「葵上」「弱法師」〜近代能楽集より〜@東京グローブ座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 三島由紀夫

演出 宮田慶子

神宮寺勇太(King & Prince)/中山美穂/篠塚勝/加藤忍/木村靖司/渋谷はるか/佐藤みゆき/金井菜々

 

 三島由紀夫の「近代能楽集」は、能の謡曲を近代劇に翻案した戯曲集で、全8編あるうち今回は1954年発表の「葵上」と、1960年発表の「弱法師」の上演です。それぞれ能の「葵上」「弱法師」をベースにしているけど、登場人物や結末が能とは違っている。

 

「葵上」

神宮寺勇太(King & Prince)/中山美穂/佐藤みゆき/金井菜々

 ネタバレあらすじ→入院した妻を見舞いに来た夫の若林光(神宮寺勇太)。妻は毎夜、何かにうなされるという。そこに、光より年上の六条康子(中山美穂)が現れる。光と康子はかつて恋愛関係にあった。光の愛を取り戻したい康子は2人の思い出を語り出す。光は康子に再び惹かれかけるが、その思いを振り払って康子を帰らせる。そのあと光は思いついて康子の家に電話すると、康子が出て、夜はずっと家にいたと言う。そのとき病室のドアの外から「手袋を病室に置き忘れたので持ってきて」と頼む康子の声が。光はその声に誘われ、妻を残して病室を出て行く。寝ている妻が突然苦しみ出し死んでしまう😱

 

 病室に現れたのは嫉妬に駆られた康子の生霊です。妻を夜ごと苦しめていたのも、光を誘い出したのも康子の生霊だった。愛と嫉妬と欲望、生霊となるほどの強い情念……。

 ミステリアスな話だけど、実は曖昧な感想しか残らなかったな🙇‍♀️  たぶん初日から2日目ということで、神宮寺勇太くんと中山美穂さんの間にまだ濃厚なケミストリーが生まれてなかったのだと思う。若林光と六条康子のそれぞれの背景は見えるけど、2人は別々に芝居をしているように感じました。回を重ねることで関係が密になっていくはず。

 

 中山美穂さんは5年ぶり2度目の舞台だそうです。六条康子は過去に池畑慎之介、美輪明宏なども演じていて、パッションと怪しさを纏った裕福な女性。光を縛り付ける鎖、閉じ込める檻です。美穂さん、もう少し冷たい毅然とした佇まいと、熟女の色気、ゾクッとするような妖艶さがほしかったな。なぜ光が彼女の虜になるのか説得力があまりなくて💦

 神宮寺勇太くんは舞台単独初主演(初ストプレ)、私は初見の役者さんです。病身の妻を見舞うところは冷めた風で、しだいに康子のペースにはまって行く自分にいら立ちを見せ、完全に攻守が逆転した時は何か心地よさを覚えているようでもあった。光は受け身の役柄なので、その意味でも2人の間にもっと有機的な空気感がほしかったです。

 看護婦を演じた佐藤みゆきさん、死と生と性が混濁する三島の美学をイメージ化するセリフ回しがとても上手かった。演出面では、2人がヨットに乗ったときの思い出を語り合うとき、波打つ水面の映像が病室の壁に投影されます。戯曲のト書きでは実際にヨットが現れる指示があるんですよね。なぜなら、後にその帆が重要な象徴として機能するから。それがなかったのは残念でした。

 

 

「弱法師」

神宮寺勇太/中山美穂/篠塚勝/加藤忍/木村靖司/渋谷はるか

 ネタバレあらすじ→家庭裁判所の一室。調停委員の桜間級子(中山美穂)を挟んで、2組の夫婦が俊徳(神宮寺勇太)の親権を争っている。俊徳は5歳の時に空襲の戦火のなか両親とはぐれ、目を焼かれて盲目になったところを今の夫婦に拾われて養子となった。15年経ったいま本当の父母が現れたのだ。登場した俊徳は高慢で狂気を宿しており、生みの親も育ての親も奴隷のように邪険に扱う。夫婦たちが別室に下がった後、俊徳は残った桜間にこの世の終わりの話をする。桜間は彼の狂気じみた妄想は相手にせず、そんな俊徳に好意さえ抱く。桜間が部屋を去り一人になった俊徳は虚無の中に佇む。

 

 戦火で視力を失う直前に俊徳が見た焔の海はこの世の終わりの光景、耳に入ってくるのは人々の阿鼻叫喚の声。それは地獄絵として俊徳の脳裏に刻まれ、彼はその業火の中に永遠に取り残されてしまったんですね。それは絶対的な孤独の中で生きることだけど、終わりを迎えた世界の中で彼は支配者として君臨しているかのよう。でも、人を支配することでしか自分の存在を認識できないから、この世の終わりの景色を見られなくなったら生きていけないということ。なんて残酷な……😖

 目が見える人は形で判断する、言い換えれば、明いている目は形だけしか見ない、と俊徳は痛烈です。彼にとって手で触れるものは意味をなさず、確かなものは想念の中の世界のみ。なぜなら世界が終わった今、形あるものは失われ想念だけが残っているから。ところが桜間は現実的な応対をして、俊徳が生きているこの世の終わりの景色を奪おうとするんですね。桜間に毒を抜かれてしまったような俊徳が寂しげでした😢

 

 盲目の青年を演じた神宮寺勇太くんがすごく良かったです。高ぶっていくセリフの中に苛立ちと孤独、狂気じみた恍惚が見え、三島の世界観をきちんと表現していたと思う👏

 中山美穂さんの桜間は、合理主義で無感情、無機質でニュートラルだったのが、最後に俊徳に惹かれてフッと色を纏う調停員。そんな役だと思うけど、最初から普通に女性でした。そもそもの話で、美穂さんは映像の世界の役者さんだなと納得しました。

 2組の夫婦役の役者さんたちがとても達者で、舞台を引き締めていました👍  俊徳をめぐる真面目な親権争いが滑稽な茶番劇になっているのが実に皮肉です。

 俊徳がこの世の終わりを語るところでは、圧倒的な業火の映像が壁一面に投影されるんだけど、「葵上」同様、心象風景をそのまんまの映像で見せるのはちょっと安易に感じてしまった。それにしても、三島のセリフの美しさを損なわずに伝えるのって難しいですねー。

 

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