壽 初春大歌舞伎・夜の部@歌舞伎座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

今年の初芝居は高麗屋三代の襲名披露。まずは口上を見たかったので、初日の夜の部へ。

 

襲名披露口上

幸四郎改め白鸚/染五郎改め幸四郎/金太郎改め染五郎/幹部俳優出演

 

 父、息子、孫、三代同時襲名、本当にめでたいです。成田屋贔屓の私から見ると、高麗屋さん、羨ましいぞ。高麗屋は37年前にも三代同時襲名を行ったから、本当に恵まれているんだと思います、何に?というか……汗

 幕が開くと高麗屋を含めて22名が1列に並び頭を下げている。2段になっているかと思ったのですが、そうではなかった。もうそういう大掛かりな口上はないのかな。あと、猿之助がいなかったです。昼の部の「寺子屋」に出ているから、口上にも出演すると思ったのですが。

 さて、とにかく拍手がなかなか鳴り止まず、披露口上の藤十郎もここはたっぷりと時間を取り、ようやく顔を上げてご挨拶。藤十郎は声がおぼつかなくてヒヤヒヤしましたが、存在自体がその場を仕切るというさすがの風格でした。以下、藤十郎から上手へ順に。

 魁春歌六扇雀(長男虎之介が幸四郎と同じ誕生日……って無理やり関連づけるよだれ 染五郎は会うたびに男前があがっています)、愛之助(白鸚には小学生の頃から可愛がってもらった。幸四郎は同世代なので、この場で話せることも話せないことも、いろいろありましてニコ)、七之助孝太郎(白鸚や幸四郎とは夫婦役をやらせてもらってきたが、松たか子とも夫婦役をやらせてもらいました 笑)、又五郎(染五郎が犬のぬいぐるみの首輪を回しながら楽屋を歩いていたのを覚えています)、左團次(白鸚とは暁星小学校からずっと一緒だが、品性も知性もかなわなかった。学校が終わると、ばあやが白鸚を迎えに来たりしていた。白鸚は級長や副級長をやるなどずっと優等生だったが、自分は高校生になると踊りや歌のお稽古をサボってキャバレーに通っていた……え?……Queenly Queenly ガーン 汗かく人やら肩震わせる人やら。この歴史的にも稀有なる日に、左團次さん安定のキャバレーネタ キャッ)、吉右衛門(このあとの「勧進帳」では初代白鸚に教えてもらった冨樫を演じる、とだけで、エールもエピソードもなし。この日くらい血縁としての言葉があってもいいのにと思いましたが、どうなんでしょう)

 変わって下手から、梅玉(白鸚は弁慶を1100回以上勤めているが、自分も冨樫と義経を合わせるとその3分の1以上は勤めている。今後もどうぞ御見捨てなく。幸四郎は品格があって線も太くなってきた)、東蔵(染五郎が小さい頃に絵を描いた年賀状をくださった。白鸚とは同じ暁星小学校で、級長や副級長の印である金の腕章をつけていたのを覚えている。白鸚は芝居だけでなく頭も良かった)、鴈治郎彌十郎高麗蔵勘九郎(前回に三代同時襲名のあった37年前の10月にこの世に生まれました……ってニコ)、芝翫雀右衛門秀太郎(父十三代目仁左衛門は初代白鸚にいろいろと教わったので、父も喜んでいるはず)。

 白鸚はご挨拶の後半に歌うような抑揚が少し付き、白鸚らしいなと思いました。幸四郎はかなり緊張していたみたい。染五郎のほうが落ち着いていたかな。しっかりした口上でした。高麗屋親子三代、これからもすごく楽しみです。

 

 

歌舞伎十八番の内「勧進帳」

染五郎改め幸四郎/金太郎改め染五郎/鴈治郎/芝翫/愛之助/歌六/吉右衛門

 

 初日とは思えない完成度の高さだったと思う。幸四郎の気迫が最後まですごかったんだけど、それはただ勢いやパワーというだけではなく、主を守ろうとする弁慶の決死の思いとなってほとばしっていました。義経なんだけど同時に息子を自分の芸で守りたいという気持ちが無意識に出たのかなと勘ぐってしまったほど。もちろん、逆に言えば力が入りすぎているということだけど、初日だもん、当然だと思う。息子のこともすごく心配だったろうし、父として頑張らねばという気持ちがあっても不思議じゃない。そしてそのリキミも、日が経つにつれて取れていき滑らかになっていくんだろうと思います。

 とにかく声がグッと太く力強くなっていて、そこから醸し出される重厚さが、最後まで安定していました。見得も含めた所作は大きく綺麗。読み上げと山伏問答も熱がこもっていたし説得力があった。延年の舞にはダイナミックな中にも優雅さみたいなのを感じけど、もういっぱいいっぱいだったのかも(最初の方では柔らかさがほしかった)。花道で目を閉じ、再び開いて、舞台をそして天を見上げての一礼に、こちらも「ありがとう」と心の中で感謝していました。

 そして、染五郎の気品とセリフの清々しさといったら! 花道を登場したところからすでに放たれる12歳のオーラ キラキラ 発声やセリフ回しはこれから学んでいくことと思いますが、佇まいや所作の美しさはすでに十分ありました。

 

 そしてそして、吉右衛門の冨樫が、登場していきなり胸をわしづかみにされる素晴らしさで、あの第一声で芝居を一気に「勧進帳」の世界に引き込んだ感じ。セリフ回しの次元が違いましたね。そのあとも吉右衛門は真剣勝負。幸四郎に対して「食らいついて来い!」というような恐ろしいまでの壁で向かい合う。それに対して幸四郎にも、真っ向からぶつかっていく挑戦者としての潔さがあったと思う。2人がキッと目と目を合わせた時、叔父と甥という関係がリアルに見えてきて、じんわりきました。

 四天王が鴈治郎、芝翫、愛之助、歌六って豪華すぎるし、実際、すごく強そうでした。芝翫や愛之助は弁慶、冨樫をやる役者なんだから、そりゃあ強いわ。幸四郎は、彼らによって後ろからも支えられていたような感じです。弁慶たちと冨樫たちとがジワジワと詰め寄るところは、もんのすごい迫力だったし、絵柄も美しかったです。

 あと、飛び六法で手拍子が出なかったことが本当によかった。一瞬ヒヤリとしましたが、ここで手拍子なんてとてもできないという空気が勝ったようです。この習慣は定着してほしい。

 

 

双蝶々曲輪日記「角力場」

芝翫/愛之助/七之助/錦吾/宗之助

 

 夜の部の最初は「角力場」でした。愛之助が与五郎と放駒の2役。愛之助のつっころばし(与五郎)は、やっぱり良かった〜。以前より柔らかさがずいぶん出てきて、上方のダメダメぼんぼんの感じが自然になっていた。語尾に時々仁左さまが感じられたりしてキャッ 愛之助の関西弁、やっぱりいいなー。贔屓の濡髪を褒められて金品をポンポンあげちゃうバカっぷりとか、錦吾と見せた場所着をつかってのコミカルな引っ込みも面白かった。一方、放駒は安っぽい感じはあまりなかったものの、チョコマカした動きや着物をもらってそわそわ落ち着かないところとか、細かい芸で小物感が出ていました。何となく品があるというかお顔が立派に見えてしまったけど。

 濡髪の芝翫も大きくて、どっしりと構えた佇まいが板についていました。茶碗を素手で割って威勢を見せるところなどの動きもいい。ただ、声にやや重みがないのと、愛之助の放駒がちょっと派手に見えたのとで、2人の格差があまり感じられなかったです。