「一谷嫩軍記」@国立劇場 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

芝翫/錦之助/孝太郎/児太郎/鴈治郎/橋之助/亀鶴/松江/吉之丞/玉太郎/男寅/竹松/寿治郎

 

 今回は「熊谷陣屋」の前に「御影浜」を置いた2幕ものという構成。さらに「熊谷陣屋」も、カットされることが多い冒頭部分からの上演。休憩入れてたっぷり3時間で、とても見応えがありました🎊  熊谷は芝翫なので、もちろん、一般的な團十郎型ではなく芝翫型です。

 

 最初の「御影浜」は1972年以来の上演だそうで、観られるのすごく貴重かも。これがあるので、続く「陣屋」でありがちな“唐突感”が解消され、お話の筋が通るんです。

 浜辺に石塔を建立した弥陀六(鴈治郎)が、その施主からもらった笛を百姓たちに見せているところに藤の方(児太郎)が通りかかり、笛は自分の息子(敦盛)のものと言って受け取ります。そのとき百姓たちが藤の方に、敦盛は熊谷に討ち取られたと伝えます。そこに藤の方を捕らえようと源氏方である番場の忠太(亀鶴)がやって来たので、藤の方は逃がれ、忠太は百姓たちに翻弄されるうちに誤って死んでしまう😓  弥陀六が、これは石に躓いて頭を打ち頓死したことにしようと説明しに行くところで終わります。

 というわけで、ここはチャリ場というか、全体にのんびりとした面白おかしい幕だけど、次の「熊谷陣屋」で、藤の方が敦盛の形見の笛を持っていた経緯、敦盛を殺したのが熊谷だと藤の方が知っていたわけ、弥陀六が陣屋にいた理由が分かる

 忠太を演じた亀鶴に程よい滑稽さと軽さがあって良かったな👏  百姓たちに振り回されるときのおどけた感じにはちょっと可愛らしさもあり、立ち回りはコミカルで死んで倒れた姿もマンガチック。でも、しっかり場を締める存在感がある。先月やはり国立に出ていた市蔵さんと同様に、貴重な役者さんだなと、いつも思います

 

 続く「熊谷陣屋」、まず陣屋に夫を尋ねてきた相模(孝太郎)の花道からの出があり、次いで、前幕の続きで、追われる藤の方が陣屋に逃げ込み相模に匿われる。そのあと相模と藤の方とのやりとりがしっかり入っていて、藤の方は、相模の夫こそ我が子の仇だと知るんですね。だからその後の藤の方の行動や心理がとても分かりやすい。また、梶原(松江)が弥陀六を引っ立てて来て詮議をするところもあるので、最後に弥陀六が出て来てその梶原を石鑿でやっつけるところと繋がります。

 芝翫型の熊谷は赤っ面で、そこに紅で疳筋を入れ、黒いビロードの綿入れの着付に、裃は赤地錦、派手だけど古風な出で立ちです。堂々として、いかにも東国の武将らしい荒っぽさも感じられる。そして外向的と言うのか、感情の出し方がストレート。敦盛を討った語りは派手で大きな動きを見せます。全体にリアリティーがあるんですね。

 首実検直前の制札の見得で、制札を上にして担ぐ見せ方は「身代わりとして討った小次郎の首」を意味しているとか、義経の謎掛けのような命令に従ったことを相模と藤の方にも読めるように見せているとか、解釈は色々あるようです。團十郎型の、制札を下にして持つ形との、役者がそこに込めた意味の違いを考えるのは楽しいですねー。

 首を見て詰め寄る相模と藤の方を熊谷が抑えるとこは割とあっさりで、その後、この首を藤の方に見せろと、我が子の首を相模に手渡すところが超・超感動的だった。我が子の首を両手で包み込むように抱え、相模が寄り添ってきて首を一緒に抱くと、その相模の肩を右腕で抱き寄せる。この“親子3人”の形が夫婦の情愛にあふれていて美しく、ウルッとなりました😭  「16年はひと昔、夢であったなぁ」もすごく情感がこもっていた。花道で一人になったところで呟く團十郎型では、熊谷の孤独、諦観、無常観が強調されるけど、芝翫型の場合は二重舞台の上なので、そこには相模がいて小次郎の首があるわけで、リアルな家族ドラマみたいなものを感じる。最後は引っ張りの見得で幕となります。

 

 芝翫の熊谷は押し出しが立派で重厚さがあり、そしてとても人間的だった。所作は一つ一つが丁寧で、感情を明確に吐露する演技もよく、とっても感動しました🎊  我が子を殺さなければならなかった悲しみの深さは忠義の精神を飲み込むほどのものであり、妻とともに息子の死を悼む姿が脳裏に焼き付いて、いまも思い出してはしみじみしてます〜😢

 孝太郎の相模に風格と円熟味があり、藤の方や夫への向き合い方の微妙な違い、母としての情の出し方も自然で、良い相模だったー。藤の方の児太郎も落ち着いた気品のある雰囲気を出していて大健闘〜。堤軍次は橋之助で、時代物のセリフ回しが板についてきたし、所作もきちんと楷書で勤め上げていた。着実に上手くなっていると感じたよ(←絶賛応援中😊)。

 

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