お目当てのひとつだったウヴェ・ショルツの「ソナタ」が中止になってしまったのはとても残念なのですが、どのパフォーマンスも素晴らしかったです🎊 1回きりの公演なのが本当にもったいない。
「ステップテクスト」 振付 ウィリアム・フォーサイス
スターダンサーズ・バレエ団(渡辺恭子/池田武志/石川聖人/林田翔平)
今年3月にバレエ団の公演で観ましたが、やっぱりすごく良い。まだ客席の照明が点いている状態で舞台にダンサーが登場し動き始める。遅れてきた観客が入ってきたり、始まっていることを知らずにパンフレットを見たりバッグの中を整理したりする観客もいて、それも含めた「作品」というところがいかにもフォーサイス。この時の振付はダンサーが腕を曲げ伸ばしするもので、これだけの動きなのにダンスだと感じられるものがあって凄いなと。
客席が暗くなっていよいよ始まると、基本はデュエットで(パートナーが変わることも)、関節を軸にしたシャープな動き、バランスを保った (回転というより)旋回、極限まで身体を動かしてからの静止、もたれ掛かり&それを支える瞬間など、緊張感をはらんだダンスの応酬です。ダンサーたちが引かれたり反発したりするところは、感情を持って相手と会話しているように見える。幾何学的な動きやコントラストの効いた照明、異次元への入り口みたいなものが描かれたパネルなども手伝って、動く抽象画を見ているようでした。
「二羽の鳩」よりPDD 振付 フレデリック・アシュトン
島添亮子(小林紀子バレエ・シアター)/厚地康雄(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)
全幕としてのこの作品って甘々の少女マンガ風で特に好きではないけど🙇♀️ 今回踊られた最後のPDD部分はダンスとしてとても良くて、全体のドラマが浮き上がってくるようでした。浮気をした青年が彼女の仲間から散々な目に合わされ、すご〜く反省してフィアンセの少女の元へ帰ってきたときのPDD。青年は許しを乞い、少女はそれを受け入れる。島添さんは少し悲劇をまとった寂しげな女性の見せ方が本当に上手くて、今回はそこに、ただの可愛いお嬢さんではない、芯のある少女の姿も見せていた。厚地さんは基本、誠実な男のニンだし、登場した時の深い後悔の表情に憂いが溢れ、許されてその少女を優しく包み込むまで、自然な表現だけどすごく胸にしみました。
本当はこのPDDでは、青年が本物の鳩を持って現れ、その鳩を椅子の背に止まらせると、もう1羽が飛んできて2羽の鳩が寄り添うという難しい演出があるんだけど、今回は鳩ナシ。鳩がちゃんと「演技」してくれるのか気になってダンスに集中できないので、いなくて良かった〜😅
「A Picture of You Falling」より 振付 クリスタル・パイト
鳴海令那(Kidd Pivot)/小㞍健太
「The You Show」(2010年)という作品の、全4パートのうちの1つだそうです。インタヴューで「男女の壊れていく関係性を表した作品。相手がいるけどいないような、会話があるようですれ違っていくような切なさがある」と言っていました。2人がいる場所を説明する、詩のようなナレーションが流れ、それがトーンを変えて繰り返される。海に近い家、風の音……。薄暗い部屋の中で踊る2人は過去を思い出しているような感じ。感情がほとばしる動きもあれば、距離を感じさせる空虚な瞬間もある。2人の駆け引き的なダンスが面白く、音楽と相まってとても叙情的でもありました。パイトの特徴である足が地に着いた状態で上体が大きくうねるような踊りが好き。これは全編で観たいと思いました。
マ・パヴロワより「タイスの瞑想曲」 振付 ローラン・プティ
上野水香/柄本弾(共に東京バレエ団)
アンナ・パヴロワにまつわるダンスをオムニバスにした作品「マ・パヴロワ」の中の1つ(ということですよね?)。風を感じて空を自由に舞うタイスがその喜びを身体いっぱいに表し、そのタイスをナビゲイトしていくアタナエルという感じなのかな。水香さんが柔らかくもしっとりとした雰囲気で、リフトされた時のポーズが美しかった。柄本さんも安定のサポートで佇まいはもちろんエレガント。流れるようなステップは軽やかで、最後の旋回リフトも素晴らしかったです。水香さんがあまり表情を作らないこともあり、2人のダンスには透明感があり、とてもストイックで神聖な雰囲気すらしたなー。
