放、ビターな夢を見たことで乙女な夢想はもう終わりにし、少し大人に成長したという意味かな。

 

 で、戯画化してあるとはいえ、孤児院経営者の親子が意地悪すぎてかなり不快だったです😔 この幕は身体の動き/マイムで状況や過程を見せていくシーンが多いし、ボーン独特の振り、特に頭をカクカク動かす振付がちょっと苦手なんですよね😓 また、孤児たちが経営者に反乱を起こすところは何か無秩序に暴れ回っているだけに見え、ダンス的な動きをもっと入れてほしかったです。

 逃げ出したクララたちが向かった冬の王国では、くるみ割り人形がさらに6体も増殖するんだけど、これもクララの妄想&願望? 彼らがマッチョポーズを取りながら踊るところはいかにもボーンらしい趣向でニヤニヤしちゃった😊

 お菓子の国は本作のハイライト。ディヴェルティスマンは結婚式の招待客グループが踊るという設定で、リコリスオールソーツ、ニッカーボッカーグローリー、マシュマロ、ゴブストッパーと、イギリスのお菓子の名前がついていて、衣装もそのお菓子をイメージさせるデザイン。で、それぞれが、スペイン、アラビア、中国、ロシアを踊ります。どれもすごく楽しいっ👍 お菓子の国の入り口に立つ用心棒がまたコミカル意地悪男で笑いました。

 

 ダンサーたちの表情がとても豊かで、ダンスからセリフが本当に聞こえてくるよう。クララを踊ったコーディリアは喜怒哀楽を生き生きと表す素直な女の子で、ロマンティックな恋への憧れが砕けて現実に戻ったあと、自分の殻を破って外の世界に一歩踏み出すという行動力あるクララ役にぴったりです。

 くるみ割り人形のハリソンは少女漫画から抜け出たようなルックスで、まさにクララにとっての「王子さま」。彼の雰囲気から、移り気な性格なところも納得できますが、最後はクララの手を取るという面目躍如のところを見せ、やはり王子さまでした。

 シュガー(夢の中ではプリンセス・シュガー)を踊ったアシュリーはウェディングパーティーでくるみ割り人形と美しいPDDを見せてくれました。ボーン版「スワン・レイク」で王子役を踊ったドミニク・ノースが、ここでは意地悪な息子フリッツ(夢の中ではプリンス・ボンボン)役で、もうノリッノリで踊ってましたね😆

 

 舞台美術と衣装も良く考えられている。孤児院のシーンはグレイ&ブラックで覆われていて気持ちが沈むけど、孤児たちが逃げ出した冬の王国は白&フローズンブルーで心がここで浄化されます。お菓子の国はカラフル&ポップな世界でダンスともぴったり。

 最後はやっぱりハッピーな気分になって「ああ楽しかった!」となるけど、本作の場合、それは音楽の力が大きいのかもと思いました。ちなみに、いま生で観たいボーンの作品は「ロミオとジュリエット」です~🙏

 

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