Iさん(仮名)は、ずっと亡くなった息子さんのお墓参りに行きたいと言っていました。
しかし、家族は承諾してきれませんでした。
毎日呪文のように唱えます。
「お墓参りに行きたい」
夜中に巡視に行くと、Iさんは白目を向いて真っ青な顔をしていました。
意識はありません。
口の横には吐いたような後があります。
吐いた物が気管に入って、窒息しかかっていたようでした。
私は急いで吸引をしました。
するとIさんは意識を取り戻しました。
そしてまたあの言葉を繰り返します。
「お墓参りに行きたい」
後で気づいたことですが、この時がIさんの
「仲良しの時間」だったのです。
家族を呼びましたが、家族が来たのはIさんが息を引き取った後でした。
家族は、病院に入院してから昔とは違う態度のIさんが怖くて、病院になかなか来れなかったことを後悔していると話してくれました。
病気や認知症、死にゆく過程などの知識がなかったのです。
その知識を知った上で、Iさんとコミュニケーションをもっととっていれたらよかったなと思いました。
現代の死が身近にない人にとって、死にゆく人を怖いと思うのはしかたのないことかもしれません。
しかし、人間は必ず死にます。
もっと生きることと同時に死ぬことを学ぶことは、家族を看取るためだけでなく、自分の終末期を考える上でも必要なことだと感じました。
生前、息子さんのお墓参りに行けなかったIさんですが
天国で息子さんと仲良く過ごしていることを願います。