「スパルタクス」よりPDD 振付 デイヴィッド・ビントリー
佐久間奈緒/厚地康雄(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)
ビントリーがBRBを離れるシーズンに創った作品で、全幕で作りたいという構想はあるものの、まずガラ公演用に今回のPDDを振付けたのだそうです。スパルタクスと妻フリーギアの再会から、再びの別れを覚悟する場面のようですが、ビントリーの脚色として、最後にフリーギアがお腹に子供がいることを伝える振付があり、それを知ったスパルタクスが幸福を感じるみたいな情景があった。
全体にとても情感豊かで、静かだけどドラマティックなPDDです。佐久間さんは心情を丁寧に表現したダンスで、喜びと悲しみが入り混じる踊りの中に穏やかな深い愛情も感じました。一方、基本としてスパルタクスはマッチョなはずだけど、厚地さんが踊るとエレガンスが際立って、その分、妻への恋心と(死を覚悟した)別離の悲しみがより強く現れ、悲劇性が高まる感じだった。
「椿姫のためのエチュード」 振付 モーリス・ベジャール
中村祥子
ベジャールがクリスティーナ・ブランのために創ったマルグリットのソロですが、振付けた当時は全幕での考えがあったらしい……全幕で創ってほしかったー😩 死を前にしたマルグリットがアルマンを想っていとしさと悲しさに胸を痛めるところかな。運命を受け入れたマルグリットの孤独やアルマンへのほとばしる愛情が感じられた。他作品に比べるとベジャール色はあまり強くないように見えたけど、祥子さんがベジャールの振付を自分のものとして消化していたということなのかな。一つ一つの動きが美しくドラマ性を高めていました。床を染める紫のライトも綺麗だった。今回のプログラムの中で、もう一度観たいと一番強く思ったのがコレでした🎉
「M」 振付 モーリス・ベジャール
池本祥真(東京バレエ団)
英国ロイヤルハウス大改装後の杮落としガラ公演(2000年)にベジャール作品もプログラムに入り、「M」の金閣寺の(死が踊る)ソロと「ザ・カブキ」の由良之助のソロを合わせて一つの作品にしたのがこの「M」だそうです。ちなみにイギリス人はベジャール作品がイマイチ受け入れられないようで💦 その辺を考察すると面白そうですね。イギリス人大好きなクイーンの曲を扱った「バレエ・フォー・ライフ」も、イギリスでは一度も上演されてないとか😔(ブライアン・メイの話)。
ベジャールの振付言語を確実に身体に取り込みつつある池本さんが素晴らしかったです👏 後方から登場して手に持った刀をステージ前方に置き、踊った後その刀を下手から出てくる黒衣に預け、再び踊る。そのダンスは、指先、足先まで神経が行き届いていて、腕脚の動きとポーズは端正だけど鋭利な力を感じる。緩急の取り方も良いし、そもそもジャンプが綺麗だし回転にキレがある。そして作品の精神性を体現する表現力も十分にありました。
フィナーレ「火の鳥」より 振付 モーリス・ベジャール
全員
フィナーレがサプライズでした✨「M」のラストで舞台前方に倒れた池本さん、切腹した浪士ということかなと思っていたら、後方からワラワラと他のダンサーたちが登場。そこで池本さんが起き上がり全員が並んで挨拶と思いきや、柄本さんが池本さんを起こし、なんと「火の鳥」のラスト、火の鳥が灰の中から蘇るシーンを全員で踊ったのです😭 池本さんはパルチザンのリーダー(=火の鳥)、柄本さんは不死鳥、他のダンサーはパルチザン。皆さん自分のパフォーマンスの衣装のままというのも良くて、カンパニーの枠を超えて皆が一つになって踊っている印象が強くなる。とてもユニークで祝祭的なフィナーレでした。
ディレクターの小林十市さんはこのフィナーレに、今の社会状況の中での希望になるようにという思いを込めたそうです。「火の鳥」を無性に観たくなりましたねー。東バさん、そろそろ上演してほしいです🙏 カーテンコールには小林十市さんと構成&演出の山本康介さんの姿も。素敵な公演でした、本当にありがとう🙇♀️