「Birdland」/バードランド@PARCO劇場 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 サイモン・スティーヴンス

演出 松居大悟

上田竜也/安達祐実/玉置玲央/佐津川愛美/目次立樹/池津祥子/岡田義徳

 

 富と名声を手にしたロックスターのポール。そのワールドツアー最後の1週間で起こる出来事、露わになる真実……。作者は「夜中に犬に起こった奇妙な事件」の戯曲家、2014年のロンドン初演ではアンドリュー・スコットがポールを演じた……と知ったら観ない訳にはいかなかったのですが、う〜む、期待していたのとはちょっと違ったかな😔  ちなみに、ポールはレディオヘッドのトム・ヨークがモデルだそうです。💥以下ネタバレ💥

 

 あらすじ→ポール(上田竜也)は世界的人気の絶頂にいて、望むものは何でもお金で手に入る。モスクワ・ツアー中に彼は、ギタリストで旧友でもあるジョニー(玉置玲央)の恋人マーニー (安達祐実)を寝取り、このことをジョニーに話すと言われた彼女はホテルから飛び降り自殺。それを心の傷として隠し、ツアーの最終地ロンドンでは父(岡田義徳)と親子の会話を交わす。ポールはジョニーにマーニーとのことを告白し2人は決別。ポールはホテルを訪ねてきた少女(佐津川愛美)と一夜を過ごすが、彼女が14歳だったことで彼は窮地に陥る(イギリスでの性交渉の法的同意年齢は16歳)。ポールはそれを機に音楽業界の真実、非情を知り、それでもロックスターとして生き続けなければならないと悟る。

 

 作者はこの作品を「ロックとお金にまつわる戯曲」と言っています。性交渉同意年齢に達しない女と寝たことは暴行・虐待と取られることになり、ポールのスターとしての地位は危うくなるのですが、ポールがもう音楽を辞めて別の仕事をすると言うと「そうはいかない、レコード会社に対する膨大な借金がある」と知らされるのです😱  会社との契約は将来の収入を見越した上でのもの=お金の貸付けであり、今まで使ってきたのは彼の実際のお金ではなかった。借りているお金を会社に返すために彼は音楽を続けるしかない。ポールは「持っていたものは全部なくなったけど、もともと何も持っていなかった」と呟きます。彼の富と名声は資本主義社会が築いた虚構の上の幻だったのですね〜。

 ポールは以前から、常に誰かに見られている、誰かが自分をコントロールしていると感じていて、自分では何一つ決められないことに気がついている。彼は音楽業界の経済を回している一つのコマにすぎなかったわけで、自分は世界を手中に収めている、その世界で湯水のようにモノを消費していると思っていたら、消費されているのは自分だった。最後、自殺したマーニーが現れ、彼女がいま居るところを説明するんだけど、その、誰もいない何の音もしない灰色の世界は、ポールが置かれた現実世界と同じなのね😢

 

 だからこの作品はとても深淵な問題を提示していると思うんだけど、イマイチ胸にズシンと来なかったのは、ポールのキャラ作りが浅く単調、そもそも人物造形の方向が違うように感じたからかな。2時間強の出ずっぱりの中で緩急をつけるのは大変だと思うけど、ポールはラリっているような不安定さをずっと見せていて、その動きやセリフ回しがワンパターン、なぜそういう行動をとるのか、なぜあんなことを言うのか、その根底にあるものが見えてこない。本当は寂しがり屋さんなんだとかいうセンチメンタルなものではなく、自己が壊していく危うさ、多少の狂気が彼の中にあるのではないか。まあ、今回のが演出としての意図なのかもしれないけど。

 上田竜也くんはカリスマ性があってポールにぴったりだけど、残念ながらセリフが聞き取りづらい時が多々あったのと、セリフ術も弱かった。どの言葉を観客に聞かせたいのか、演出家はそこをディレクションしなかったのかな💦

 

 舞台上に不規則な形の可動式台が流氷のようにいくつも置かれていて、それがポールのいる世界。話が進むにつれて流氷台の数が減っていき、それはポールの精神がバラバラになって流れていくようでもある。そうやってポールの居場所、世界が小さくなり、最後、ポールが立つ流氷台は1つだけになってしまう……というのは分かりやすかったですね。

 時々、ポールと他の人が会話しているところがカメラで撮影され、それがそのまま後方のパネルに映し出されます。これはポールが誰かにに見られていると感じたときの演出だけど、あまり意味があるように思えなかったな😑

 タイトル「Birdland」はパンク・アーティストと呼ばれたパティ・スミスが1975年に出したアルバム内の曲名から取られている。その曲は心理学者ウィルヘルム・ライヒの葬儀についての歌で、その中でライヒは、亡くなった父の元へ行きたいような、ワタリガラスになった父と宇宙で交信するような体験をしていて、死の臭いが強く漂う曲/歌詞です。

 実際、ポールと父が会話するところは等身大のポールが見える良いシーンだった。ポールは世界中をツアーしているのに、配車の仕事でイギリス各地へ行けるのが楽しいと笑うお父さんがとっても愛おしかったなー😢

 

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