音楽 チェーザレ・プーニ
振付 アントン・ドーリン
出演 本島美和/木村優里/細田千晶/寺田亜沙子
1845年初演、当時の人気ダンサー4人が一堂に会して踊ったという伝説の作品で、これ、観たかったんだー。初演時のジュール・ペローによる振付は残っていなくて、1941年にドーリンが復元したのだそうです。
幕が開くと4人のダンサーが、よく目にする、初演時のリトグラフと同じポーズをとっていて、いきなり萌え萌え。寺田さんは小気味良い足さばき、細田さんは軽やかでフンワリした回転とたおやかな腕の動き、木村さんのしなやかさ、それぞれにうっとり。そして、私の大好きな本島さんの風格あるダンス。優雅かつ華やかなオーラが放たれ、全体を引き締めていました。
みなさん、アームスのラインがエレガント。片から腕にかけてのカーブや上半身の動きも柔らかく、ブルノンヴィル風でスウィ〜〜ト〜。ポワントを使うステップがけっこう多く意外に大変そうだけど、それを感じさせない流れるような踊りで、フワリと甘いロマンティック・バレエの香りに心が満たされました。
4人の競演なんだけど互いにライバル意識を持っていたというエピソードから、それをほのめかす少しコミカルなシーンもありました。それぞれのヴァリエーションに入るとき、最初に踊る寺田さん以外は舞台から一旦捌けるんだけど、細田さん(だったかなー)が「最初は私ね」とでも言うように、あるいは勘違いしたということなのか、そのまま舞台に残っていて、寺田さんと顔を見合わせ、寺田さんが「どうぞ袖へ……」とジェスチャーをすると細田さんが「あら、失礼」って感じで去っていく。あそこはクスッと笑うところなのかも。
そのあとは、次のダンサーが登場すると踊り終わったダンサーが「どうぞ」という感じで招き入れて交代する。これは礼儀正しいと受け取ればいいのか、慇懃無礼と解釈すればいいのか。まあ、ライバル心あらわ、というほどコミカルには見えませんでしたが。
「グラン・パ・クラシック」
音楽 フランソワ・オーベール
振付 ヴィクトル・グゾフスキー
出演 小野絢子/福岡雄大
盤石のパートナーシップによる惚れ惚れするほど端正な踊りでした。小野さんの、音楽を身体の中に一旦取り込み、それを再び身体の動きで表現する、メロディアスな美しいダンス。どのステップも正確で揺るぎなく、繊細な足さばき、ポワントでの移動、バランスキープなどは際立って見事です。福岡さんの、ノーブルだけど大きく力強いダンスに安定感があり、ジャンプには華やかさが。そして、サポートしながらも自身をきっちり美しく見せることも忘れていない余裕。この作品でいつも注目する部分があって、コーダでの、2人が同時に片膝をついてポーズというところ。小野さんはポワントのまま無理して福岡さんと合わせようとはせず、美しさをギリギリ保って綺麗に収めていました。
「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
音楽 ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
振付 ジョージ・バランシン
出演 米沢唯/奥村康祐
米沢さんの音楽性には、ただただ、感嘆しかありません。音楽に合わせてメリハリを効かせた表現、音符が立ち上がって見えてくるようです。特にヴァリエーション以降での早いリズムに合わせたステップに魅了。輪郭がくっきりしていてキビキビとした、かつ可愛らしいダンスです。華奢なのに体幹がしっかりしてるなーと感じさせるブレのなさが凄い。奥村くんがとてものびのびと楽しそうに踊っていました。変化を取り入れたマネージュも完璧。サポートにも無理がなく(フィッシュダイヴ、一瞬崩れたかな)、終盤のスピード感が爽快でした。まだ2人の間にドラマ性を感じるような一体感は伝わってこなかったけど、相性はいい感じだったなー。米沢X奥村で全幕モノをもっと見たい気分。
「シンフォニー・イン・C」
音楽 ジョルジュ・ビゼー
振付 ジョージ・バランシン
出演 米沢唯/福岡雄大/小野絢子/菅野英夫/池田理沙子/渡邊峻郁/木村優里/井澤駿
バランシンを堪能しました、素晴らしい〜。各楽章のペアの個性が出てましたね。米沢&福岡ペアは鉄壁の素晴らしさ。初っ端を飾るにふさわしい音楽性とダンス表現。第2章を踊った小野さんの、しっとりとしたメロディーに身体を委ねた情感あふれる踊りに陶酔しました。菅野さんのサポートは小野さんをきっちり引き立てつつ全体の雰囲気を壊すことのない、包み込むような優しい踊り。そして、渡邊くんが(贔屓目だけど)ほとんどプリンシパルと言っていいくらいのパフォーマンスでした。上体の動きが伸びやかで、軽やかなジャンプもいい。最後の木村&井澤ペアは、ヴィジュアル的に押し出しが良く、華やかでアップテンポのこの楽章にぴったり。木村さんのキレの良い動きがバランシンらしい。
そして終盤、群舞を含めた、たたみ掛けるようなダイナミックなダンスに胸が高まっていきます。みなさん、手足や上体の角度まできっちり揃えて踊れるのが驚異。ダンサーが増殖しているようにしか見えません。そして調和を保ちながらマッシヴな量感(といっても、重さは感じられず、むしろ軽やかに飛翔するという感じ)をもって、スピード感あふれる塊としての動きを見せた時の、圧倒的なパワーと美しさ。音が一つの流れになって、勢いを増しながらほとばしるような感じ。フィナーレを迎える時にはこちらの気持ちも最高潮に達していて、幸福感に満たされて終わるのでした。