初春歌舞伎公演・Aプロ@新橋演舞場 | 明日もシアター日和

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 正月早々に海老さんに睨んでもらいたくて、初日の昼の部に行ってきました(どうして昼・夜の部をA・Bプロと呼ぶようにしたのかわからないなー)。

 

「天竺徳兵衛韓噺」

獅童/右團次/笑也/吉弥/児太郎/弘太郎/九團次/松江/友右衛門/海老蔵

 

 ケレンたっぷり、正月に相応しい派手で楽しい演目です。日本に恨みを持つ父親の遺志を受け継ぎ「ガマの妖術で日本転覆を狙う徳兵衛の活躍譚(←チラシ見出し)」という大きな話だったんですが、時間内に収まるように書き直してあるのかな、スピーディーな展開であっという間に終わったという感じでした。

 獅童さんは天竺徳兵衛、座頭徳市、中納言の3役で、早変わりというほどのものはなかったけど大活躍。東京では1年1カ月ぶりの歌舞伎公演で主役を張る獅童さん、初っ端で徳兵衛がアジアを渡り歩いた土産話をするところでは、トランプネタ、ヘンリー王子ネタ、天竺へ行って病気平癒、そのあと男子誕生を報告と、タイムリーなネタ満載でした。

 本水こそなかったものの、屋台崩しなど大掛かりな仕掛けがあります。徳兵衛が操るのはガマの妖術ですから、眼目はガマの妖怪。「スターウォーズ」のジャバザハットみたいな巨大ガマが登場し、その目が赤く光ってシューシューと煙を吐くところは、何年か前に六本木のミッドタウンに出現したゴジラのオブジェを思い出しちゃった。そのガマの上で大見得を切る獅童さんがカッコイ~。花四天との立ち回りでは着ぐるみのガマが登場し、トンボや見得を切るのがコミカルで可愛かった。

 そして、圧巻の宙乗りはつづら抜けで。獅童さん、宙乗りは歌舞伎役者人生初だって知りませんでした。そうそう、水泳のような動きを見せての六法も初めて見ました、面白いです。それから、梅津家に現れた徳市が木琴を奏でて姫を慰めるシーンも異国情緒があってユニーク……にしても獅童さんん、演奏と歌が下手だったのはワザと? 

 右近が独特の口跡で、しかもこもった感じになり、セリフが聞き取りにくかったのが残念(私だけかな?)。確かに重厚で立派に聞こえるのですが、物語の状況説明を話していることが多いため、話の内容が掴みきれなかったです。で、足利義政役で海老さんが最後に登場。サービスシーンでした。

 

 

「壽初春口上」市川海老蔵「にらみ」相勤め申し候

 

 成田屋に睨んでもらったから一年間無病息災! 初春公演でにらみを見せるのは5年ぶりなのだそうです。今年はその前に、古式ゆかしい伝統行事である「仕初め/巻触れ」(座頭が巻物を解いて狂言の名題や役を発表)も披露。これは初めて見たかもしれません。歌舞伎の伝統を感じさせる、なかなか良いものでした。後見は斎入。

 

 

新歌舞伎十八番の内「鎌倉八幡宮静の法楽舞」

海老蔵/吉弥/九團次/廣松/笑三郎/右團次

 

 九世市川團十郎生誕百八十年ということで、九代目團十郎が選定した新歌舞伎十八番のひとつを百三十年ぶりに、新構想で上演したのだそうです。海老蔵が七役で踊りまくるもので、なかなか面白かったです。

 個人的には舞踊は苦手であまり見てないので、海老さんがどうだったかは評価できないのですが、もっと上手に踊る役者さんは大勢いることでしょう。でも、老女、白蔵主、油坊主、三途川の船頭、静御前、源義経、化生を踊り分ける海老さんの姿を見られたことで、私はオッケー、眼福です。「俳優祭」での「かぐや姫」のお婆さん役以来、老女に扮するのがお気に入りのようだし、静御前の柔らかさもあったし(海老さんガタイがしっかりしているのでやや辛いものがあるけど)、義経は麗しく、油坊主も可笑しい。

 油坊主から三途川の船頭への花道での早変わりは、ちょっともたつきましたね(ムシロと傘の仕掛けが丸見え)。本来ならかなり近くで見ても「え?いま何があったの???」ってくらいに一瞬にして入れ替わるんですけど、ここは千穐楽に向けて段取りの稽古を重ねたほうがいかも。

 最後の化生は、その妖気が舞台を覆うほどに素晴らしかった。鬼のような隈に白髪ふりみだした形相は「土蜘」と「黒塚」が合わさったみたいと思っていたら、実際、糸をパアッと巻き散らし、それがレースのように広がって綺麗だった~。最後は上人たちに追われ、桜の花が散る中、花道から引っ込み。髪や衣装にかかった花びらが、大きく動くたびにハラハラと客席に舞い散って、それも幻想的でした。

 吉弥の蛇骨婆が不気味面白くて、前がはだけた着物から肋骨が見えていて笑った。笑三郎の姑獲鳥もオドロオドロした感じが良い。海老さんを撃退する右團次が立派でした。

 今回、河東節、常磐津、清元、竹本、長唄囃子が一座に会して五重奏を披露するのも、歌舞伎史上初という目玉らしいです。海老さんが化生の装束と顔を準備している間、(間狂言の変わりとして)見せ場となるその華やかな演奏がありましたが、歌舞伎の音楽に関しては知識ゼロなので、それがどんなに凄かったかを語れません。奏者の皆さま本当にごめんなさい。